しょきなかま

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 西へ向かうと決めた。

 この大陸には、西にも大きな海があると聞く、大きな都市もあると聞く。その都市は、およそ三百年間、竜に焼かれていないらしい。

 船で行けないこともない。けれど、方法は陸路を選んだ。

 内陸を進む、歩きの旅だった。もしも旅の途中、払うべき竜がいれば、竜を払いつつ、その報酬で旅費をまかない。いや、払うべき竜がいなければ、それ以外のことをして旅費を稼ごう。

 繊細さ不在でそう決め、旅へ出た。この大陸の西の端へ向かい出す。

 で、とりあえず、西へ向かう馬車へ乗ることにした。西へ向かう馬車といっても、長距離は走らない。町から、隣の隣の隣の町程度までの距離を走る地元の人々が使う、乗り合い馬車である。

 馬車にのって揺られながら、いろいろ考えよう。

 そう画策し、馬車駅でひとり馬車の到着を待っていた。駅といっても、農園の近くにある掘っ立て小屋である。簡素なもので、近くには小川が流れている。草もぼうぼうだった。

 ほどなくして馬車がやってきて、乗車した。幌はついていない。乗客はおれひとりだけである。あと、七人は乗れそうだった。

 馬車が走り出そうとしたそのとき、馬車の端に、緑の何かが飛んで来た。

 見ると、緑色のかえるだった。かえるが馬車の縁にはりついている。そして、かえるが張り付いたまま、馬車は動き出す。

 よく晴れているし、涼しい日だった。

 馬車は滞りなく、道を進んでゆく。

 そして、おれは、馬車に張り付いたかえるを見ていた。かえるは、くっついたまま、じっとしている。

 馬車は走り続ける。やがて、おれは考えた。

 このかえる、いま、かえるという生命体としては、もはや、かなりの長距離移動を果たしているのではないか。駅の近くに流れていた小川が故郷だったとして、すでに、ぐんと離れて場所を走っている。

 それは、だいじょうぶなのか、かえる。

 そもそも、この移動に、きみの意志はあるのか。

 心の中で語りかけていた。

 その間も馬車は走り続けた。車輪はぐるぐると、まわる。それは同時に、かえるの運命もまわっていると同じである。

 おれは景色を見ずに、ずっと、かえるを見ていた。

 いいのか、かえる、さらに遠くまで来てしまっているぞ、かえる。もしかりに、きみが、ここでおりたとして、つまり生態系とか、そのあたりの関係性はだいじょうぶなのか。きみ、いけるのか、この見知らぬ土地で、かえるとして、けろけろと生きてけるのか。

 想像し、はらはらしていた。もはや、旅の仲間である。

 そのとき、馬が大きくいななき、馬車が急停車した。その衝撃で、かえるが、とーん、と飛んでいった。

「しまった、仲間がぁ!」

 とっさに、おれは叫んで、飛んで行くかえるを視線で追った。

 かえるは空中に弧を描きつつ、ゆっくりと回転し、飛んでゆき、そして、丁度、反対方向から来ていた馬車の荷台へ、ぴと、と張り付いた。

 どうやら、いま起こったこの馬車の急停車は、向かいからやってきた馬車の馬に、こちらの馬車の馬が刺激された影響らしい。

 かえるは、反対側から来た駅馬車の荷台のふちに張り付ついていた。怪我はないとみえる。そして、向かいの馬車は、どんどんと遠ざかり、やってきた道を引き返してゆく。

 おれは馬車が地平線の向こうへ消えるまで見送った。

 よかった。

 これで生態系は守られた。

 いや、守られたかどうかは、不明である。

 いずれにしろ、旅の初期仲間とは、早くもお別れである。

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