冒険者の「生命保険」
Syu.n.
1.男の状況
男は「剣士」であり「冒険者」である。
つまり、この世界のどこにでもいるような存在だ。
冒険者とは、「冒険者ギルド」という所に登録している者を指す。
そこから「クエスト」と呼ばれる様々な依頼を選んで、達成することで報酬を得て生活するのが基本だ。
冒険者には、上はAから下はFまでの「冒険者ランク」があり、高ランクほど高難易度高報酬のクエストを選択できるシステムとなっている。
さらに冒険者ランク上位、具体的にはCランク以上になると、クエスト報酬以外にギルドから定期的な手当てが出るようになる。
Cランクの手当てはだいたい、クエストを無理なく受けていれば、自分だけなら贅沢せずに生活できるレベル。
Bランクになれば、贅沢をしなければ手当だけで生活でき、Aランクに至っては贅沢と言える生活ができるであろうレベルの高額手当が支給される。
・・もっとも、A,Bランク冒険者は数が少ないため、緊急時や深刻な難易度のクエストが出れば、狩り出されることも少なくないが。
Cランク以上は全体の2割程度であり(Aランクは1%に満たない)、それ以下の冒険者の多くは、まずCランク以上を目指すのが一般的である。
男も例に漏れず、冒険者ランクCを目指している。
この男、自身はそれぼど「贅沢な生活をしたい!」みたいな金銭的欲望は無い。
だが、彼はひなびた農村の貧しい一家の長男である。両親に加え、弟と妹も一人ずついる。
一家の大黒柱として、定期的に仕送りをする必要がある。
そのため、危険と隣り合わせだが高額な報酬もあり得る、冒険者と言う職を選んだ。
・・・しかし、男の現在の冒険者ランクは「E」。
Cランクは元より、それより一つ下のDランクにすら届いていない。
同年代、ほぼ同キャリアの冒険者が軒並みD、一部でCランクになったと聞く者もいる中で、一歩遅れた感じだ。
男の剣士としての技量は、Dランクの他と比較しても遜色はない。
だが、「早く家族を楽にさせてあげたい!」という使命感が、彼の中で悪い意味で焦りとなり、結果が出せていない形となっている。
あと少し心に余裕があれば、あるいは持てるようになれば、男もまたD、Cランクに届いたかもしれない。
だが、事態はそれを待ってくれなかった。
男の産まれた農村が、近年稀に見る大規模な不作に見舞われたのである。
元々、芳醇と言えない収入源の村人同士で支え合って成り立つような小さな村。
村全体が不作となってしまっては、支え合うのもままならないのは自明である。
早急にまとまったお金、具体的にはCランク相当の高難易度クエスト高額報酬が必要。
クエストは原則2ランク上まで受けられるので、Eランクの男はかろうじて受けること自体は可能。
・・・だが、そのクエスト内容は、とてもではないが男が達成できそうな内容ではなかった。
・・・・・男は覚悟を決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます