捨てるのが苦手

紺堂 カヤ

捨てるのが苦手

 たとえば、お洋服やお菓子を買ったときにもらう紙袋。いわゆるショッパーというやつである。趣向を凝らしたデザインを採用し、各ブランドの「顔」として重要な役割を担っている。ようするに可愛いものが多い。お友だちに本を貸したり何かあげるときに使ったらいいんじゃないかな、とか思う。捨てられない。

 たとえば、舞台やコンサートのチケット半券。趣向を凝らしたデザインのものもたまにはあるが、多くは各プレイガイドお決まりのシンプルなデザインの用紙に公演名と日付、席番号などが印字されているだけだ。公演が終われば用済みなわけで、パンフレットやブロマイドなど記念となるグッズを買っていれば、記念としても微妙な立ち位置となる。が、このチケットを取るためにかなりの情熱と労力をかけたんだよな、などと思う。捨てられない。

 と、いうような感じで、私はものを捨てるのが苦手である。「何かに使うかも」「もったいない」「可愛いし」というような理由で、つい、とっておいてしまう。実際に活用できる場合もあるが、結局何にも使えずに数年経ってから捨てる、という場合も少なくない。穴のあいた靴下ですら、捨てるのをためらう。家の中で履いてる分には誰にも見られないんだからいいんじゃない?とか思って。そういう問題じゃないっつの。

 そういうわけで、当然といえば当然だが、私の部屋にはモノが多い。いちばんスペースを占めているのは書籍である。本棚に入りきらないのは言うまでもなく、およそ十冊ずつの本のタワーが部屋の外周をなぞるように建設されている。本がいちばん、捨てられない。売って手放すのも苦手だ。よって、どんどん増える。

 捨てるのが苦手、というのはモノに対してのみではなく、創作にも人間関係にもあらわれてきている。ご存じの方もいらっしゃるかもしれないが、私は主に小説を書いている。小説を書くにあたり重要な工程のひとつとして「推敲」がある。文章を練りなおすこと、であるが、実は私、これが苦手なのだ。一切推敲をせずに世に出す文章が、結構ある。推敲をする場合「この文章は後で推敲する」と決めてから書かなければ上手くいかない。なんじゃそりゃ、と思われるだろう。私も思う。でもそうなのだ。なので、私はできるだけ推敲をしなくて済むように、書きながら取捨選択をするようにしている。何を書いて何を書かないか、決めてから書き進める。よって、決まらないと進まない。ものすごく時間がかかる。つまり遅筆な書き手となる。筆が早くて、新作をどんどん発表できる方が、読者さまにとっては有難いのかもしれないなあ、と思うけれど、いかんともしがたい。

 人間関係にも、というのは、「捨てる」という言葉をつかうのが正しいかどうか実は微妙なところではある。増やすことをやめられない、という方が近いだろうか。

 私はいろんなひとと知り合いたいし、話したい、と思っている。いわゆる「出会い厨」と揶揄されるタイプの人物になってしまっていたことも、一時期あった。現在はそこまでではないものの、新しくひとと知り合うことに抵抗がないので機会があれば会いに行くし話に行く。

 ただ、どこで関係を切ればいいか、わからなくなる場合もある。別に切らなくてもいいじゃん、と思われるかもしれないけれど、人間関係の持続にはメンテナンスが必要だ。普段は放っておいて、使いたいときに使う、というようなことは、できないとは言わないが困難だと私は思っている。メンテナンスの感覚や方法は、関係性によって違い、マニュアルなどない。つまり、たくさんの人間関係を維持するには時間と、手間と、愛情が必要で、そうしたものは、ひとぞれぞれ、限界値がある。私はその限界値を超えて人間関係を維持しようとし、メンテナンスに手が回らなくなった結果、その関係を壊してしまったことがある。捨てられなかったがために捨てられた、というわけである。

 具体的な話をしようと思えばいくらでも痛い思いをしたエピソードは出てくるのだけれど、どの場合も痛感するのは、まこと、ひととひととのかかわりは難しい、ということである。

 それでも、私は今も、いろんなひとと知り合いになりたいな、と思っている。苦手なのは捨てることだけでなく、諦めることもそうかもしれない。

 捨てることが苦手であることは、必ずしも、弱点ではない。ただ……、穴のあいた靴下くらいは、迷わず捨てれるようになりたい。

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捨てるのが苦手 紺堂 カヤ @kaya-kon

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