ハーレムを満喫したい転生魔法使い少年VS逆ハーレム希望の転生聖女様VSレッサーパンダ

坂巻

ハーレムを満喫したい転生魔法使い少年VS逆ハーレム希望の転生聖女様VSレッサーパンダ

 オレの名前は(以下略)。

 高校生の時に不登校になりそれから何十年引き(以下略)、久しぶりに外出した時、偶然川で溺れている子どもを発見し助けようとして死ん(以下略)気が付いたら子どもの姿で、魔法の存在するファンタジー世界に転生し(以下略)!


 つまらない前世の事なんか忘れて、新しいこの世界で、えっちな美少女たちに囲まれたハーレムを作って、人生を楽しんでやるぜ!




 あたしの名前は(以下略)。

 病弱で家にいることの多かったあたしはゲームにはま(以下略)、そのまま社会人になって忙しすぎて会社で寝泊まりする毎(以下略)過労で気絶したと思ったら死んでて、気が付いたら西洋風異世界に転生し(以下略)!


 つまらない前世の事なんか忘れて、新しいこの世界で、溺愛してくれるイケメンに囲まれた逆ハーレムを作って、人生楽しんでやるんだから!




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「びええええええええ、ミスりましたぁ!!!!」


 2人のモノローグを聞き終わったところで、湖面を見下ろしていた少女はその場に崩れ落ちた。また問題ごとかと、慌てて俺は彼女の傍に駆け寄る。


「どうしたんだ、クピド。怒らないから言ってみろ」

「ぶえええレッドくうん、どうしよ配置ミスっちゃったよぉぉ!!」

 大きな瞳を潤ませて、世界管理・恋愛担当のクピドは俺にしがみついてきた。幼馴染なのでこの気安さは仕方のないことだが、一応俺はイケメンだし上司なのでもっと敬って欲しい。


「なんだ、転生者を送る世界を間違えたのか……ん? ひとつの世界に魂がふたつ…?」

「そうなのお。死んじゃったけどまだ生きる意欲のある男の子と女の子を育てるようにそれぞれ世界を用意したのに、間違って片方の世界に両方の魂突っ込んじゃったよう!!」

「お前……」

「しかももう片方の世界に、男の子用に用意したうさ耳のえっちな獣人少女と、女の子用に用意した青髪美青年エルフ放り込んじゃった!!!」

「お前……」

「しかも世界のゴールとして転生者の男女が運命の人として結ばれないと平和にならない設定にしたから、ハーレムを求める転生者の少年と逆ハーレムを求める転生者の少女が恋愛しないと、この世はハッピーエンドにならないよう!!!!」

「お前……」


 頭が痛くなってきた。

 とりあえず起こってしまったことは仕方がない。慰めのつもりでクピドの背中を撫でてやる。ぐずぐずと目をこすっていた彼女だが、しばらくすると泣くのをやめていた。

 めんどくさいが部下の精神状態の安定化も俺の仕事だ。付き合いも長いし、どうすれば彼女が立ち直るかもわかっている。そして、落ち着いたのなら、さっさと次の行動に移ってもらうしかない。


「クピド、まだ失敗したわけじゃないだろう? ここから建て直せばいいんだぞ」

「そ、そうだよね。ありがとうレッドくん!」


 世界管理、調整室。

 彼女の担当であるこの場所には、現在俺とクピドしかいない。つまり、上にはまだミスったことはバレていない。

 今からでも転生者たちの育成を成功させれば、何の問題も無いはずだ! 勝ったな!

 もしバレても、俺が頑張って頼めば、大抵のことは許してくれるだろう。


「じゃあ、なんとかこの転生少年くんと転生少女ちゃんを、ずっぽり恋愛させてきらきらハッピーエンドになるよう修正してみるね!」

「おう! お前ならできる、できるぞクピド!」

「うおおおお! 旧世界の情報なら私が一番詳しいんだから、えーと…こんなときは」

「任せたぞクピド!」


 おっちょこちょいで仕事をミスることは多いものの、彼女は転生者たちの元いた世界にかなり詳しい。研究者である父親の影響と知識をもろに受け継いでいて、ここで働くことになったのもクピドの人間に対する知識が豊富だからだ。新たな世界に転生させ、健やかな生活を送ってもらうためには欠かせない存在だ。


 彼女ならばきっと大丈夫、そう信じて俺は別の仕事に向かうことにした。



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 オレの名前は(以下略)。

 辺境の町で農民の子として転生した俺は、偶然町にやってきていた王国に仕える魔法使い(お偉いさん)に才能を見出され、貴族の子どもたちが通う魔法学校に通うことになった。

 入学式の魔力測定で、計器をぶっこわすほどの力を見せつけたオレは、なんかいろんな連中に目をつけられたらしいぜ! やばいぜ!


