プレゼント

物語中毒者

第1話

 ある夫婦に「PRESENT」と書かれた一つの箱が送られてきた。

「ねー、なんかあなた宛てにプレゼントボックスが届いたんだけど」

「ん? 誰から?」

 送り主を確認しようとして箱の周りを探したら夫婦ともに知らない名前が書いてありました。

「開けても?」

「まあ、開けるだけならいいんじゃない?」

 夫が訝しみながら箱を開けると、そこには一個の帽子が入っていました。

「……いいな」

「ちょっと! 開けるだけっていったでしょ!」

 一目で気に入り被ろうとする夫を、妻が注意します。

「えー」

「えーじゃない! 誰から送られたかも分からないんだからさっさと戻して!」

 妻にそう言われ、夫は落ち込みながらしぶしぶ帽子を箱に戻します。

 しかし、その帽子が大層気に入った夫は諦められません。“本当は忘れているだけで知っている名前じゃないのか“と思った彼は知り合いに連絡して確認しようと妻に提案します。

 妻も送り主は気になったのか、夫の提案を呑み一緒に友人知人に連絡を取り出しました。

 しばらくして、夫が声を弾ませながら電話を切りました。どうやら、夫の友人の方に知り合いがいたようです。

「誰か分かった?」

「ああ! だから、な?」

「まあ、分かったらいいんじゃない?」

「っし!」

 早速被ってみたらとてもつけ心地がよく、夫は益々気に入りました。すごく喜んでいる夫を見て妻は呆れていましたが、数日経つにつれ次第に顔を顰めていきます。

 理由は、夫が一日中帽子を着け始めたからです。家に帰っても、風呂に入る時も、しまいには寝る時も決して帽子を外す事はありませんでした。

 五日後、流石に何かおかしいと感じた妻は夫に詰め寄ります。

「ねえ、その帽子脱ぎなよ」

「ん、なんで?」

「なんでって、あなたお風呂や寝ている時にも着けているじゃない」

「え? ……あ、マジだ」

 どうやら、夫はその事に今言われて気づいたようです。

「まさか気づいてなかったの?」

「いや俺もびっくりしてる。え、マジじゃん。 ん?」

 自分の行動の記憶を遡り、混乱し始めた夫。

「まあ、分かったら脱ぎなよ。洗ってあげるから」

 そんな夫の様子を見て、彼の頭の帽子を脱がそうとする妻。

 しかし、その妻の提案に夫は難色を示します。

「いやけど、なんかこの帽子馴染んでるだよなぁ」

「馴染んでる?」

「ああ、まるで体の一部みたいに」

 その夫の様子に本格的に気味が悪くなった業を妻は、隙をついて無理やり脱がそうとします。

「え? 脱げない?! なんで!?」

 が、帽子は頭に張り付いたようにいくら力を入れても外れません。

 流石にこれには夫も正気を取り戻し、彼も自分で脱ごうとしましたがどうしても脱げませんでした。原因がわからず恐慌し始めた夫を妻は慰めて落ち着かせます。

 しばらくしてとりあえず冷静になった夫は、帽子を送ってきた人物を知っている友人に連絡して送り主の所在地を教えて貰おうとします。

「もしもし?」

「うん? この間ぶりだね。どうしたの?」

「前に話してた知り合いのことについてもっと詳しく知りたいんだけが」

「あ、それこの前話そうとしたけどお前急に電話切るから別にいいのかと思ってたんだけど違うの?」

「事情が変わったんだよ。いいから教えてくれ」

「? まあいいけどさ。それにしてもお前よく忘れていられるよな?」

「ん? どういう意味だ?」

「いや、だってそいつ俺らが学生時代の時に屋上から飛び降りて自殺したじゃん」「「え?」」

 自殺した?そんな馬鹿な!

 夫婦は急いで箱を見に行くとそこには変わらず同じ名前が書かれていました。困惑する彼らに友人は電話で当時のことを話し始めす。

 学生時代、夫婦は共にいじめっこで、送り主は彼らがいじめていた対象で、そのせいで自殺した人物だった。

 なんてことないどこにでもある話で、高校生時代何事も上手くいかなくなった彼らが優越感に浸るために、下だと思ったあいつをいじめていた。

 しかし、あいつが自殺したのを聞いて彼らは“私たちは悪くない“と自分に言い聞かせ、怯えから立ち直るために二人で記憶を奥底に仕舞って「二度とあいつの話をしない」、「二人だけの秘密にしよう」と誓い合う。

 夫婦はそんな当時のことを思い出した。混乱する頭でどうにか正気を保とうと心を落ち着かせているところに友人がさらにとんでもないことを言ってきた。

「そういえばあいつから貰ったものってまだ使っているのか?」

「へ?」

「帽子だよ帽子。あいつがいつも着けていた帽子。お前自分の誕生日の時に貰ってたじゃん。「凄い似合ってね?」ってうざいほど自慢してきただろ。あれ、一応あいつの形見だろ」

 友人が懐かしそうに話すが、こっちはそれどころじゃなかった。違う夫は貰ったんじゃなくて奪ったんだ。そしてあいつが自殺した後、私たちは思い出さないためにその帽子を燃やしたんだった。

 再び夫婦は帽子を見ると、しわの部分が顔の形みたい見え、頭に「プレゼントだよ。気に入ったなら死ぬまで使って」と声が聞こえた、気がした。

 夫婦はそこで手紙の意味にようやく気が付いた。

 プレゼントとは、何かをした人やお返しのためにしか送られては来ないということを。

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