第37話 閑話 メリア
私はメリア。
ヘイベスト商会っていう大きな商家の娘で、歳は十二歳。
ちっちゃな頃、いずれ私も商会の一員として働くことになると思っていたわ。
でも、お父さまもお母さまも、私はあんまり商人に向いていないって言うの。
どうしてかしら?
そのうち私には魔導の才能があることがわかって、せっかくだからって魔導学園に通わせてもらえることになった。
商人とは違って、学問に向かい合う学徒は私に合っているらしいけど……正直、自覚はあんまりないの。
でもそれならそれでと、私は考えを改めた。
魔導学を学んで、いずれはそれを活かし魔道具なんかを発明できたらいいかなって。
それがとっても良い物だったら、きっとうちの商会が発展する手助けになると思うし。
学園に通い始めたところで、私は使い魔として魔獣の子供を贈られた。
見た目はちっちゃい子犬。
可愛い。
でも可愛がるばかりじゃ駄目。
この子は私の相棒になるんだから、躾はしっかりしないと。
そんなちっちゃかった子犬――フリードも今では四歳。すっかり大きくなって、突撃されると受け止めきれず転んじゃうほどになった。
普通の犬なら四歳は立派な大人だけど、フリードは犬よりも長生きな魔獣だから、まだそこまで大人ってわけじゃない。
子犬の頃からすればだいぶ落ち着いたけど、まだ甘えん坊なところがあって、ちょっとおバカだったりする。
困るような、可愛いような。
△◆▽
その年の春、商会は大きな仕事を請け負い、お父さまはしばらく出張することになった。
それはユーゼリア騎士団について魔境へ向かい、間引きされた魔獣の買い取りを行うというお仕事。
この魔境遠征はユーゼリアが国になる前から季節ごとに行われてきた行事で、参加できれば大きな利益が見込めるのみならず、商会としても箔がつく。
お爺さまの手腕で大きくなったうちの商会はこれがやっとの参加。
だからお父さまはすごく張りきっていたけど、私としてはちょっと心配だった。
なんでもここ二年くらい、魔境の様子がおかしいって学園でもときどき噂されていて、大暴走の前触れなんじゃないかって話まであったから。
でもそんなのは杞憂で、お父さまは無事に帰ってきてくれた。
狩りの成果はあんまりよくなかったみたいだけど、良い出会いがあったとかでお父さまはご機嫌。
知り合ったのは魔境で活動している狩人のケインさんって人。
自分で狩人と言うわりには、収納の魔法が使えるような魔導士らしいの。
魔導士見習いの私からすると、そんなの雲の上の人なんだけど……なんで狩人?
ともかく魔境で活動してるとか、相当な実力者に違いない。
そんなケインさんとの縁は続き、お父さまはときどき訪ねて来るケインさんに私の指導を願い出るまでになった。
もちろん可能ならお願いしたいところだけど……どうしよう。
ひとまず指導を受けるかどうかは、顔合わせしてから決めればいいということになった。
何かとお世話になっている人だ、ここは失礼のないようにしないとと私は自分に言い聞かせた。
そんなケインさんとの顔合わせを心に留めておきながら日々を過ごしていると、フリードの晴れの舞台がやってきた。
それは従魔ギルドが主催する、従魔の競争をする大会。
立派に育ったフリードが活躍するのは私としても誇らしいし、ここでフリードが良い成績をおさめたら、私の学園での評価もちょっと上がる。
そんな張りきって参加した大会で、私は変な人に出会った。
無謀にも、まだふわふわしたちっちゃな子犬を参加させようとしているお兄さん。
私より五歳くらいは年上かな?
黒髪で、ちょっと人相が悪い人。
あんな小さな子犬を参加させようだなんて、あまりにも無茶な話だったから私は思わず注意した。
でもそのお兄さんは飄々としていて、さっぱり聞く耳を持たない。
聞けばその子犬――ペロちゃんは魔境で暮らしていた魔獣らしいんだけど……本当に大丈夫なの?
なんて私は心配していたんだけど、レースではそのペロちゃんは大暴れした。
うん、本当に大丈夫だった。
でもって、ペロちゃんが大暴れしたおかげ(?)もあって、レースはうちのフリードが優勝。
これは感謝しないといけないかな……?
お礼を言おうと思ったんだけど、表彰式のあとお兄さんを捜しても見つからなかった。
さっさと帰っちゃったみたい。
干し肉のお礼も言わないといけなかったのに……。
このお兄さんの話は、フリードが優勝したという報告と一緒にお父さまとお母さまにも話した。
するとお父さまは何か思い当たるような顔をしたあと、また会った時にお礼をすればいいと言ってきた。
また会った時って……会えるのかしら?
それからフリードは貰った干し肉が気になってそわそわしっぱなしになってしまった。
もうなんか『えへへ、欲しいなぁー、ボクあのお肉欲しいなぁー』って声が聞こえてきそうなくらい。
これで貰い食いが収まるといいんだけど……。
なんか最近、フリードに勝手に食べ物を与える人がいるのだ。
まったく、フリードが可愛いのはわかるけど、こっちは与える物にちゃんと気を使っているから迷惑なのよね。
そんな腹立たしく思っていたある日、妙にフリードが騒ぐ。
何かと思って自室の窓から見下ろすと、フリードが誰かから食べ物を貰っていた。
って、よく見たらあのお兄さんだ!
