第8話 観察なんてしてません

亜紀あきねーちゃん、こんな時間にどこ行くの?」

 玄関先で弟に呼び止められる。

「ん、いつものコンビニだけど。何かいる物ある?」


 午後9時。

 黒のキャップを深く被り自転車に乗って家を出る。すぐ近くのコンビニを通過。

 そこから数えて3軒目。家からはやや離れた店舗の、正面の空いている場所に駐輪すると店内に入る。


 午後9時10分。

「いらっしゃいませ~」

 ちょうどレジ対応中だった店員の声を受けて、雑誌売り場へ。

 ファッション誌の立ち読みを開始。


 午後9時20分。

「少しお時間を頂ければ、揚げたてをご用意できますが……」

 レジからの声。フライヤー商品の何かが足りないらしい。


 午後9時30分。

 ふんふんふーんと可愛い鼻歌が後ろから聞こえる。どこかで聞いた曲。

 棚の陳列をしているようだ。


 午後9時40分。

「お次の方どうぞー」

 急に店内が混み出す。店員さんは冷静に手際よく客対応をしている。


 午後9時50分。

 雑にめくっていた少年誌を棚に戻し、ホットのレモンティーを持ってレジへと向かう。

「あとこれも1つください」

「はい、少々お待ちください!」

 彼女はにっこりと微笑んだ。


「いつも、ありがとうございますー」

 会計を済ませて商品を受け取ると店を出た。


 11月の風は冷たくて、はあっと息が白い。停めた自転車の近くでペットボトルを握って手を温める。


 午後10時10分。

「おまたせしました!」

 店から着替えを済ませた彼女が出てきた。


美緒みお、今日もお疲れ様」

「ええと……でもですね。あんなに早くから待ってなくてもいいんですよ、先輩?」

 彼女は少し困ったような表情をした。

「いいのいいの。あんまり家にもいたくなくてね。はいこれ」

 本当は、制服姿で頑張っているところを見たいだけ。


「ほわー、あったかーい!」

 ペットボトルを受け取った彼女はキャップを開けると、ごくごくと飲み出した。

「半分いただきました! はいどうぞ!」

 と、返される。


「あれ、先輩は飲まないんですか?」

 じいっと美緒が見てくる。

「あ、うん。飲む飲む。あとこれも半分にしようか」


 紙袋から取り出すと、ぱかっとちょうど2つに割って彼女に手渡す。


「焼き芋もあったかいですねぇ」

 うまうま言いながら、リスのように食べている。

「まあ、どこにでもありそうなやつだけどさ」

「いーえ。先輩と食べる焼き芋は、他では売ってませんから! これは焼き芋ならぬ亜紀芋です!」

「何よそれー」


 笑い合うとなんだか、寒空の下もあまり関係がないくらい心が温まる気がする。


「うーん確かに、こういうので暖まるのもいいんですけどね」

 と、美緒は食べる手を止めるとすぐ近くに寄ってくる。

「えっ……と?」

「美緒の事も暖めてもらえませんか? 主に先輩の体で……」


 その言葉に焼き芋を思い切り吸い込んでしまった。


「わぁ大変! 先輩、これ。これを飲んで流し込んでください!」


 ペットボトルの残りをすべて飲み干すと事なきを得た。

「ふう、助かったよー。ありがと」

 私は次の一口をかじる。


「ねえ今の、間接キスですよね……?」

 美緒は空のペットボトルの飲み口をぺろりと舐めた。


「先輩っ!?」

 私はもう一度むせる事になった。

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