うつしみうつし

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 竜を払うため、さまざまな場所へ足を運び、訪れたその土地で、いろいろな話を耳にする。

 そして、この話をきいた。

 かつて、ここには六つの塔が建っていた、らしい。

 ずいぶん、昔の話で、いまは森となったこの場所には、六つあった塔のうち、ひとつだけ、わずかな巨大な切り株のようになっているだけだった。党の周辺にあったという町の方も、見る影もない。すべて、森林に包まれていた。

 塔は六芒星を形取った、それぞれの末端に、距離をとって配置されていた。途方もない年数を重ねた、育った、いかなる大木よりも高く、入り口はひとつしかなかった。

 六塔の最上層には、それぞれ、ひとりずつ、少女が置かれていた。この、置かれていた、という表現が、適切なのだときいた。

 六人の少女たちは、零歳、三歳、六歳、九歳、十二歳、十五歳と、年齢の間隔を三年で固定されていた。彼女たちは、塔の最上層で、三年間を過ごす。そして、三年が経つと、少女たちは、次の塔へ移される。彼女たちの世話係は一緒に、次の塔へはうつらない。

 少女たちに血縁関係はない。必ず同じ日に生まれた子どもたちのなかから選ばれる。選ぶ基準は、まず、女であること。それから、髪と肌の色が、はじまりの女王と同じであること。選ばれると、彼女たちは、親元から引きはがされ、その後、生涯、両親に会うことはない。

 少女たちは、塔の中でのみ育てられる。塔の最上層より下には、彼女たちの生命を守るための世話係と、特別な使用人がひかえていた。彼女たちを女王にするために教育する者たちだった。

 教育というより、それは複写といえる。

 少女たちは、現女王と、まったく同じ人間になるように、教育された。

 思考傾向、口調、所作、しぐさまで、現女王と、微塵の狂いもなく同じになるよう、徹底して育てられた。それは、現女王も同じだった。数百年前の、はじまり女王とよばれる女性と、同じになるように、育てられ、仕上げられ、女王となった。

 三年が経つと、少女は隣の塔へ移される。世話係たちに、情が移ることを懸念しているためだといわれていた。

 そして、三年ずつ、時が流れるたびに、少女たちは次の塔を移され、十五歳のとき、最後の塔に入る。最後の塔で三年を過ごし終えると、少女は女王になる。

 新しい女王が完成すると、前任の女王はその役目を終える。

 そして、女王の期間は、三年と決まっていた。人々は彼女のお告げのもと、生きてゆく。

 六人の少女を塔へ入れるのは、はじまりの女王の移し替え先である器が失われたときの予備として機能させる目的があった。いまよりも、ひとが、ただ生き続けるだけのことが遥かに困難な時代だった。それゆえに、人々を導き、お告げを与え、行くべき方法を示す、女王が必要だったのかもしれない。

 どれほど、むかしから、塔があったのか、正確な年月は聞いていない。少なくとも、それは何百年も間、続けられていた。

 けれど、六塔の仕組みは、ある日に、とつぜん、終わりを迎えた。人が竜へ手を出して、怒らせた。竜は空を覆うほどの群れとなり、口から吐く炎で、この大陸を無差別に焼いた。そのとき、六つの塔も灰になった。

 塔とともに、はじまりの女王の移し替え先である少女たちも失われた。こうして、六つの塔による、人々の制御は終焉を迎える。

 いま、こうして立つ、この場所には、やなり、その面影はない。

 木々の合間に、塔の話を知る者だけが、わかる、かすかな痕跡を残すのみである。

 けれど、考えていた。

 おれは竜払いだ。

 竜が世界を焼いたそのとき、もし、この場にいたら、なにか出来ていただろうか。

 どうしても考えてしまう。


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