 同じ学校に通う国のお姫様や、公爵令嬢、聖女様なんかに囲まれて、楽しい学校生活になりそうな予感!




 あたしの名前は(以下略)。

 王都にある修道院に孤児として転生したあたしは拾われ、聖女見習いとして生活することになった。聖獣の狼に懐かれたり、幼馴染少年や町にお忍びで来ていた王子様と仲良くなったり、充実のイベントをこなしていたある日、聖女の力が大・覚・醒!

 正式な聖女として貴族の子どもたちが通う魔法学校に通うことになっちゃった。


 天才魔法少年や真面目騎士見習いくんの知り合いも増えて、楽しい学校生活になりそうな予感!




 レッサーパンダ「くくくきゅるる!」



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「びええええええええ、思ってたのとなんか違うぅ!!!!」


 2日ぶりに様子を見に来たら、幼馴染のクピドはひざを抱えてうずくまってヒンヒン泣いていた。

 またかと思いながらも、俺は慰めることが得意なイケメン上司なので、大人の余裕で優しく状況を聞いてやる。なんていい男なんだ。


「どうしたんだ、クピド。怒らないから言ってみろ」

「ぶえええレッドくうん、想定してたからみじゃないよう!!」


 床を叩きながら、思い通りにいかなかったことを彼女は嘆いている。


「楽しい学校編が始まったんだろ? ……この面妖な生き物は何だ?」

「恋を発展させるには、『当て馬』とか『かませ犬』とか動物を活用するってわかったから、とりあえず突っ込んでみたけどよくわかんないよう」

「しっぽがおおきくてふわふわしてるな……?」

「レッサーパンダって言うんだよ。可愛いねえ」

「お、おう」

「でも全然恋愛が進まないよ。きゅるきゅる鳴きながら、学校を闊歩してるよお」

「元気そうで、よかったな!」

「わあい!」


 クピドは焦っているが、レッサーパンダの健康を指摘してやればすっかり元気になった。

 状況は悪くなったわけではなく、進んでいないだけだ。

 ならばやることはひとつ。


「ここからだ、ここからだぞクピド! もっと時間を進めてレッサーパンダが人間たちを恋に導くのを見守るんだ。投入したお前が信じてやらなくてどうする!」

「はう! そうだねレッドくん、私がんばる!」

「任せたぞクピド!」


 人間たちを異世界で成長させ、定着させるという目的を終わらせはしない。

 精神の育成場所からせっかく救い上げて、新しい世界と身体まで成長させた貴重な人だ。ここで俺たちが諦めてどうするのだ。

 おそらく研究者たちは何度もこんなことを繰り返して実績を残してきたに違いない。そう、顔も家も性格も完璧な俺なら、きっと同じようにできるはずだ。そんな俺の幼馴染もやればできる。


 彼女ならばきっと大丈夫、そう信じて俺は別の仕事に向かうことにした。



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 オレの名前は(以下略)。

 魔法学校に通うようになったオレは、お姫様や侯爵令嬢やメイドたちをどんどん攻略し、モテモテの生活を送っている!

 いけ好かない貴族の坊やたちを校内の戦闘訓練でコテンパンに叩きのめしてやったり、闇の地より生まれた魔王の討伐に向かう勇者候補として選ばれたり、その才能を発揮していた。


 ……それなのに、あの聖女はどうしてオレに惚れない? よくわからん男を侍らせて遠くからオレのことをチラチラ見て、どういうつもりなんだ!?




 あたしの名前は(以下略)。

 魔法学校に通うようになったあたしは、人の姿にもなれる聖獣の狼くんや、幼馴染に王子様、騎士見習い君くんたちに溺愛される甘々な生活を送っている!

 いじめてきた悪役令嬢とも仲良くなったり、魔物に襲われた村の住人を癒したり、聖女っぽい慈愛に満ちた素晴らしさを発揮していた。


 ……それなのに、あの天才魔法少年くんは、どうしてあたしに惚れないの? 巨乳&貧乳の美少女を侍らせて遠くからあたしのことをチラチラ見て、どういうつもり!?




