ほうせきてんのかい
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
手持ちの宝石の一部を売ってみようと思った、まえに、竜を払ったとき、依頼料として、宝石が手元にあった。
けれど、だいぜんていとして、おれに宝石の専門知識はない。ただ、くれた相手のことは信じているし、報酬としてもらった宝石は、小袋いっぱいに入っていた。見ると、いつもすごく煌めいている。
これがもし、なかなか高価な石だったとして、これまで立ち寄った小さな街では専門に買い取れそうな店はなかった。けれど、いまいるこの街は、とてつもなく大きい。ぱっと見て、買い取れそうな店も無数にある。
おれは長期店番中の本屋を後にして、その手の専門店が密集する地区まで向かった。
橋を渡る。川の流れはおだやかで、水面は陽の光に反射して、おとなしく煌めいている。あいかわらず川辺では様々な人々が腰かけ、語らっている、まどろんでいる。
やがて、たどり着いた大通りから、路地へ入る。高い建物の合間で、右折、左折を繰り返し、宝石店が集中する小さな通りまでやって来た。
見ると、とある店の外壁に『買い取り受付』と書かれていた。
その店構えも、立派過ぎず、簡素だった。窓硝子は綺麗で、整った店内が外からでも見える。
ここで聞いてみよう。
そのまえに、剣を所持しているので、警戒されないように、剣と鞘を紐でしばって、抜けないようにしておいた。
入店の準備を終え、店の扉をあけて中へ入る。すぐに「ようこそ」と、店員から声をかけられる。
背広を着た、二十代後半の男性である。木色の髪をきっちりと七三わけで整えた店員だった。
「こんにちは」と、おれはあいさつを返す。そしてすぐに「みていただきたいものがあります」と、本題を伝えた。
「はい、お指輪などの、お修理でしょうか」
「買い取り方面です、石の」
「承知しました。ご案内します、こちらの方へ」
丁重に、店の奥へ招く。そこは買い取りの交渉席らしく、真向かいにすわる。
おれは、小袋の中にあった、宝石のひとつ粒を取り出した。いっぺんにすべてを売却する気はなかったし、まずは、このひとつ粒の価格を知りたい。
彼が用意したしっとりとした布張りの上へ石を置く。宝石は、まるで自立して、発光し、きらきらしているようにみえた。
「では、拝見を」
そういい、彼は手を伸ばす。いつの間にか、白い手袋をはめていた。小さな望遠鏡のような眼鏡で、宝石の中をのぞきこむ。
査定の時間は静かに流れた。
やがて、彼は宝石を丁重に盆へ戻す。
にこやかな表情をおれへ向けた。
「あ、これ呪われた宝石ですね」
にこやかなまま、そういった。
ん。
呪われているのか、この宝石。
「それで、ですね。あの、買い取り価格はこちらの方になります」
そして、ささ、っと紙に買い取り価格を書いて示す。
呪われているのに、買い取るのか。そんな、ふつうの感じで引き取りのか。しかも、提示されたのは、それなりに、いい金額である。
おれはとりあえず「呪いの宝石」と、だけ言った。
すると、彼は「ええ、呪われてますね、濃密に呪われます、持ってると、じゃんじゃん不幸になりますね、所有者の方が」と、かるく答えた。
そうなのか。
にもかかわらず、買い取ってくれるのか。
正直、おれに宝石の価値も、相場はわからない。けれど、提示された売却額は願望額より、はるかに大きい。
呪われているらしいし、なら、売ってしまおう。
と、決めて、おれは「では、買取をお願いします」と、伝えた。
「はい、ばばん、と、おまかせください!」
彼はにこやかな表情、かつ、丁寧に応じてくれた。
で、予想より多額を懐におさめて、おれは店を後にした、帰路につく。
そして、剣から紐をときつつ、ふと考えた。もしかして、あの呪いの宝石という話は、店員の偽りで、じつは高額な宝石を安く買うための発言だったではないか。
けれど、ふしぎと店まで引き返して、真実を追求するほどの気持ちにはならなかった。なんとなく、さっきよりも、身体の調子もいいし、足取りも妙にかるい。
だから、まあ、いいか。
と、思ってから数日後のことである。
ぐうぜん、宝石を買い取ってもらったあの店の前を通り過ぎた。すると、店は完全に閉店していた、扉も窓も固く閉められていた。
おや。もしかすると。
あの宝石にはおれに渡した買取価格より遥か高かったのか、で、それを手に入れた彼は、追及するまえに、この店を閉じて逃げた。
あるいは、本当に呪われていて、彼になんらかの不幸が起こったのか。
などと。
その真実は、ようとして知れない。
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