第2章 王都での生活

第1話 閑話 ノヴェイラ

 私はノヴェイラ。

 十一歳。

 お爺さまはユーゼリア王国の王様、お父さまは第二王子。

 なので私はお姫さまなの。


 お姫さまは王宮に住んでるものだけど、いま私は王都にある森ねこ亭って宿屋で暮らしてる。

 メイドのエレ姉も一緒だから、身の回りのことも大丈夫。

 それに宿に来てからは、自分のことは自分でできるようにって練習もしてるし、そのうち一人でなんでもできるようになると思うの。

 朝は起こしてもらわないとちょっと無理かもだけど……。


 宿での暮らしはすごく楽しくて、お母さまが帰ってきたら話したいことがどんどん増える。

 全部覚えておくのは大変なの。


 でも先生が日記をくれたから、これに書いておけば大丈夫。

 日記はびっくりするくらい綺麗な紙が使われてる。最初はあんまりいろいろ書いてすぐに使い切っちゃったらもったいないって思ったけど、先生はいっぱいになったら次の日記をくれるって言うから、いまはその日にあったこととか、思ったこととか、気づいたこととか書いてるの。あと絵とかも。


 それで今日この日記に書くのは、はじめて冒険者の仕事をしたこと。

 みんなで薬草集めをしたの。


 最初は簡単だと思ってたけど、いっぱい生えている草の中から、ちゃんと薬草を見つけるのはけっこう大変。

 先生やエレ姉がそれとなく薬草のある場所を教えてくれても、すぐには見つけられないの。


 でも、見つけたときはすごく嬉しいの!

 思わず、あったー、って大きな声を上げちゃうくらい。

 ディアちゃんもそうだったし、いつも静かなラウくんも声を上げるくらいだから、やっぱりみんな嬉しいんだと思うの。


 みんなで頑張って集めた薬草は、先生がまとめて冒険者ギルドに納品。

 報酬は私とディアちゃんとラウくんの三人でわけるようにって私に全部くれた。


 これは……どうやって分ければいいのかな?


 エレ姉に聞いてみたら、分け方はパーティーによって違うみたい。

 私たちは三人で分けるのがいいみたいだから、私は報酬を三等分にしようとしたんだけど……ちょっとだけあまる。

 そしたらエレ姉は、パーティーみんなのために使うお金としてちょっとずつ貯めていけばいいって教えてくれたの。

 なるほど……。


 じゃあそのパーティー貯金をもっと多くした方がいいかなって思ったけど、いまの私たちがそこまでする必要はないから、まずは自分たちの報酬を多くしておけばいいんだって。

 なるほどなるほど……。


 宿に戻ったあと、私はディアちゃんとラウくんに報酬をわけて、あまったお金はパーティー貯金。

 はじめてのお仕事で貰えたお金はちょっとだけ。

 なにかするにしてもぜんぜん足りないの。


 ディアちゃんはこのままお金を貯めていって、そのうちこの森ねこ亭に泊まるつもりでいるみたい。

 自分のお家なのに……?

 なんかお客さんとして泊まりたいんだって。


 ラウくんはペロちゃんのためにお肉屋さんで骨を買うみたい。

 骨は捨てちゃうものだから、たぶんこの報酬でも売ってもらえるって言うんだけど……それはお願いして貰えばいいんじゃないのかな?

 不思議に思って聞いたら、ちょっとお肉がついた骨をお願いするんだって。

 なるほど、ラウくんは頭がいい。


 うーん、私はどうしよう……。

 冒険者になった時のことを考えて、必要な装備とか道具を買うためにこのまま貯めておくのがいいんだろうけど、みんなに贈り物とかもしたいし、ちょっと迷う。

 貯まるまでまだ時間はかかるから、ゆっくり考えることにするの。



    △◆▽



 いけない。

 思い出した、書いておかなきゃいけないことほかにもあった。

 この宿に来るまでのこと、ちゃんと書いておかないと忘れちゃう!


 えっと、えっと、王宮を出て、公園で先生に会ったところまで書けばいいのかな……?

