1人ビスコッティ・パーティー



『長いトンネルを抜けると、そこは雪国だった。』


そんなかの有名な小説の冒頭のような景色に、らぷんは思わず「うわぁ…」と息を呑んだ。


フィレンツェからヴェネツィアへ向かう途中、地平線の果てまで続く丘陵地が、降り積もった雪で辺り一帯全部真っ白になっていた。

雪国生まれではないらぷんとKは、この見慣れない絶景に釘付けになっていた。



電車がジェノバ駅で途中停車すると、らぷんたちが座っていたボックス席にイタリア人男性が相席する。

スーツを着たこの男性は、少し強面で初めて会うとちょっとビビってしまう雰囲気のある人だった。


それまでペチャクチャ喋っていたらぷんとKは、男性の雰囲気に圧倒され黙り込んでしまう。すると、らぷんの目の前に座っていたKは腕を組んで目を閉じ、そのまま夢の中へと旅立って行った。



キキーッッ!!!



突然、特急電車が止まり、車内アナウンスが流れる。イタリア語のアナウンスは何を言っているのかさっぱりわからなかったが、大方「雪で電車が遅れます、みたいなこと言ってるんやろなぁ〜」とらぷんは思っていた。


いつまた動き出すかわからない電車。

同じボックス席には、イカつい男が座っており、

目の前の友人は眠っている。


らぷんたちの席の空気は、さながら地獄のようだった……。


らぷんはそんな雰囲気が嫌になって、Kを置いて食堂車に向かう。「おやつないんかなぁ?」と見に行ったら、食堂車は多くの人で溢れていた。


なんとか買えたヘーゼルナッツのビスコッティとミネラルウォーター。

らぷんは席に戻ると、買ったビスコッティをテーブルに広げてビスコッティ・パーティーを始めた。


一枚ずつゆっくり食べたビスコッティ。半分食べてもまだ電車は発車する気配もない。

そんな様子にしびれを切らしたのか、イカつい男がケータイで電話をし始めた。



「Ciao Ciao (チャオチャオ)」



「フッ…www」と思わずらぷんは鼻で笑う。


アンタがチャオチャオって可愛すぎだろっ!


多分「もしもし」っていう意味のイタリア語なんやろなぁ〜って思ってたけど、いかんせんギャップ萌えがすごかった。

イケおじ好きな女子ならイチ殺である。


クスクス笑ながらビスコッティを食べていると、イカつい男の電話が終わるような雰囲気だった。そして電話を切る間際に男はこう言った。



「Ciao Ciao Ciao (チャオチャオチャオ)」



ブホッッッッッwww!!!!!ゲホッゲホッ……


らぷんは吹き出し、ビスコッティでムセた。


チャオチャオチャオは言い過ぎやろっ!!www

3回も言わへんでええやんっ!www


イカつい男の「チャオチャオチャオ」はあまりにも可愛すぎた。こうしてらぷんもイカつい男と可愛いイタリア語のギャップ萌えにやられてしまったのである。


どうしても気になりすぎたらぷんはイカつい男に話しかけた。


「なぁなぁ、そのチャオチャオって電話の挨拶なん?」

「………ん?そうだよ。」

「チャオってたくさん言うてて可愛いね。

バイバイの時はチャオチャオチャオなん?」

「ん?バイバイもチャオチャオだよ。

3回もチャオなんて言わないよ。」

「アンタ、さっき電話切る時チャオチャオチャオ言うてたでっ!!!」

「えっ…そうかい。それは気づかなかったね。」

「そこは気づけやっ!wwwまぁええけどwww

可愛い挨拶見してもろうて、ありがと。

お礼にビスコッティ食べる?」


らぷんは「飴ちゃん食べる?」みたいなテンションでビスコッティを男に差し出すと、


「いいよ、いいよ。君が買ったんだから君が食べなさい。Grazie(ありがとう)」


それまで表情筋が全く動かなかった男の口角が上がり、それまで見せていた強面とは全然違う優しく可愛らしい笑顔をらぷんに見せた。


こんなん…惚れてまうやろぉぉぉ……!!

らぷん男だけど。


イタリア人イケおじの可愛いところが見れた、77分間の1人ビスコッティ・パーティーだった。

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