三十九着目「努力の方向性がチガウよリョーマ君」

「ヒック、ヒック……」

 小刻みに震え、泣くリョーマ君。


 兎にも角にも、コイツ(リョーマ)が合格するまで、エンドレスにこれが続くのか?

 勘弁してくれよぉ~

 でも、多分コイツじゃ受かんないぞ……


「なんとかしなきゃ……」

『オールバックハゲおやじ』には、チームプレーがどうとか言われたが、これも“自分の為”だ。

(あれ?さっきハゲって言ったっけ??)


 僕は、リョーマ君の机の上に置いてあるこれまでの回答用紙を徐に手に取り、全てに目を通した。

 初回のテスト用紙を見て、あることに気付いた……


 そして、僕は毒づいた……


「あ~あ、良いよね~♪ 泣いちゃいえば、どうせコッチが悪者だもんね~

 結局、泣かした方が悪いもんね~♪楽だよね~泣いちゃえば。

 泣いちゃったら、皆がキミを庇ってくれるもんね~♪

 あ~あ、アホらし……」


「ヒック、ヒック……」

 泣き続けるリョーマに、僕は容赦なく回答用紙を力いっぱい思いっ切り投げつけた。


『バサッ!』

 彼の体に当たり、ヒラヒラと回答用紙が落ちていく、地面に落ちる前に僕は間髪入れず罵声を浴びせた。


「オメェッ!カンニングしてんじゃねーよ💢」


 うさぎみたいな真っ赤な目で、コチラを見つめるリョーマ君。

「ぉっオッぉオレ、してないよ!」

 ドモりながらも、必死なリョーマ君。


「しらばっくれるなっ!じゃぁ、この文字を声に出して読んでみろ!!」

 僕は、回答用紙の一枚を拾い上げ、該当箇所を指さした。


「ら・・・ば・・・」

 リョーマ君は、小さい文字に目を凝らしながら、答えた。


「ちげーよ!!これは、ウ・バだろっ!!字のクセまで真似してんじゃねーよ💢」


「……えっ?そうなの??“ラ”かと思った」

 リョーマ君は、目を真ん丸にしてビックリした様子だ。

 ついでに、僕の字の下手さを指摘されたようでムカつく……


「問題はそこじゃねーっ💢なんでカンニングしたんだよ!いまからチクってやんぞっ!」

(とは言え、エスパーかと思えるほど、洞察力に優れた吉野執事がこんな簡単な小細工見逃すはずがない。アイツ気付いて見逃してやがんな……)

『オールバックくそメガネがっ!』

(あれ?さっきメガネってつけたっけ??)


「まっ……待ってよ!!」

 リョーマ君は、僕が本当にチクりに行くと思って、必死だ。

(行くわけないじゃんwwwどうせ、チクッた所で、さっきの堂々巡りだ)


「だって、ダッテ、だってだってだってオォオッレッオレ、ちゅっチューそそっつ。中卒だし!」


「ぁっ……だから……?中卒だからなんなの?」

(コイツ、この期に及んで、まだ口応えすんのか💢)


「中卒で、バカだから勉強とか全然出来なくて……夕太郎君は大卒だから……」


「はっ?なにその言い分、それだと、中卒はバカだからカンニングして良くて、大卒はダメってこと?」

(なめんな、Fランなめんなっ。脳ミソお前と大して変わんねーからな!)っという思いをグッと堪えた。


「だって、そうだろ……」

(えっ、コイツ悪びれもせずマジでこんなこと言ってんの?)


「そうじゃねーよ!ダメに決まってんだろ!大体、リョーマ君いつも授業はノートにびっしり書き込んでただろ。見せてみろよ」


「やっヤダよぉっ……」

 リョーマ君は、ノートを抱え僕に見せるのを渋った。


「ちょっ、時間もねぇんだ!さっさと寄こせっ!」

 僕は、力ずくでノートを奪い取った。

 そして、パラパラと捲って読み、僕は吐き気を催した……


 そのノートの内容とは……ほぼ全編を通して、一縷の事しか書いてなかった……


『一縷素敵』とか『今日の一縷は、少し寝ぐせ気味で、でもそこが最強にカッコいい』などと言った具合だ。あと、お世辞にも上手いとは言えない一縷のイラストがびっしり。

 相合傘に一縷&リョーマというのを見かけて、流石にムリだった……心底見なきゃよかったと思った。


「お前、努力の方向性がちげーよ!!」

(おいおい、紅茶テストどころの騒ぎじゃねーなコレ……)

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