 でもそれだといきなりになっちゃうから、もっと最初のところから。


 最初の最初は、私が冒険者になりたいって思ったことだと思うの、お母さまみたいな。


 お母さまは有名な冒険者で、この国の人ならみーんな知ってるくらいなの。

 すごいの、自慢なの。


 だから、私もお母さまみたいな冒険者になりたいって思ったの。

 この話をしたら、お母さまは嬉しそうな顔をしたけど、お父さまは困った顔をしたの。

 私は冒険者に向いていないし、危ないからやめなさいって。

 でもお母さまはそんなことないって言うの。

 すごく強くても、すごく賢くても、すごい冒険者になれるわけじゃなくて、強くなくても、賢くなくても、必要なものが備わっていればすごい冒険者になれるんだって。


 それって何なのって尋ねても、お母さまはにこにこするだけで教えてくれなかった。

 まずは一人前の冒険者を目指しましょうって。

 それでお母さまは私が十一歳になったら、冒険者になるための訓練をしてくれるって約束してくれたの。


 でもお母さまは私が十一歳になる前にお出かけしてしまったの。

 友達が困ってるんだって。

 なんか友達の子供がどこかに行っちゃったみたい。

 それは大変……!

 お留守番は残念だけど、これは仕方ないの。


 お母さまがお出かけしたのは魔界ってところ。

 この世界には私たちが住んでいるところとはちょっと違う場所があって、魔界はその一つなんだって。


 私も六歳くらいの頃に行ったことがあるみたい。

 友達の子供が産まれたとき、お母さまがお祝いしに行くのと一緒に私を紹介するために連れて行ったんだって。

 私はぜんぜん覚えてないけど。

 いなくなっちゃったのはそのときの子みたい。


 私はお母さまならすぐに迷子になった子を見つけて、戻ってきてくれるって思ってた。

 けど……時間がかかるってお手紙が届いたの。

 仕方ないけど、残念。

 私が十一歳になる頃には戻るって話だったのにー。


 それから私はエレ姉にお母さまがいつ帰ってくるか尋ねる毎日。

 でもある日、私は先に冒険者になるための訓練をしておけばいいんじゃないかって思ったの。


 すごく名案だと思ったけど、エレ姉は困った顔。

 エレ姉が言うには、冒険者の訓練をするのは難しいって。

 まず訓練してくれる人がいないって。

 お城の人たちは冒険者のことはよくわからないし、じゃあ冒険者だったエレ姉が教えてくれたらいいのに、お母さまとの約束があるから教えちゃダメなんだって。


 だから私は、それなら自分で考えて訓練すればいいと思ったの。

 それからどんな訓練をすればいいか考えて、冒険者は依頼を受けて旅立つものだから、野宿の訓練をすればいいって思ったの。 


 でも、お父さまにお城の外で野宿してもいいか聞きにいったらダメって言われちゃった。

 王宮の庭園なら許してくれるみたいだけど……それって野宿じゃないと思うの。


 私はあきらめずにお願いをしたの。

 お父さまにぎゅ~って抱きついて何度も何度も。

 そうしたら、お父さまは王都の公園ならって許してくれた。

 でも、途中であきらめて王宮に戻ったら訓練はおしまい。

 今回きりじゃなくて、もうずっと、お母さまが戻るまで冒険者の訓練をしちゃいけないの。


 ちょっと迷ったけど、私はやってみることにしたの。


 エレ姉に動きやすい服を用意してもらって、私は王宮を出発。

 一人きりで王宮を出るなんて初めてだったから、なんだか不思議な感じがしたのを覚えてる。


 公園ではまず過ごすための家を作ることにして、林をうろうろして使えそうな木とかツタを集めて、なんとか小屋を作ったの。

 これがすごく大変だったの。


 そのあと、夜になる前に焚き火を用意したり、なにか食べる物はないか探しにいこうと考えていたら、子犬がやってきたの。

 これがペロちゃん。


 ペロちゃんはすごく人懐っこくて、撫でたら毛がふわふわ。

 いっぱい撫でていたら、ペロちゃんはくんくん私に鼻を近付けて、なんだか急に元気がなくなっちゃったの。

 あんなに一生懸命ふりふりしていた尻尾もしょんぼり。


 どうしたの? 具合が悪くなっちゃった?

 結局理由はわからなかったけど、私がなんかすごく臭かったとか、そういう理由だったら悲しい。違うよね?


 ひとまず私はペロちゃんの首にツタを巻いて捕獲。

 これで一緒に暮らす仲間ができたと思ったの。


 そしたらそこでペロちゃんの飼い主だったお兄さんが話しかけてきて、そのお兄さんが私の先生になったの。


 この後はすごいことがあって、その後の後にはもっとすごいことがあったけど、それはもう日記に書いてあるから大丈夫。


 ふう、よかった、寝ちゃう前に思い出せて。

 これではっきり思い出せなくなっちゃっても、ちゃんとお母さまにお話しできるの。


 ふわぁ、今日はずいぶん遅くまでかかっちゃった。

 早く寝ないと……。

 きっと明日もいろんなことがあると思うから。


 おやすみなさい!

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