 レッサーパンダ「くぅうきゅるるるるぅ!」


 その鳴き声は、初めは小さなものであった。

 しかし、多くの軋轢に耐え、不幸に見舞われたものには、救いのような一条の光であった。学校の片隅でささやかな信仰心は育ち、彼らを希望へと導いたのである。

「クラスメイトのさあ、レッサーパンダくん、かなりヤバくね?」と。

「というかエモいし尊いし、ばり良きじゃん」

「クラス委員長とかいいのでは?」

「かなり救世主では?」

「つまり――神なのでは?」


 こうして、のちの世を動かす、<レッサーパンダさいかわ教>は誕生したのである。



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「びええええええええ、三勢力になっちゃったよう!!!!!」

「最後、どゆこと?」


 久しぶりにクピドの職場へとやって来た本日も好青年なのを忘れない俺は、やや唖然としながらモノローグの湖から顔を上げた。


 人間を新たに転生させた目的は、健やかな生活を送り生きてもらうためである。そして、クピドの担当は恋愛だ。前半2つまでなら、ある意味お互い意識しているし、なんとかなるような気もする。だが、追加した動物の役割が解せない。


「あのね、あのね、レッドくん。カワイイレッサーパンダが魔法少年くんと聖女ちゃんの恋愛を手助けしてくれると思ったんだけど、きゅるるうしか鳴けなくて、魔法学校ウロウロするだけで……」

「うんうん」

「気が付いたら、レッサーパンダくん見守る会みたいなのができてて」

「うんうん」

「気が付いたら、新しい宗教が生まれてた」

「なんで」

「わかんないよう!!!」


 星をぶちまけたような美しい瞳に、クピドはいっぱい涙をためて床を叩いている。


「しかも、しかもね? 別の世界に間違って一緒に入れちゃった、うさ耳のえっちな獣人少女と、青髪美青年エルフがね!?」

「ああ、あの、転生者の相手役として世界に入れようとしてた?」

「そう! その2人から手紙と映像が届いてね!? 見てよう!」

「えーと、『ボクたち結婚しました!』?」

「幸せラブラブ、レター送り付けられたの! わああん!NTRだよう!!」

「なにそれ?」

「なんか知らないうちに見知らぬ男に、とられたそこそこ親しいと思ってた、隣人のお姉さん、みたいな?」

「そこそこ親しいぐらいなら、当然知らないうちに男ができることはあるのでは?」

「いまそういう話してないのう!」

「というかその例えあってなくないか?」

「びええええええ、レッドくん真面な返しやめてえええ!!」


 うまい具合に彼女を慰めることができず、嘆息する。

 クピドはもちろん俺の可愛い幼馴染だが、一緒にいて疲れることも多い。そこそこ親しい隣人のお姉さんに癒されたい気分かもしれない。俺の美貌で断られることはないし、今度お願いしてみよう。


 クピドは、その長い髪の部分を床に引きずりながら、仕事場の床を転げまわっている。嘆き悲しむのにもいろんな方法があって楽しそうだ。


「上には何とか説明しておくから、ここから転生魔法少年と転生聖女が結ばれるように、頑張るんだ! お前ならできるぞクピド! レッサーパンダも、ほらえーといい感じだし、きっと上手くいくぞ!」

「はう! そうだねレッドくん、私がんばる!」

「任せたぞクピド!」


 だんだんめんどくさくなってきて、現状の報告を後回しにしたのでは決してない。

 この時の俺の脳内はそれよりもお姉さんに慰めてもらうという、休息を必要としていたのだ。崇高なる使命も、度重なる疲労によって色あせるもの。

 そう、NTRされる前になんとかしなければ。


 彼女ならばきっと大丈夫、そう信じて俺はお隣に向かうことにした。



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 オレの名前は(以下略)。

 転生してようやく待ちに待ったハーレム学校生活を楽しんでいたのだが、国の様子が一変。各地で魔物が暴れ回り、そいつらを倒してオレはついに勇者として旅立つことになった!

 何人かの精鋭たち――そしてあの聖女と一緒にだ。

 聖女は野営の度にどこか様子がおかしい。


 ……もしかして、あいつ実は魔王と通じてるんじゃないのか? オレにも一向に惚れないし。ずっとおかしいと思っていたが、魔王の手先なら納得がいく。あの女の正体を暴いてやらなければ!




