いっけん
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
見てすぐにわかった。同業者だった。彼女も竜払いに違いない。
一見、物騒な装備をしているが、あきらかに、対人戦闘を専門とした気迫がない。それが竜払いだった。
二十歳かそのあたりの女性で、糸目に、口を一文字にしめている。そして、背が高く、剣を真横にして腰に携えている。
服装の品質から察するに、竜払いとしての収入はそう変わらなそうにない。だから、きっと、似たような規模の仕事をこなす腕前とみる。
彼女と遭遇したのは、依頼人の屋敷の門の前だった。広大な敷地は高い壁に囲まれ、壁沿いに歩いていると、ちょうど、向こう側の壁伝いにやってきた彼女と鉢合わせた。
門の前で、互いに、立ち止まった。それから、無言のまま、見合った。
「あ」
すると、今度は別の方向から、別の男が来た。見てすぐにわかる。
一見、物騒な装備をしているが、あきらかに対人戦闘を専門とした気迫がない。その男もまた、竜払いのようだった。三十歳くらいか。狐みたいな顔をしている。剣を腰あたりに平行につるしている。変わった剣の携え方だった。
その狐顔の男は門の前に立つ、おれと糸目の彼女を見て立ち止まった。
そして、考える間もなく、もうひとり現れた。今度は老人だった。一見、物騒な装備をしているが、あきらかに、対人戦闘を専門とした気迫がない。
老人も竜払いのようだった。
みな、門の前で立ち立ち止まり、互いをけん制というわけでもないが、間合いを図っている。
けれど、いつまでもここでこうしてはいられない。思って、門をくぐることにした。すると、他の三人も、同じように門をくぐってきた。
もしかして、依頼人は、いっぱい依頼したのか。
いいや、もしかして、一見、物騒な装備をしているが、あきらかに、対人戦闘を専門とした気迫がないだけの一般人の可能性もある。
謎を保持したまま、屋敷へ続く一本道を歩む。広い庭には、腕のいい庭師が手入れしたらしい光景が広がっていた。
そして、おれが先頭になる感じで、四人、一列で屋敷へ向かう。
なぜか、いま、かるがもの親子みたいになってるぞ。思って、少しやるせなくなった。おれは、かもではない。
屋敷の戸を叩く。すると、他の三人も横に並んで、一斉に戸を叩く。四人でいっぺんに戸を他くので、まるで、押しかけた借金取りが戸を叩いているような、猛々しさだった。
ほどなくして、戸があいた。出迎えたのは、いかにも執事という服装の男性だった。
「みなさま、ようこそ。おまちしておりました」
みなさまと言った。つまり、四人とも正式にここに呼ばれたのか。
竜払いを四人。いや、けれど、まだまだ、一見、物騒な装備をしているが、あきらかに、対人戦闘を専門とした気迫がないだけの一般人の可能性もある。
希望を捨ててはならなかった。もちろん、希望とかでもない。
なので、その希望は玄関先へ捨てて、屋敷のなかへ入る。なかは、広く、天井も高く、正面には歌劇団が下りても大丈夫そうな大きな階段があった。
そして、階段の踊り場には、肖像画があった。 立派な髭を生やした紳士だった。
「やあやあ、みなさん!」そこへ、肖像画そのままの髭の紳士が手をふりながら階段を下りてくる。
彼が、四人も竜払いを呼んだのか。しかし、竜払いを四人呼ぶとか。どんな竜なんだ。
もちろん、竜払いも数がそろえばいいというわけもない。面識のない者たち同士では、連携も難しい部分がある。
「みなさん、わるいねえ! うんうん!」
依頼の内容も気になったが、依頼人の声がでかいのも気になった。
「いやいやいやー、うちの庭に竜が来てしまってねえ! あのね、竜はね、こんなん、こんなくらーいの、犬ぐらいの大きさのやつ! いやいやいや、にしても竜だからねえ! こりゃこりゃありゃー、ってなってねえ! で、急いで来てくれる竜払いさんを頼んだんだけど、ほら、誰でもいいっていったら、いま、じいさんの竜払いしかいないって言われてさあ! ああ、そんなの死んじゃう死んじゃうって思ったんで、べつの人に変えようとしたら今度は目の細い竜払いしかいないってなってさあ! ああ、目の細いと竜もみえずらいんじゃないかって思って、じゃあ、べつの人を、って探したら、今度は狐みたいな顔の人しかいないってなってねえ! で、私、狐、嫌いなんだよねー! って、ところで、うーん、やっぱ、そんなことで判断するの悪いから、三人とも来てもらうようにしたんだあー!」
紳士は階段から降りながら意気揚々とそういった。
見ると、三人は黙って、じっと紳士を見ていた。
「あのね、竜はね、こんなん、こんなくらーいの、犬ぐらいの大きさのやつが庭にの、ね、でもねえ、竜とはいえ、叩いたりして倒しちゃうのはかわいそうだし、まま、さささーって、払ってくださいなー」
そこで、まだわかっていないことを訊ねた。
「あの、おれは何故呼ばれたんですか」
「うん、きみは、むかし飼っていた鯰に似ててたから。なつかしくてつい」紳士はそう言って「さーあ、みなさん、さっそく竜を払ってくださいよ! いえーい!」と、声をあげた。
直後、三人が紳士を囲った。
一見、物騒な装備をしているが、あきらかに、対人戦闘を専門とした気迫もあった。
やれやれやれ
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