*3* 周囲の反応が面白い。

 二個目の商品が届いたのはやっぱり四日後だった。受け取りの日が遅番だったこともあり疲れていたものの、手にした牛丼大盛りにビールとアイスもつけようとコンビニへ向かう。


 会計の時に取り出した財布のキーホルダーを見た強面の店員が「スゲェすね、それ」と言ったので、思わず「ヤバイよね、これ」と笑って答えた。深夜のコンビニでエグイ見た目のキーホルダーを挟んで交わす会話に然したる意味はない。でも何となく面白くて和んだ。帰宅後はささっと食事を終え、お待ちかねの荷物を開封したのだが――。


「どういう格好で持てば怪しくない風に見えるんだろうな……これは」


 リール式のキーホルダーがついた呪われしパスケース。外付けするには勇気のいる腐肉色。ご丁寧にも表面には小さなウ○コの箔押し。拘るのはたぶんそこじゃなかった。


「まぁこれは今夜も宇宙猫スタンプだな」


 裏表の検分をしてからひとまず使えそうなことにホッとしつつ、アンモナイト氏のサイトに新しく更新された絵を眺めてハートを押していく。どの作品も相変わらず俺のつけたハートしかない。


「こんな状態で一日も欠かさず三年も毎日更新してて……偉いもんだな」


 アンモナイト氏は寂しくはないのだろうか。世界中に発信しているサイトで誰にも受け取ってもらえないこの熱が。冷たい海の底で何を糧にしているのだろうかと思う。


「うーん、今日はこれだな」


 今夜はそれなりに安い一本六百円のボールペンを注文。その後ノートパソコンの電源を落として風呂に向かいかけ――忘れないうちに今日届いたパスケースにチャージしたカードを入れて、仕事に持っていく鞄の持ち手につけた。想像以上にグロイ。


 明日も誰かに反応をもらえるだろうか。そんなことを考えながら愉快な気分で浴びる熱いシャワーは、疲れた身体に格別効いた。


 翌日。


 夕方からの仕事なのでゴミ出しと洗濯をしたあとのんびりと家を出て、駅でパスケースを引っ張って改札口を抜けようとしたその時だった。


「ヤバ! 何あれ超ウケるんだけど!」


 急に背後から上がったハイテンションな声に驚き振り返れば、そこに学校帰りの女子高生らしき子達が四人ほどたむろってこちらを指差している。


 思わず無言で手にしていたパスケースをヒラヒラさせると、彼女等もつられるように頷く。派手目なメイクの女子高生達は改札を挟んで立ち止まっていた俺に近付いてくると、改札の横にある見送り用のスペースにもたれて手招いてきた。


「それどこで売ってたんですかー?」


「おにーさん地味なのに何でそんなの買っちゃったの? 冒険者ー」


「ちょっとぉ、先に見つけて声かけたのアタシじゃん。おにーさん写真撮らせてくれませんかー?」


 微妙に〝おにーさん〟に〝おじさん〟のニュアンスを感じるものの、この子達にしてみれば充分そうなのでそこは特に何も思わない。ただそのお願いの内容に気持ちが動いた。


 これはもしかするとチャンスかもしれない。深夜のアルバイトの彼も、目の前のこの子達もアンモナイト氏の作品に好意的だ。ならここでこの子達がSNSで上げれば注目されて、氏のファンを獲得する好機。注目されてグッズが売れたら、四年間も壁打ち状態だった深海の君のモチベーションアップに繋がる。一石二鳥じゃないか。


「おじさんの身許が分かる撮り方しないなら良いよ。ただ、これ作った人のマークを入れてくれる? 最近盗作疑惑とかうるさいからさ」


 なるべく女子高生が嫌うおじさんっぽくならないように軽くそう言えば、彼女等は一斉に笑って。


「せっかくこっちが気ぃ使ったのに自分でおじさんって言っちゃダメじゃん」


「これを盗作とか無理っしょ!」


「こんなの個性の塊すぎるし」


「人類に早いよ~」


 マシンガンのように飛び出す言葉と笑い声に蜂の巣にされながら、改札で腐肉色のパスケースを翳す怪しい人物になる俺だった。

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