学校一の美少女の社長令嬢がお見合いは嫌だと言うので、仕方なく一緒に逃げることになりました

天川希望

1話 お嬢様と逃避行!?

俺、十六夜いざよいみなとの通う高校には、学校一の美少女たるものがいる。


 しかも、その美少女というのが、日本でもトップクラスの財閥である、九十九グループの会長の孫、九十九不動産の社長令嬢という、とんでもない肩書を持っている美少女なのだ。


 彼女の名前は椎名しいな深雪みゆき


 気品を感じる立ち振る舞いに、誰に対しても常に敬語で接しているところから、社長令嬢としてふさわしいと言えるほどの上品な女の子。


白銀の長い艶やかな髪に、青い瞳が特徴的な美少女で、スタイルはよく、出るところはなかなかしっかりと出て、引っ込むところはしっかり引っ込んでいると言う、まさに女性の憧れの的と言った感じだった。


 それに加えて、学業優秀、運動神経抜群といった感じに、文武両道才色兼備、まさに非の打ちどころのない人間なのだ。


 しかしながら、そんな彼女が人知れず入部しているクラブがある。

 それが、俺が部長を務める文芸部だ。


 まぁ、文芸部と言っても、実質ずっと本を読んでいるだけなので、もはや読書部と呼ぶべきクラブなのだ。

 というか、部員は俺と椎名の二人なので、部というよりは同好会だったりもする。


「湊くん、少し話をしてもいいですか?」

「どうしたんだ、椎名?」


 俺がそんな回想をしながら本を読んでいると、対面に座っている椎名が話しかけてきた。


 今は放課後。

 俺たちは部室へと集まって、すぐに本を読んでいた。


 つまりまぁ、しっかりと活動しているという訳だ。


 そんな中、椎名は俺に話しかけてきたのだ。


「少し、ご相談なんですけど……」


 椎名はそう言うと、少し表情を曇らせながら俺の様子を窺うように見てきた。


 俺は相談と聞くや否や、すぐさま本を閉じて椎名に向き合った。


「どうしたんだ?」

「実は、私、明後日の日曜日にお見合いをすることになってしまいまして……」


 俺はそれを聞くと、少し体がビクッとなった。


 椎名は俺のそんな様子に気が付いた様子もなく、少し暗い口調で話を続ける。


「それで、私はお見合いをしたくないと断ったのですが、父がそれを許してくださらなくて……」

「なるほど、つまりは無理やりお見合いさせられるってことか」

「はい、そうなんです。私は、せめて高校を卒業するまで待って欲しいとお願いしたのですが、今回だけはだめだと……」

「それはまた大変な話だな。てか、今時お見合いなんてまだあるんだな」

「はい。実は既に数百件の縁談の話は来ているらしいのですが、高校卒業まではせめて高校生らしい生活をしてみたかったので、断っていたのですが、今回は特別だと……」

「そっか……」


 そう言って暗い顔をしている椎名に、俺はなんて声を掛ければいいのか分からなかった。


 俺がようやく口を開こうとしたとき、タイミング悪く下校のチャイムが鳴った。


「すみません。こんなこと、湊くんに話してもご迷惑になるだけでしたね」

「いや、まぁ別に迷惑ではないけど」

「もしかすると、来週から私はこの学校にこれなくなってしまうかもしれませんので、どうしても湊くんだけには伝えておきたくて……」

「えっ……」


 椎名のそんな言葉に俺が驚きを示すと、椎名はさっと鞄を持ってドアに手をかけた。


「では、早く帰りましょうか」

「あぁ」


 俺はそう返事をして、椎名について行った。



 校門を出るころには、時刻は六時半を回っていた。

 俺たちはいつも通り並んで歩いていた。


 しかし、そんな俺たちの元に、突如として黒塗りの高級車がやって来た。


 そんな状況に俺が驚いていると、車の窓が開き、中から一人の男の顔が現れた。


 そして、その男は椎名を見ると、口を開いた。


「さ、帰るぞ。深雪」


 そう言われた椎名は、そっと俺の袖をつかんだ。


 俺は相手が誰なのか確認するためにその男の顔を見ると、ちょうど目が合った。


 男の顔付き、目元がどこか見覚えのあるもので、俺はどうにか思い出そうとした。


 そして、目があった男の方は、目を見開いて驚いた顔をしていた。


 俺がその男が誰なのか尋ねようとしたとき、先ほど椎名につかまれていた袖が勢いよく引っ張られた。


「走ってください!」

「え?」


 椎名は俺にそう言うと、俺の腕を引っ張って駅の方へと走り出した。


 俺は半ば強引に連れられる形で、椎名と共に走り出した。

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