私はすぐに飛びだして行って文句を言ったけど、お兄さんは散歩してたらたまたまフリードを見つけたみたい。
犯人扱いしたことは悪かったけど、餌を渋っているわけじゃないわ。
この子が出されたものをつい食べちゃうだけよ……!
つい腹を立てて屋敷に戻ってしまったけど、そのあとで話を聞こうと思っていたことや、前に貰った干し肉のお礼を言うのを忘れていたことに気づいた。
失敗したな~と思ったものの、そのあとすぐ屋敷に起きた異変にそれもどこかへ行ってしまう。
なんで扉を開け閉めすると猫ちゃんの鳴き声がするの……!?
悪い影響はないみたいで、お母さまは妖精の悪戯なんじゃないかって言うけど……。
猫ちゃんの声だけするのは、なんだかもどかしいわ。
私、猫ちゃんに触る機会ってこれまでなかったのよね……。
猫ちゃん触ってみたいなー。
できれば飼いたいなー。
なんて思っていたその夜、うちに泥棒が入ってすぐに捕まった。
なんでも、お父さまがケインさんから分けて貰ったボディーソープ、シャンプー、リンスを狙っていたみたい。
するとそれを境にして猫ちゃんの声がぴたっと止まった。
もしかして泥棒が入るから鳴き声がするようになっていたのかしら……?
謎は深まるばかりだけど、お父さまやお母さまは心当たりがあるのか、そう気にしたふうでもない。
なんで私に教えてくれないのかしら。
そのうちわかるってどういうことなの。
△◆▽
にゃんにゃん事件からしばらく、件のケインさんがきっかけで商会は大きな事業に取り組むことになった。
それは貧困地区の再開発。
もうお父さまの悲願とも言っていいような大仕事で、商会の本拠地をそっちに移転させようなんて事になってるくらいの大騒ぎ。
その中でお父さまについて私もケインさんにご挨拶に行くことになり、話には聞いていた宿屋『森ねこ亭』へ訪れる。
そして初対面となったケインさんは……ってあのお兄さんじゃないの!
びっくりして戸惑う私を見てお父さまは笑う。
実は前々から『ケインさん』と『お兄さん』が同一人物であることに薄々気づいていたものの、私を驚かせようと思って黙っていたらしい。
なんてこと……!
私は怒った。
でもすぐに宿にいた猫ちゃんたちに興味が惹かれてそれどころではなくなってしまう。
正直、それからの記憶はちょっと曖昧。
ケインさんが使徒だとか、ケインさんに甘えている女性が守護竜だとか、ノラちゃんが実はこの国のお姫さまだとか、それこそ驚くような話を聞いても、五匹の猫ちゃんがあんまり猫ちゃんで私はもう猫ちゃんだった。
そしてそのあと、私はケインさんに指導を受けているノラちゃんとディアちゃんに覚えた魔法を見せてもらうことになった。
でもこれが普通の魔法じゃなかったの。
いわゆる創造魔法と言われるもので……さらに創造魔法がどういうものか、どうしてノラちゃんやディアちゃんが身につけられたのかという、もしかしたら大発見かもしれない話を聞いた。
これは学園に報告すべきことだと思った私は、翌日この話を担任のファスマー先生に伝えたんだけど……なんか頭ごなしに否定された!
私は腹を立てて早退。
このことをケインさんに伝えたんだけど……これが私の人生を大きく変えるきっかけになるとは思いもしなかった。
もし伝えなければ、あるいは、もうちょっと穏便な感じで伝えていれば、学園が大混乱に陥るようなことはなかったと思う。
ちょっと反省。
そして同時に、やっぱり使徒という存在は、普通ではないのだなと、マシュマロを焼きながら実感することになった。
さらに後日、私は学園側からケインさんに師事して創造魔法を習得するよう勧められ、学園に通わなくてもよくなってしまった。
これは出世と言うべきなのかしら……?
でもって困惑していたら、怪しい人たちに誘拐されるし!
いや正確には懇願されるから、自分からついていったんだけど……。
どうしてこんなことになったのか、監禁(軟禁?)されている部屋で困惑していたら、不思議な光が現れて、そこから猫ちゃんたちが現れてさらに困惑。そのあとにノラちゃんとディアちゃんまで来てますます困惑。二人は私が縛られているのを見ると「転がそっか」と言いだして、私をころころ転がしながら光の向こうへ。
そして宿屋に出ることになった私はやっぱり困惑。
でも困惑する出来事はまだ終わらず、バーデン商会は崩壊しているわ、私を誘拐した人たちは『鳥家族』で働いている人たちと同じ頭になっているわ、なんか公園へ移動して事件の黒幕とケインさんたちが対決することになるわ、その黒幕がウェスフィネイ王国の王子だわ、王子が古の魔導王を復活させるわ、シルさんが飛んできて訓練場に大穴を開けるわ、もう一生に一度あるかないかという事態が立て続けに起こり、途中から私は考えることを放棄した。
そして極めつきが、私がクロネッカ王国の親善大使になってしまったこと。
もう何が何だか。
うーん、私はいったいどこへ向かっているんだろう……?
――――――――――――――――――――――――――――
『あとがき』
ここまで読んでくださった方、応援してくださった方、フォローしてくださった方、評価してくださった方、コメントしてくださった方、ありがとうございます。
そしてギフトを贈ってくださった方、私には関係のない話とばかり思っていたので、いただけてとても驚くとともに感謝しております。
いずれはチ○ールに代えさせて頂こうと思っています。
ありがとうございます。
今回で三章は終了となりまして、四章の開始は18日(木)を予定しております。
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