乙女ゲーのメインヒロインに転生しちゃった私だけど悪役令嬢が天使か女神だったので洗顔指南してきます!

夕藤さわな

第一話 トラックに轢かれるのはお約束だよね☆

 私、佐藤 美咲!

 思春期ニキビに悩むごく普通の女子高校生☆


 ううん、ごく普通の女子高校生だった……って、言うべきかな。


 思春期ニキビの治し方を調べているうちに手作り石鹸にちょっとだけハマった……のは、まだごく普通のうち。

 思春期ニキビの治し方と手作り石鹸について調べているうちに『つるりん卵肌なキミに恋したい☆』なんて、とんでもタイトルの乙女ゲーを見つけ、流れで小説版『つるりん卵肌なキミに恋したい☆ ~皮脂はニキビのもと☆ニキビは嫉妬のもと~』一巻をうっかり試し読み。

 ツッコミどころ満載の超展開に試し読みでの足抜けに失敗。閉店間際の本屋に駆け込んで、全四巻を一気買いする羽目になった……のも、まだまだごく普通のうち。


 ちなみにこの『つるりん卵肌なキミに恋したい☆』。メインヒロイン・パールがつるりん卵肌と聖なる石と、ちょっと夢見がちだけど優しい心(?)を武器に次々と攻略男性キャラを手懐け……もとい、落としていく乙女ゲーだ。

 優しい心(?)とクエスチョンを付けたのはちょっと夢見がちだけど優しい心の具体例が――。


 朝起きたら小鳥さんにおはようと言う。

 ※ただし、小鳥さんと攻略男性キャラ以外に話す相手なんていない☆


 つらいことがあっても小鳥さんといっしょに歌えば忘れられる。

 ※ただし、歌ってる歌は呪い歌☆


 意地悪する子がいても仕返ししたりしない。

 ※ただし、お友達の小鳥さんが目をつぶしに行くよ☆


 だったからだ。あれもこれもどうかと思うけど……お友達の小鳥さんが目を潰しに行くって、本当は怖いグリム童話かよ! パールちゃん、シンデレラかよ!!

 メルヘンとメンヘラの違いについて作者とは小一時間語り合いたい!


 しかも、聖なる石とか言ってるけど絶対にただの固形石鹸だし。めっちゃ泡立つし。聖なる石の力で倒せるとかっていう敵も某国民的ばい菌に激似だし!!


 ゲーム版では様々な男性キャラを攻略するらしいパールちゃんだけど、小説版ではメインヒーローである皇太子との恋愛が主軸となっている。

 パールのつるりん卵肌に一目惚れした皇太子が、彼女の肌にキスしようとことあるごとに迫ってくるのだ。


 セクハラだ。皇太子という立場を利用した圧倒的パワハラだ!


 でも、そんな強引なところが好き☆ とか、パールちゃんご本人が言っているから圧倒的セーフなのだ。むしろ圧倒的正解なのだ。


 ガッデムイケメン! ただし、イケメンに限るは物語の中でも健在なのか!


 乙女ゲーの小説版なんて読んでるくせに何言ってんの? と、思うかもしれないけど、私はイケメンが大嫌いなのだ。クラスのイケメンに思春期ニキビを指さして笑われて以来、大っっっ嫌いなのだ! 顔面偏差値にあぐらを掻きやがって……クソが!!


 ……と、失礼。少々、取り乱しました。


 話を戻してイケメン(?)皇太子の話。

 やけに鼻の先がとがったイラストの皇太子がイケメンかと言われると全力で疑問だけど、作中でイケメン設定ということになっているのだから、この皇太子は誰がなんと言おうとイケメンなのだ。そういうところも鼻につく!

 さらに鼻に付くのがこの皇太子、美人の婚約者がいるのだ。パールちゃんから見たら恋敵、悪役令嬢ポジションだ。


 小説版三巻ラストで自ら頬のニキビをつぶしてしまった悪役令嬢・ロザリア。彼女の頬には一生消えないニキビ痕が残ってしまった!

 ニキビ痕に絶望し、婚約者を奪ったつるりん卵肌なパールちゃんに嫉妬したロザリアちゃんはパパに頼んで暗殺者を雇い、パールちゃんを殺すよう命じるのだった――!


