入れ替わり姫

蔵入ミキサ

姫と護衛騎士と、黒帝の魔女。



 「お覚悟なさいませ、魔物さん! わたくしのけんをお受けくださいまし!」


 草原にて、剣を構えるは姫。


 「ぷにゅー……!」


 相対するは、小さな魔物。おまんじゅうのように丸くてプニっとしたウサギ。その名は下級かきゅう魔獣まじゅうプニピョン。


 「やぁーっ!!」

 「ぷにゅっ!?」


 ぽこっ。

 剣で頭を叩かれ、プニピョンは目を回して倒れた。

 討伐とうばつしたプニピョンを見て、姫は歓喜かんきに震えた。


 「や、やった……! やりましたわ! わたくし、やりましたわよーっ!」


 しかし、喜びもつか


 「ワオォーン!!」

 「えっ!?」


 間髪かんぱつ入れず、魔物がもう一匹現れた。

 鋼鉄のようにかたいツメを持つ、二足歩行のオオカミ。その名は中級ちゅうきゅう魔獣まじゅうギラウルフ。


 「そ、そんなっ! 聞いていませんわよっ! こんな強そうな魔物さんが、この草原にいるなんてっ!」

 「グオオッ!!」

 

 尻込しりごみする姫へと、容赦ようしゃなく振り降ろされるギラウルフのツメ。直撃はしなかったが、そのするどいツメは大地を引き裂いた。


 「きゃあっ!!」


 勢いに押され、姫は尻もちをついてしまった。

 そしてもう一度、あの硬いツメが飛んでくる。絶対ぜったい絶命ぜつめいだ。

 しかしそこへ、一人の少年騎士が現れた。


 「おれの剣を返してください。姫様」

 「あ、アルセムっ!? もうっ、どこに行っていましたの!?」

 「剣を渡してください。姫様」

 「わたくし、一人で討伐しましたのよ。魔物さんを、初めてっ! でも、次にもっと強そうな魔物さんが現れて……!」

 「剣がないと戦えないだろっ! 早く剣を渡せよ、ロズリー!!」

 「えっ? あ、はいっ!」


 アルセムと呼ばれた少年騎士は、おてんばな姫をロズリーと呼んだ。そして、ロズリーから剣を受けとると、アルセムは自分の体の正面で剣を構えた。


 「ギラウルフか。自慢じまんのツメさえ斬り落とせば、攻撃をやめて逃げていくはずだ。殺さずに済みそうだな」

 

 間合いを確かめ、集中を高める。

 

 「……よし! 行くぞ!」

 「行きなさい、アルセム! まずは右にけるのですっ! そしてジャンプして、こう、上から叩くように」

 「お、おいっ! シロウトは黙ってろよ!」

 「でも、あまり魔物さんの命を奪うようなことは……!」

 「分かってる。そのつもりです。ちょっと黙って見ててください。ロズリー姫様」


 集中が途切とぎれたので、気合いを入れ直す。


 「行くぞ、ギラウルフ。おれの名は、アルセム・ロシュフォード。ゼディア王国の姫、ロズリー・ピアメル様をお守りする護衛ごえい騎士きしとして、お前を討つ!」

 

 * * *


 無事に魔物を撃退した後は、んだ泉のほとりで、ランチタイム。護衛騎士アルセムとロズリー姫は、日よけになりそうな木陰こかげを見つけると、そこに手荷物を置いて腰を降ろした。

 ロズリー姫は持参じさんしたバスケットから、手作りのアップルパイを取り出した。


 「アルセム。こちらをどうぞ」

 「いえ、おれはけっこうです」

 「な、なぜですのっ!? 甘くて美味しいお菓子ですのにっ!」

 「貴族の食べ物でしょう? そんなものを食べたら、おれの胃がびっくりしてしまう。おれは、そこらの木の実でもかじってますよ」

 「むぅ……!」

 「そんなにほっぺたをふくらませても、食べられないものは食べられません。ご理解ください。姫様」

 

 ぷくっと膨れるのをやめ、ロズリーは姫冗談の顔から真面目な顔へと戻した。しかし、彼女のひとみは伏せられ、悲しみに満ちていた。

 

 「アルセム……。昔はそんなこと言わずに、食べてくれましたよね。ロズリーが作るお菓子は美味しいって、いつもめてくれましたよね」

 「昔の話です。今は違います」

 「その敬語も、昔は使っていませんでしたし」

 「今は立場というものがあります。おれたちは、もう子どもじゃありません」

 「二人きりの時くらい、幼いころのような、ロズリーとアルセムに戻れませんか? 姫と護衛騎士ではなく」

 「……」


 数年前は、もっと距離が近かった。一緒に遊んで、一緒にご飯を食べて、一緒に歌をうたったりなんて、日常的なことだった。手をつなぐことさえ何のためらいもなくできて、抵抗はなかった。

 今は違う。ただ座っていても、その距離は遠い。ロズリー姫がどれだけ近づこうとしても、アルセムは常に「姫と護衛騎士」としての距離をたもち、決して縮めようとはしなかった。