 あたしの名前は(以下略)。

 転生してようやくどっぷり逆ハーレム学校生活を楽しんでいたのに、国の様子が一変。各地で魔物が暴れ回り、このままではダメだと魔王討伐が決定した。聖女として魔王を倒す旅に同行することになったあたしは、勇者になった天才魔法少年くんと未だに微妙な距離感のままだ。

 夜になるたび現れる自称イケメンの変な魔物もわけわかんないし、最近かなり疲れている。


 でも、同じパーティのイケメンたちに守られたりするのは悪くないし、魔王様もイケメンだといいなあ。




 レッサーパンダ「きゅるううきゅるるぅ!」


 その者が一声鳴けば、傅かぬ下僕はいなかった。

 海を割り、山を砕くような、そんな豪傑たちも、神の前では等しく無力である。体毛に覆われたその聖なる手によって、触れられることを誰もが渇望した。


「今日もおかわわわわわですね!」

「あ、お散歩ですか? お供します!」

「邪魔するものは全て排除いたしますね」

「例え魔王でも」


 こうして、<レッサーパンダさいかわ教>は学校を飛び出し、各地に広がったのである。



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「びええええええええ、巨大な敵を前に団結しないよおおおお!!!!」

「いいから早く恋愛したら全部解決するって伝えた方がいいんじゃないか」


 事態はかなり混沌としていた。いつものように、クピドは複数の手足をばたつかせ、世界の湖の前で暴れている。


「2人が結ばれたら、世界は終結して、新しい世界構築へまたもっていけるんだろ? それとも新投入した魔王で一回破壊するか?」

「びええええ、恋愛が見たかったのにい! ほらほら、力を合わせて魔王を倒そう、その前の夜に二人きりで語り合おうとかならないかなあ?」

「『魔王』が頼もうか?」

「もうそれわけわかんない!!」

「しかも、このレッサーパンダ、魔王とは別の意味でこの世界を支配してないか?」

「そりゃもう一番かわいいもん。どうしようもないよ!」

「一番かわいいならどうしようもないな!」

「うああああ、でも困ったよお!!」


 彼女の嘆き悲しむ声で、湖面がぴちゃぴちゃと跳ねる。どこかの国では余波で大雨になるかもしれない。


 もうここまでくれば、すぐ上に報告しても、全てが決着したあとに報告しても同じだ。俺はその憂いを帯びた美しい顔をクピドへ向けて、語りかける。


「責任は俺がとってやる。こうなったら、思いっきりやるんだ!」

「レッドくうん!」


 頬を赤らめぶるぶると震える彼女は、どうみても俺に恋をしていた。

 このまま全て終わったあとに、3人目の愛人として認めてやってもいいかもしれない。この星の中でも最高位に位置する美形に言われれば、クピドも快く了承するだろう。


「ありがとう、私がんばる!」

「任せたぞクピド!」


 この世界のいわゆる完結まであと少し。


 ハーレムを満喫したい転生魔法少年と逆ハーレム希望の転生聖女様、そしてレッサーパンダ。彼らが、どういった結末へたどり着くのか、世界を管理する側として興味があった。

 始めは、クピドのうっかりで同じ世界に入れてしまったが、同じ人間の魂同士での生殖はいずれやらなければならない実験だった。人間と同じ身体、疑似思考ではない、本物の人間。彼と彼女は、俺たちにどんな関係を見せてくれるのだろうか。



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 オレの名前は(以下略)。

 魔王を倒す旅で解放した精霊に教えられ、ようやくこの世界の真実を知った。

 多くの魔物の被害を出し大陸中の人々から恨まれる魔王がなかなか倒されないのは、各国の要人を精神操作し自身が危機になるたびうまく逃げてきたからだ。そして、今回の魔王討伐では、聖女を操ろうとしている!

 こんなことになって残念だ。彼女にはオレのハーレムに加わってもらうという夢があったのに。その豊満な胸で甘やかして癒してもらいたかったのに、くそう!

 だが、魔王の手先になってしまったのなら仕方がない。すっかり目つきの変わってしまった彼女と対峙する。


 これで、オレたちの関係を終わりにしよう、聖女! そして待っていろ、魔王! お前の命も残りわずかだ! れ!