 で、ここからの展開が荒い、速い。ページ数わずか四ページで――。


 ニキビ由来の暗殺命令……かーらーのー!

 悪役令嬢処刑……かーらーのー!

 パールちゃん、皇太子と結ばれて無事にハッピーエーーーンド!


 って……待てや、おい! 悪役令嬢とは言えうら若き乙女が首スパーン! って、ギロッチンされた直後! たったの一行開けただけで真っ白なウェディングドレス着たパールちゃんが――。


 私、幸せ! 世界がきらきら輝いて見える! あなたといっしょだからかな☆


 とかって、めっちゃ笑顔で言ってるんだけど! あんたのせいで悪役令嬢、首ギロッチンされてんだけど!? 作者! やっぱりメルヘンとメンヘラについて小一時間、語り合……いや、説教させろ!

 悪役令嬢とは言えうら若き乙女がギロッチンされてるのを特等席でご観覧あそばせたのに〝世界がきらきら輝いて見える!〟とか言っちゃうパールちゃんの情緒!!


 ……とかとか。

 ツッコミどころ満載の全四巻を一気読みしたあと、やっぱりツッコミどころ満載のゲーム版シナリオについて検索しまくって完徹。


「つっるりんりん♪ つるつるりん♪ センセーの頭もつるっとつるつるしてるけど~♪ 私のお肌の方がつるつるりん♪ ……ふ、ふふっ」


 なんて、歌詞はクソなのになかなかに中毒性の高いゲーム版オープニングソングを口ずさみ、寝不足でふらふらしながらぼっち登校していた私は、思い出し大笑いしそうになっていた。

 一人で腹抱えて笑い死に掛けてるとか怖すぎる。どうにか笑いを飲み込もうと息を止めているとぐらりと体が傾いた。酸欠と寝不足でめまいを起こしたらしい。

 ぼっち登校中に、ぼっち思い出し大笑いをした挙げ句、ぼっち転びして、ぼっち起きするなんて恥ずかしすぎる! なんて、考えながら受け身を取ろうとした私はお約束的タイミングでやってきた居眠り運転のトラックに跳ね飛ばされたのだ。


 これがごく普通の女子高生だった・・・……と過去形で話した理由。


 いやぁ、短い人生だった。

 できれば小説版『つるりん卵肌なキミに恋したい☆ ~皮脂はニキビのもと☆ニキビは嫉妬のもと~』は処分してから死にたかったなぁ。まぁ、うちの家族なら気にしないか。なにせ祖父母の代から続くエリートオタクだから!

 なんなら小説版『つるりん卵肌なキミに恋したい☆ ~皮脂はニキビのもと☆ニキビは嫉妬のもと~』をうっかり読んで、とんでも展開にげらげら笑って。娘が死んだ悲しみなんてスポーン! と忘れてくれるかもしれない。


 ……そうだったらいいな。


 なんて、考えながら意識を手放した私が次に目覚めたのは――。


「え……?」


 アホみたいに豪華な洗面台の、アホみたいにでかい鏡に、アホみたいに……と言うほどじゃないけど、そこそこ可愛い亜麻色の髪の少女が、手で前髪を上げて額にできたニキビを指で突いている。

 まさに、その瞬間だった。


 ***


 私、パール・ホワイト――十三才!

 思春期ニキビが初めてできて、ちょっとショックなごく普通の女の子☆


 ううん、ごく普通の女の子だった……って、言うべきかな。

 だって私、前世の記憶がよみがえったんだもの!


 前世の私は佐藤 美咲っていう名前の思春期ニキビに悩むごく普通の女子高校生だった。

 でも寝不足と思い出し大笑いによる酸欠でよろめいて、いい感じに突っ込んできた居眠りトラックに跳ね飛ばされて――。


「それで……なんでパールに……『つるりん卵肌なキミに恋したい☆ ~皮脂はニキビのもと☆ニキビは嫉妬のもと~』のメインヒロインになってんだ! クッソ! 口に出すとクッソ長いな、この本のタイトルっ!! あぁ、もう! 略してつるタマだ、つるタマ!」


 ごく普通の女子高生からごく普通の女の子……とは言いがたい、つるタマメインヒロインのパールちゃんになっちゃったらしい私は、アホみたいにでかい鏡に拳を叩きつけて絶叫したのだった。

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