第二十話  可愛い

「銀花さん?」

「何?」

「ちょっと、近くない?」

「なんで?」

「なんでっていわれてもなぁ」


 僕に跨り、ネコのように胸にすりすりと顔をこすりつけている銀花さん。


「だって、付き合ってるんだよ?私たち」

「そうだけど」

「えへへ」


 目がとろんとしていて、ずっと僕の顔を見ている。


「佐紀君はどうしてそんなにかっこいいの?」

「そうかな?」

「そうよ。だって私の彼氏だもの。それより、佐紀くん?」

「何?」

「私の事は呼び捨てにして」

「え」


 それは少し、難易度高いかもなぁ。


「りぴーと、あふたーみー。ぎ、ん、か」

「ぎん、かさん」

「のんのん。ぎ、ん、か!」

「ぎん......か」

「うん。もう一回」

「ぎんか」

「大好き」


 銀花は本当に甘えん坊だな。


「銀花は、僕の事呼び捨てしてくれないの?」

「え、うーん、ちょっとまって]


銀花は一度ゆっくり、息を吸う。そして決心したような面持ちで僕の事を見つめる。


「さ、さき......君」

「銀花?」

「も、もうちょっと待って」


 銀花の顔をじっと見つめると、顔を真っ赤にしてそらしてしまう。


「ふぅー。さ、さき......君!!......ごめんなさい。もうちょっと待ってくれない?」

 

 そう上目遣いで言われる。


「ぷっ、あはは」

「もぅ、佐紀君、笑わないで」

「ごめん、銀花が可愛くて」

「可愛くなんてないし」

「じゃあ、綺麗だね」

「もぅー。佐紀君なんて知らないもん」


 そう言ってまた僕の胸に顔をうずめる。


「この後どうしよっか」

「二人で一緒に帰ろ?」


 実はもう、五時間目の授業は始まっていた。


「いいの?銀花は」

「いいよ。私、今日はずっと佐紀君といたいもん」

「じゃあ、いまから一緒に帰っちゃおうか」

「うん。えへへー」


 それからも、銀花とずっとくっついて五時限目を終わらせ、こそっと教室に入り用意をして、そそくさと退散した。


 一部のやつらに変な目で見られたが、まぁ感づかれることはないだろう。......多分。


「今日のご飯は何食べたい?」

「佐紀君の作るご飯はなんでも美味しいから困っちゃう」

「そんなに?」

「うん。料理も好きだし、佐紀君も好き」

「ありがと」

「むぅー、佐紀君は全然照れてくれない。もっと照れた顔が見たい」

「また今度ね」

「むぅ」


 付き合ってからそれほど立っていないが、凛とした、無表情の銀花のイメージが無くなり可愛い子犬のようなイメージが段々とついてきた。相変わらず無表情のようだけれど、ちゃんとほほ笑んでくれるし、すねた時の表情もわかる。


「どうしたの?」

「銀花は可愛いなって」

「も、もう。佐紀君ばっかりずるい」


 そう言って僕の腕を抱いて嬉しそうに微笑む。


「今日は、付き合った記念だしちょっとお高いお肉でも買っちゃおうかな」

「うん、買っちゃおう。荷物は一緒に持ちましょう?」

「そうだね」


 本当に僕の彼女は可愛い。

 

 


 


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