たったひとりの前夜祭
シイカ
たったひとりの前夜祭
私の世界に朝はない。
この暗い檻に閉じ込められてから私は何時間、何日、何年の時を過ごしたのだろう。
たまに、身体の手入れをしてくれる人がやってくる。
最初は子どもだったのにいつの頃から大人の人に変わっていた。
「あの子はどこへ行ったの?」
私は聞いてみた。
その人は何も答えずに黙々と私の手入れをした。
髪を切り、爪を切り、身体を拭いた。
手入れが終わると、その人はまた出ていく。
私はいつからここにいるのだろう。
壁に何か引っ搔いた傷がある。
数を数えていた頃のものだろう。
私は毎日待っている。
何を待っているのだろう。
それは、いつか来る。
何かを待っているのだ。
私は夜が終わるのをまだかまだかと待っている。
それは終わらない前夜祭だ。
この檻が開かれたとき、私の朝が始まる。
そのときが来るまで私は待ち続ける。
私の朝がとうとうやってきた。
いつも私の手入れをしてくれる人が私の檻を開けてくれた。
「出てきてください」
私は言われるまま檻から出た。
その人は悲しそうな顔をしていた。
その人に連れられ、歩いていくと徐々に道が明るくなってきた。
私はやっと朝に出会えると思った。
しかし、目に布を巻きつけられた。
「どうして朝を見せてくれないの?」
私は声に出した。
「朝を見るとアナタは泣いてしまうかもしれない」
「なぜ、朝を見ると私は泣いてしまうの?」
「朝には見たくないものがたくさん見えてしまうからだよ」
「朝が見たいわ」
「アナタは朝を見てはいけない」
それっきり、言葉を交わすことはなかった。
どれくらい歩いただろう。
途端にピタリと止まり、扉が開く音がした。
たくさんの人の気配がする。
たくさんの人が私を見ている。
ザワザワとした音が耳にいっぺんに入ってきた。
私は耳を塞ぎたかった。
カンッカンッと木槌の音がするとザワザワはおさまった。
「被告…………の死刑を執行する」
私は両腕を捕まれ、台にうつ伏せにさせられた。
ああ。思い出した。
私はこの日が来るのを待っていたんだ。
この日のために私はありとあらゆる罪を犯し、国をも混乱に陥れた。
私は自分の死を見せつけて生きた証を残そうとしたんだ。
ここにいる皆さん、私が生きていたことを覚えていてください。
私の長きに渡る、たったひとりの前夜祭はこれにて終焉です。
たったひとりの前夜祭 シイカ @shiita
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