肉体関係を持っていた“元”幼馴染と関係を取り戻す

皐月陽龍 「他校の氷姫」2巻電撃文庫 1

一章 幼馴染に戻るためには

第1話 幼馴染とのこれまでとこれから(水音視点)

 俺にはセフレが居る。


 彼女とは元々、ただの幼馴染であった。その関係が変わったのは中学二年生の頃だった。


「ねえ」


「なんだよ急に」


 当時の俺……獅童水音しどうみなとはクラスでも目立たない、いわゆるカースト下位であった。対して幼馴染である竜童火凛りんどうかりんはカースト上位である。


 中学二年生になるまでは登下校も一緒、土日も一緒とかなり仲が良かった。しかし、同年代のクラスメイトに囃し立てられ、話す事は段々無くなった。


『水音。もう私に関わらないで』

 極めつけにはこれだ。ショックもあったが、これ以上火凛に迷惑を掛ける訳にもいかないと了承した。



「今日私の家に来て」

 始まりはあまりにも急だった。


「はぁ? なんで?」


 その言葉の意味が分からず、強い言葉をぶつけてしまう。


「いいから。来なかったらあんたの黒歴史暴露するから」

「的確に俺の弱点を責めんなよ……」


 拒否権が無い事を悟って溜息を吐く。だが、嬉しくない訳では無かった。


「分かったよ、行けばいいんだろ」

「うん、ありがと」


 久しぶりに会話が出来たのだから。



◆◆◆



「それにしても久々だな、お前の家に行くのも」

「そーね」


「というかどうして呼ばれたのか、そろそろ聞きたいんだが……」

「や。家ついてから」


 あまりにも会話が弾まない。半年前まではこんなじゃ無かったんだがな。


 そんなこんなで微妙な空気の中、家まで辿り着く。


「入って、私の部屋分かるでしょ?」

「ああ。まだ覚えている。失礼します」


「あ、今日お父さんもお母さんも居ないから」

「珍しいな」

「仕事が忙しいみたい。飲み物入れてくるから先行っといて」


 素っ気なくそう言ってリビングへ向かう火凛を見て、俺は部屋へと向かった。


「何も変わっていない,か」


 彼女の部屋は普通の女の子らしい部屋だ。ベッドにはぬいぐるみが数体置かれており、机の上には昔の俺と火凛が写った写真立てがある。


「懐かしい、な」


 あの頃はずっと仲良くいられると思っていた。だが、現実はもっと難しいものだ。


「ちょっと、何見てんのよ」


 気がつけば、火凛が部屋の中に入っていた。


「ああ、悪い。懐かしく思ってな」

「ふーん」


 不満そうに鼻を鳴らす火凛を見て、俺は定位置である部屋の真ん中にある机のすぐ側に座る。


 そして火凛は、俺に密着するように横に座った。


「なあ」

「なによ」

「お前の定位置は俺の向かい側だと記憶しているんだが」

「私の勝手でしょ」

「いや、それはそうなんだが」


 やはりしばらく会っていなかったから彼女も変わったのだろうか。個人的には男慣れして欲しく無かった気はするが、今の俺にそれを言う資格は無いだろう。


「まあいいか。それで、結局のところ用ってなんなんだ?」

「……今聞く?」

「お望みとあらば近況報告でもしてからにするが?」

「いや、やっぱりいい。私も早めに言っときたいし」


 そうして彼女は、くりくりとした可愛らしい目でじっと見てきた。真面目な話をする時はいつもこうなる。




「私とセックスして」




「は?」



「聞こえなかった? ならもう一回言う。私とセックスして」


「いや待て。急にどうしたってんだよ」

 少なくとも、火凛は半年前までは『そう言った事』が嫌いであった。言葉ですらも拒否反応を起こすほど。


「この前友達と初体験の話になって、それで私がまだした事ないって言ったらバカにされてさ」

「それで初体験をする為に俺を呼んだ、と?」

「そゆ事」


 その言葉を聞いて盛大に溜息を吐いた。

 少しでも喜んだ俺が馬鹿だった。


「別に俺じゃなくても良いだろ。ほら、あのサッカー部のエースとかお前を狙ってるって評判だしさ」

「あんな顔だけの男よりも水音の方がい……マシに決まってるでしょ」

「褒めてるのか褒めてないのかは分からんが……幼馴染としてはそんな奴らと……いや、なんでもない。忘れてくれ」


 誰と関わるかどうかは本人次第。いくら十年来の付き合いとはいえ、口出しをするべきでは無い。


「私だってこんな事になるなんて思わなかったわよ」

「……まあ今更どうこう言っても遅いだろうしな。そのグループを抜けるんだったらこんな事も言わないだろうし」

「まどろっこしいのはいい。それで、セックスするの? しないの?」

「うおっ!」


 火凛の顔が近づいて思わず後ろに倒れてしまう。それに馬乗りになるように火凛が覆い被さる。


「どう? 今ならこれも好き放題出来るけど」

 そう言ってプチプチとボタンを外すと肌着が見え、そして下着も見えた。黒色の随分と過激なものだ。


「ッ! お前なぁ」


 目を逸らせば良かったのだろう。しかし、俺も色々と旺盛な男子中学生。思わず火凛の顔と体をまじまじと見てしまった。


 目を引く茶髪に、目は大きくくりくりとしたアイドル顔負けの可愛らしい顔立ち。かと思えば体つきはモデル顔負けである。確か去年はCカップだとか言ってたが、あの時よりも大きくなっているみたいな事も言っていたので詳しくは分からない。