 あたしの名前は(以下略)。

 毎夜やってくる自称イケメンの謎のモンスターは世界の管理者の内1人を名乗る、まさかの魔王だった。そいつに教えられ、あたしはようやくこの世界の真実を知った。

 実は、この世界から魔王という存在を消すことは不可能らしく、魔王が死んだときに最も近くにいるものが次なる魔王となる。つまり、この魔王は前回の勇者だったのだ。そして、そんな世界の仕組みを作ったのは、大陸と共に生まれた始祖の精霊たち。

 悲しいことに、精霊は勇者をそそのかしあたしと対峙している。


 なんてこと!? 魔法少年くんと魔王を倒したらようやく恋愛フラグが立つと思ったのに! こうなったらしかたない、あたしたちの関係を終わりにしよう、魔法……いや勇者くん! れ!




 レッサーパンダ「くくくきゅるううきゅるるぅ!」


 まさに、終幕のかけ声であった。


「あ、あの2人が邪魔なんですね。了解です」

「今日もふわふわもふもふですね。おかわわ」

「そうですねぇ。良いお天気ですね。かわいいですよお」

「かわいいい以外のことを考えている奴はじゃまですねえ」

「消しますか? あ、でもいっしょにおかわいいに漬かりたいですねえ」

「じゃあこの2人も連れて行きましょう。おかわいい言う仲間ですよお」

「死んでても、かわいいと思うことはできますからねえ」

「おかわいいを広めるために死者は動く様に魔法をかけますねえ」


 レッサーパンダさいかわ教は、まさに今戦いの火ぶたを切ろうとした者たちを片付け、自分たちの仲間にすることを決めた。というか、世界中みな仲間である。


 そう、レッサーパンダがさいかわであることが世界の真実なのだ。


 見よ。この愛らしいくりくりおめめを。もっふもふの体毛を。ほら、しっぽのところがぶわっとなっててふわふわだぞ。小さめのお耳の白い短い毛も愛らしく、おててなんて一生見ていられるぞ。そしてこの鳴き声。


「きゅるるるる!」


 これだけで、我々は永久の安寧を得られるのだ。

 称えよ、レッサーパンダを。れ。



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「……あいつらの生体活動が止まった。上に報告してくる」

「ありがとう、レッドくん……」

「責任は俺がとるって、言ったからな」


 転生した者たちの末路を見届けた俺は、世界管理室の一つである調整室を出て、薄青い廊下を歩き続ける。これから、彼らの顛末を伝えなければならない。


 そもそも、こんなことになったのは、俺たちが滅びてしまった地球を発見したからだ。

 生命は死に絶え、瓦礫の星となってしまった地球に何があったのか、それは今でも研究が続けられている。


 滅亡の理由は不明のままだが、地球を支配していた生命体・人間の機能拡張装置思考集結体――またの名を『魂』を回収することに成功した。

 幸いなことに、人間の育成方法を記した書物も見つかり、我々はできるだけ飼育環境に近い世界を構築した。

 何でも日本という養育院で一定の精神状態まで育てられた人間は、一度何らかの方法で命を落とし、魂を別の肉体へと挿入した後新たな環境で生活を始める。

 それまでの養育院での経験を活かし、知恵や追加で手に入れた能力と共に、より良く生きるのである。


 この広い宇宙で奇跡的に出会った、同じ命として、どうにか人類を復活させたい。


 何度失敗しても、諦めはしない。

 そのためにも、残っていた書物の解読を進めここまできたのだ。生育環境に似せて作成した世界で新しい身体に早く定着して欲しい。


 俺は、職場の長い廊下を歩きながら、彼ら人の残した素晴らしい言葉を再度胸に刻む。

 そこには、おそらくこう書かれていた。


『俺たちの戦いは、ここからだ!』と。











「どうしてそんな大事なことを、今まで黙っていたんだ!」

「すみません! 先輩!」


 クピドたちがいる調整室とは違う場所で、また一つ問題が明らかになろうとしていた。


「まさか宇宙間危険指定種を逃がすとは、どういうことなんだ!」

「目を離したすきに、うっかり!」

「愚か者め! やつらと接触してしまったら最後、『レッサーパンダさいかわ』以外考えられなくなり、彼らのために尽くす奉仕者へ変えられてしまうんだぞ!」

「ううう、すみません……れ」

「他の生命体の思考を固定して、種の発展のための全てを放棄させてしまう、という恐ろしい種なのに! 我々のように抵抗力を持っていない者の世界に逃してしまえば、大変なことになるぞ!」

「ひいいいい、とんでもないことを……れ、れれ」

「お前……さっきから何を……」

「れ、れ、れれれれレッサーパンダ、さいかわ」


 人間の復活は大切な研究である。

 だが、彼らはまだ知らない。自身に降りかかる恐怖を。


 別の脅威は、すぐそこまでやってきていた。

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