第3話:追記――引っ越しにいたるまで

イクオの自宅周辺は

当時はさほど開発されていなかったこともあり

住民も少なかった

そのため妻子はほとぼりが冷めてから

自宅に戻った

もちろん不安なので

妻の両親と親戚の家族とともに


その日の夜インターフォンが鳴り

画面に血まみれのユクオが映った

一日目は悪夢として誤魔化したが

死んだユクオは生前と同じく毎晩帰ってきて

インターフォンを鳴らし


妻の名前を呼んで「鍵を開けてくれ」と呟いていたという


何度目かは分からないが

耐えきれなくなった妻が

深夜に素手でテレビドアホンのモニター画面を

殴って破壊した

妻の手も無傷では済まなかった

骨を折ったらしく

救急車を呼んだことがあった


わたしは担当ではなかったが

搬送を終えて消防署に戻ってきた隊員たちは

おそらくユクオの義理の両親だった人物に

「近所に不審な男はいなかったか」と

しつこく尋ねられたとこぼしていたのを覚えている


もちろん隊員は誰一人として

不審な男は見ていない


妻と両親はお祓いをしてもらったが

効き目はなかったと聞いている


だから引っ越したそうだ


ユクオは二年ほどしか住めなかった

こだわりぬいた書斎のある住宅に

いまだ未練があるのかもしれない





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事故物件――この記事は一ヶ月後に削除します 六道イオリ/剣崎月 @RikudouI

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