「据え膳食わぬは男の恥、とも言うよ?」

 ぷるぷるとした唇から艶かしく舌を動かしている。


「あ、でもキスはダメね。こんな風になし崩し的にやられるのはヤだから。初めては好きな人と良い感じのムードがいい」

「随分と歪んだ倫理観だな」

 処女はどうでもいいがファーストキスは大切にしたい。変わっていないかと思ったが、勘違いだった。



 本当は断るべきなのだろう。世の中には少なからず処女厨と呼ばれる存在もいる。俺もそのうちの一人だったし。


 何より、彼女を本当に大切にしたいのならば。



「俺も初めてだから勝手も分かっていない。痛いかもしれないぞ」

「逆にこれで経験豊富だったら逃げるよ。承知の上。初めて同士だったら優しくしてくれるだろうし?」


 最後の堤防も決壊してしまった。断る術が無くなってしまう。


「分かったよ」

「えへへ、ありがと」


 彼女は顔を近づけて『昔のように』柔らかく微笑んで、そして抱きついてきた。


 人の体温やら柔らかさが直に当たってきて思わず心臓が高鳴ってしまう。


 加えて――


「水音のすけべ」

 耳元でそう囁かれる。

 男として、反応しないはずが無かった。


 火凛の細い腕が太腿へと伸び、そしてくすぐられる。


「……水音のおっきくない?」

「うるさい。これでもコンプレックスなんだよ」


 プールの授業で何度クラスメイトにからかわれたか。好奇心から一度測ろうか考えたこともあるが、十五センチものさしを遥かに上回ったので諦めた。



 そして、火凛はあろう事かそれに口付けをし始めた。


「お前、それは……」

「んー? 男の子なら喜ぶって聞いてたけど?」


『それ』を嫌がる女性は多いと聞いていたが、そんな事は知らないと彼女は行為を続けた。


 そして、念を入れた前戯を終えて本番へと至る。


「今更だが、当然俺はこんなことになるとは思っていないわけで、避妊具なんてもの持ってないんですが」

「私も持ってないけど……初めては生の方がなんか良いでしょ?」

「いやお前な。もし出来たらどうすんだよ」

「その時は責任とってもらうしか無いでしょ。頑張って外に出してね」


 そんな無茶ぶりと共に、彼女は早く入れろと急かしてきた。



「んっ……くっふっ……童貞卒業おめでと」

「……本当に大丈夫か?」


余裕を見せているように見えるが、汗をだらだらと流して痛みに耐えている様にしか見えない。


「んっ。大丈夫。ただ、」

「ただ?」

「……ぎゅってして頭を撫でて欲しいな」


 その言葉に残りの理性はプチりと途切れた。




◆◆◆


「……凄かった」

「まさかここまでとはな。ハマる奴の気持ちも分かる」


 初めてだから詳しい事は分からない。が、火凛との相性は全く悪くなかった。あれから五時間近くもぶっ通しでやるとは……


「火曜と金曜」

「え?」


「親が帰ってくるのが遅い日だよ、水音」


 そう言って火凛は妖しく微笑む。


「なっ……」

「結構気に入っちゃったんだよね、これ。ストレス発散にもなるし」


「……良くない事だろ、これ」

「え〜? でも水音が嫌って言うんだったら仕方ないな〜。他の人に頼むしか無いか〜」


 『他の人と』その言葉に心にトゲが刺さったような痛みが走った。


「…………分かった、火曜と金曜だな?」

「ふふ。うん。でもたまには二人でおしゃべりするだけってのも良いかもね」


 その笑顔は最近外でしている愛想笑いでは無く、昔のように柔らかい微笑みであり、思わず見蕩れてしまったのは言うまでもない。



◆◆◆


 そうして月日は過ぎ、俺達は高校生になった。『偶然』にも彼女は俺と同じ高校を選んだ。


 学校では何の因果関係か分からないが同じクラスだ。学校でのお互いの対応は変わらない。不干渉となっている。



 ただ一つ変わったとするのならば、それ以外での俺との対応だろう。



「えへへ、水音って近くで見たら案外かっこいいよね」

「遠目だとブサイクで悪かったな」


『昔』の様に、彼女はよく笑うようになった。幼馴染……では無いが、前のような付き合いが出来て俺も嬉しかった。


「ねーえ、水音」

「なんだ?」

「なんでもない!」


 だが、『幼馴染』で『セフレ』などという歪な関係が長く続く事は無いだろう。


 実際、彼女も俺も誰かと交際した事が無い。俺からすれば嬉しいのだが、彼女からしたら鬱陶しい事この上無いのかもしれない。


 ――だからこそ、言わなければならない。


「なあ」

「ふふ。なーに?」

「この関係、そろそろ終わりにしないか?」


 その言葉を言った瞬間、時間が止まった。彼女はどこか不安と期待の入り交じった眼差しを向けた。


「それって……」

「聞いての通りだ。このままだとお前は遠慮して彼氏も作れないだろ。この前テニス部のエースに告白されて断る所を見たぞ」


 この決断を下したのも、ちゃんとした理由があった。

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