それだけでいいの

@tuzihime

第1話 寸止め

結婚して数十年経ち、子供も成人して家を出ていった…私ももう四十代…心も体も色気のへったくれもない…若かった頃に戻れるなら高校時代に戻りたいわ…このままじゃあの人にも愛想つかされる…

そんなことを考えているとガチャっと玄関のドアが開く音が聞こえてきた。


「ただいま…」


「南雲さん…おかえりなさい、ご飯にする?お風呂にする?」


「……。」


あれ?返答がない…浩志さんは頬を赤くして何故か黙ってこちらを見つめてきた…まるで何か別のものを待っているかのように…気のせいかな?


「あ、もしかして食べてきたの?」


「あ、いやお腹すいてるしご飯にしようかなっ!」


「え、えぇ。」


スーツとカバンを渡していそいそと部屋に入った浩志さん…なんだったんだろう…


「美味しい…」


彼は本当に美味しそうにご飯を食べてくれる…それにいつも美味しいと言ってくれる…今日友達が『昔は美味しいって言ってくれてたのに今は当たり前みたいに食べて食器はそのままだしほんと腹立つわー』と言っていたがウチはそういうのないなぁ…


「な、なに?」


「ふふっ、ご飯粒ついてるわよ。」


口を近づけてパクッと食べると顔を真っ赤にして俯いてしまった…まぁ、年取ったおばさんが何してんだって怒られるかなって思ったけど意外と初心な反応をしてくれて少し嬉しかったり


「今日はどうしたの?」


「ううん、なんでも。」


「…あのさ、明日からお盆で休みだからどっか行かない?」


そういえば明日からお盆になるのね…専業主婦やってると曜日とか日にちの感覚が無くなってくるのよねぇ…


「いいわね…どこ行くの?」


「行ってからのお楽しみだよ。」


「なにそれぇ!」


新婚カップルじゃないんだから教えてくれたっていいのに!まぁ、南雲さんが楽しそうだからそれでいっか。

南雲さんはこの時間いつもテレビを見ているから先にお風呂に入ってこようかしら…


「ふぅ…」


むぅ…歳をとるとすぐにお腹についてしまうぷにぷにしてる…胸はナイトブラとかしてる分大丈夫そう…おしりはちょっと太っちゃったかな…南雲さんは大きいおしり…好きかな…


「って!高校生じゃないんだから!」


今更こんなおばさんに求めたりしないわよね!もう私ったら!そんなことを考えながらお風呂を出ようとすると…


「風呂に入ろ…う…かな。」


まさかの南雲さんが入ってくるとは思わずタオルなんてしているはずがなく、生まれたままの状態でいたのだ。結婚して全くそういうことがなかったのに今こんなことが起きるなんて!せめて若い時にしてよぉぉぉ!


「ご、ごめんなさい…お見苦しいものを見せちゃって…」


「い、いや…完全に俺が悪かった…」


とりあえず腕で上と下を隠した、南雲さんは手で見えないように目をおおった…少し隙間を開けて見ている気もしたが気のせいだろう。


「って、夫婦なんだし気にしなくていいわよね…」


そう言って何事も無かったかのようにバスタオルで身体を拭いていった南雲さんは頬を真っ赤にしながらその場からそそくさと離れていった


「やっぱりこんな身体じゃなんともないか。」


ちょっと悲しい…かな。もう少し見てくれても良かったのに…


ーー

このままではおわれない!

変なスイッチが入った。このままじゃきっと愛想つかされて浮気されてしまう…少しでもこっちに向いてもらう!そのためなら頑張れる…はず!


「南雲(なぐも)さん今日は一緒に寝てもいい?」


「え!?う、うん。」


部屋を決める時、寝室は別がいいと言われて別にしていたが時々どうしても気になってしまう…不安になったりすると南雲さんの部屋に行くようにしている。南雲さんは一瞬戸惑ったような声を上げたが横にずれてくれた…とりあえずその横に寝転がった


「ふふっ、いつぶりかしら…こうやって一緒に寝たの…」


「…俺は毎日でも一緒に寝たいけどね。」


え?今なんて…と聞き返そうとすると南雲さんは少し起き上がって私の前に覆い被さるように上に股がった。


「南雲さん?」


「佳奈美…これ以上我慢できない…」


そう言うと私の両手を掴んで上にあげると左手で抑え込んだ…完全に抵抗できない状態になって心臓の鼓動が早くなる…


「え…え!?」


「ずっと我慢してきた…佳奈美の負担にならないかとか、生活に支障があったらとか、佳奈美自身が嫌だったらとか…」


「南雲さん…?」


「でもここまで誘惑されて…我慢出来るわけが無い…」


「誘惑なんて…んっ…」


最後まで話す前に口を塞がれてしまった…久しぶりのキス…ずっとしてなかったからめちゃくちゃドキドキする…最初はお互いに探り探りだったが慣れてくるとディープなキスになっていく…


「南雲さ…南雲さん…まって…」


「だって…俺を誘うみたいな言葉でさ…帰ってきた時…なんで最後まで言ってくれなかったの?」


あ…帰ってきた時のあの言葉!?最後までって…まさか!それとも私?を待ってたってこと!?うわぁぁぁ!というかあんなベタな言い回しをなんで今日に限って言ったの!?不安だったからっ!?


「でも明日は早いからこれくらいにしておくよ…明日からはもう我慢しないから…覚悟してね。」


耳元でそう囁かれ…それだけで変な声が出てしまいそうになってしまう…。


「おやすみ…」


「…はぁぁぁ」


これじゃあ生殺しじゃないの…

四十代を超えたおばさんの私佳奈美は南雲さんに愛されすぎて幸せです。

ちなみに後日寝室のことについて聞くと一緒にしたら毎日してしまいそうだったからだそうだ…何をというのは想像におまかせします…。

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