そりはやく

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 早朝、ちょっとした雪が降る中、竜払い依頼主もとへ歩いて向かう。

 依頼主の屋敷は町から少し離れた場所にあった。

 枯れた草原をゆく。雪はまだ降り始めたばかりで、まったく積もっていない。降り具合から察するに、すぐに積もる雪でもなさそうだった。

 依頼は朝早くにおれの元へと持ち込まれ。屋敷の敷地内に竜が現れたので、いますぐ追い払って欲しいという。

 人は竜が恐いので、いますぐに払って欲しいのと思うのは、まあ、しかたがない。

 外は寒かった。防寒対策のため、厚みのある外套を着て、厚みのある手袋をしているため、身体が少し重かった。靴も防寒加工されているため、歩くと足も重い。けれど、剣はいつも背負っているので、その重さは感じなかった。

 依頼人の屋敷へ到着しても、ちょっとした雪は、ちょっとした感じで降り続けていた。やはり、積もってはおらず、まだまだ雪より、地面の方が遥かに多い。

 屋敷の扉を叩こうとすると、向こうから、なかなかするどい勢いで、扉があけられた。

 開けて出てきたのは、眼鏡をかけた四十代くらいの男性だった。高品質そうな身なりからして、きっと、この家の主だろう。

「あおおおっと、ようこそぉ! はじめまして! あ、これお茶です、飲んであたたまってください! あと、お金はこれです! 先払いです、はやめやはめにね! はい、竜はあっちですよ、あっちの林の中ですから! ではっ、よろしくお願いします!」

 まくしたてるように情報などを伝え、お茶とお金を渡してくる。

「いやはやぁ、早く着ていだだいて助かりますっ! 土着に竜払いだとこうはいきませんよねぇ! うん、ははっ、早くていいです、あなた! そう、早いことほどいいことはない! うんうん! 早いのぐぁぁ一番だぁ!」

 どうも、せっかちな人らしい。興奮して、早いのぐぁぁ一番だぁ、とか言っているし。

 とはいえ、渡されたお茶も淹れたて過ぎて、熱湯に近く飲めたものではないし、お金もちゃんと計算していないけど、おそらく、金額が多い。

「さあ! ではではではではではっ! さっそく竜を払っていただきましょうかっ、 ねっ! ああ、竜は林です、そこの林、おおおっとっと、そうだそうだ! 現場には早く行けた方がいいですね! あの、一瞬っ、瞬っだけ待っててください! ね、一瞬っ」そういって彼は、扉を閉める。すぐに開く。彼は厚みある上着をはおりつつながら、外へ出て来た。「早く行きましょうっ! わたしが案内しますっ! その方が早いですからねっ! こっちです、こっちい!」

 おれの反応は見ず、そういって屋敷の隣へ立っている小屋へと向かった。中からは動物の気配がするなぞ、と思っていると、そこには大型の犬が五匹いた。

 そして、彼はそりを押して出ていた。

「この犬ぞり! 犬ぞりで現場まで行きましょうね! その方が早いですし! さあ、のってください!」

 彼はそりに犬をつなぐ。

 で、犬ぞりに乗って、手綱を握る。

 いっぽう、地面には雪がまったく積もっていない。ほぼ通常の地面だった。犬ぞりを使用するのは、確実に、この世界では早すぎる。

「はいはいはい、ではねっ、いきますよおおおおぉ!」

 そして、彼はおれが乗る前に、手綱を操作し、出発を図る。とたん、五匹の犬たちは、それぞれの四肢を動かした。

 この雪の無い地面では、犬ぞりの方が逆に遅いだろうに。

 しかも、おれもまだ乗ってないし。いや、乗る気もなかったけど。

 それでも、犬たちは力強く走る。雪の無い上を走りだし、すぐに、犬ぞりは、つんのめって、大きく揺れた。その衝撃で、彼の身体は犬ぞりから前方へと放り出される。低空で彼が「あらら?」という、気の抜けた声を放つ声がきこえた。そして、どうやら手綱が不幸な塩梅で絡まったのか、彼はそのまま五匹の犬に引きずられ、地面瞬く間に、彼方まで行ってしまった。 

 犬ぞりの、ぞりの部分だけをここへ残し。

 おれはまだ熱くて飲めないお茶と、お金を手にしながら、その場から見送った。

 そして、思った。

 あれなら、たしかに、早い。

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