めいきゅういり
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
彼女は家へ招き入れ、部屋に通すと、床板をあけた。
そこには地下へと続く階段があった。数段先は濃い闇になっていて、奥はまったく見えず、ただただ黒い。
「この地下迷宮に竜がいます」
彼女は神妙な面持ちでそう告げる。十代後半あたりで、頭からすっぽりと被った外套から見切れる頬には、そばかすがある。
「竜がいるのはこの地下迷宮のずっと奥深くです」
彼女は神妙な面持ちで階段の先の闇を見据えながらいう。
明かりがないと、まともに階段を降りてゆくことも難しいそうだった。
「お願いします、この地下迷宮にいる竜を払ってください」
切実な表情でうったえてくる。
「はい」
返事をし、深呼吸した。
それから、彼女を見た。
「聞いてもいいですか」
「なんでございましょう」
「地下迷宮って、なんなんですか」
その部分を問う。彼女の家は、町のなかにあり、家の外観もありふれている。
「なぜ、あなたの家の床下に、こんな地下迷宮があるんですか」
「それは私が自力ですべて掘ったからです」彼女はせつじつそうな表情を維持したまま、さっさとそう言って終わらせ「竜払い様、どうかご武運を」と、続けた。
「まて」突発的に相手が依頼人であることを忘れて雑に問う。「いまなんと言いましたか」
「はい、私が自力で迷宮を掘りました」また、さっと、そういうと彼女は、すぐに話題を切り替える。「では、どうかご武運」
「うん、まず、そのご武運を、一度、ひっこめてくれないか。さっきから、ぐりぐり、ぶつけてきてますが、ご武運を」
「ご武運は、お嫌いですか」
「ご武運の好き嫌いを質問形式に当て込んだのは、きっとあたなが人類初で、最後だと思います」
「いいえ、決してそんなことはないと思います」凛として答えてくる。「人類はすでに使っているはずです、そう、わたしは信じています」
いろいろと、不要な情報も混ぜて返してきたけど、それらはとりあえず無視した。
「あたなが、この迷宮を自力で掘ったんですか」
「まさか、冗談です。これはむかしからここにある下水道につながるこの家の脱出路です」
真顔で言ってきた。
なので「はい、わかりました」といい「では、とりあえず、いますぐ、きみから脱出します」と伝えて、明かりをつけながら階段を素早くおりる。
ご武運を言わす間を与えない。
すると、背後から「ああ、意地悪!」と、叫ばれ、それは下水道によく響いた。「だって、たまには、こんな私でいたいんだもの!」
それはかなり大きな声だった。
そして、その声で足元にいたねずみの親子もどこかへ逃げてゆく。
そのなかに、ねずみくらいの大きさの竜もいた。
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