 「ねぇ、アルセム。わたしの気持ち、分かって」

 「お前こそ分かってくれ、ロズリー。おれたちはもう15歳だ。大人にならなくちゃいけないんだよ」

 「大人になるということは、はなばなれになることなの? ずっとそばにいたいという気持ちがあっても?」

 「そうじゃないけど……! おれとお前では、住む世界が違うんだよ! お前は王城おうじょうで産まれ育った、この国の姫でっ! おれはこの国の孤児院こじいんで育てられた、ただの兵士だ! お前だって、その意味くらい分かるだろ!」

 「分かるけど、分かりたくない……。じゃあ、もしもわたしたちの間に、産まれや育ちの壁がなかったら、アルセムはわたしをロズリーとして、一人の女性として……!」

 「やめろよ。『もしも』の話なんて、むなしくてつまらない。その壁は確かに現実にあって、どうあがいても受け入れるしかないんだよ」

 「でも、アルセムだって本当の気持ちを……!」

 「もうやめてくれ、ロズリー! こんな話をしても、苦しいだけだ……!」


 語気を強めて、アルセムはロズリー姫の言葉をさえぎった。「ロズリーとアルセム」ではなく、「姫と護衛騎士」でいなければいけないと、改めて自分に言い聞かせるように。

 

 「……!」


 ロズリー姫はそれ以上何も言えず、アルセムの震えるこぶしを見つめることしかできなかった。あなたさえ自分の気持ちに正直になってくれれば……と、悔しそうな表情を浮かべて。


 「……」

 「……」

 

 しばらくの無言。互いに沈黙ちんもくが続く。

 そして、次に口を開いたのは、アルセムでもロズリー姫でもなく、新たにこの場に現れた、第三者だった。


 「あら、ケンカしちゃったの? さっきまで、あんなに仲良しだったのに」

 

 突如とつじょ、泉の水面に転移魔法陣てんいまほうじんが浮かび上がり、その魔法陣から女が現れた。

 魔女の帽子。銀色の長いかみ漆黒しっこくのドレス。あまり日差しは強くないのに、大きな日傘ひがさを差している。


 「ごきげんよう。若いお二人さん」

 「……!?」


 明らかに、ただの人間ではない。

 アルセムとロズリー姫は木陰で休むのをやめ、すぐに立ち上がった。アルセムはロズリー姫の身を守れる位置に立ち、剣を構えた。


 「何者だ。お前は」

 「私は黒帝こくてい魔女まじょリフィリア。最上級さいじょうきゅう魔族まぞくと名乗れば、説明はいらないかしら?」

 「最上級……魔族……!?」

 

 つまり、最も高位の魔物である。低位の魔物たちとは違い、数えるほどしか存在していないが、その強さは計り知れない。たった一体で、一国の騎士団を壊滅かいめつさせるほどの魔力を持つとも言われている。

 そして、高位の魔物の目的といえば、人間の国を滅ぼし、支配する土地を拡大することだ。アルセムは一層強く剣を握り、この国の姫のために戦う決意をした。

 

 「へぇ、奇襲きしゅうというわけか。最上級魔族がわざわざ出向いてくるとは珍しいな。部下の魔物はいないのか?」

 「ウフフ。あなたがこれまでに倒してきた魔物が、私の部下なの。実を言うと、もうあまり数が残っていないのよ。とっても強いのね、護衛騎士アルセムさん」

 「ならば最後にお前を倒して、王国に一時の平穏へいおんをもたらそう。覚悟しろ、黒帝魔女リフィリア!」

 「いいえ、それはできないわ。私の残り少ない部下たちは今、孤児院の近くに潜伏せんぷくしている。私が合図をすれば、いつでも孤児院こじいん襲撃しゅうげきできる場所に、ね」

 「な、何っ!?」

 

 ゼディア王国にあるロシュフォード孤児院は、アルセムにとっての帰る家だ。そこで暮らす幼い子たちは、アルセムにとっての弟や妹であり、弟や妹たちにとっては、アルセムは最年長の兄である。アルセムが魔物を倒して得た褒賞金ほうしょうきんは、すべて孤児院のために使われている。


 「くっ……! 卑怯者ひきょうものめ……!」

 「とっても強いあなたと、正面から戦いたくはなかったのよ。だから、あなたの身辺しんぺんを調査し、もっとも効果的な人質を選んだ。下手に動くとどうなるか、言わなくても分かるわよね」

 

 リフィリアの策略さくりゃくにより、アルセムは身動きをふうじられてしまった。

 苦しむアルセムを見ていられなくなって、ロズリー姫はリフィリアに向かってさけんだ。


 「こ、黒帝魔女さんっ!」

 「あら。今度はお姫様ね」

 「あなたのねらいは、ゼディア王国の姫でしょう!? わたくしが大人しくこの身を差し出せば、あなたはそれでいいはずっ!」

 「うーん、そうね。それでもいいけど」


 ロズリー姫は守られることをやめ、アルセムより少し前に出た。アルセムはあわててり、ロズリー姫を制止した。


 「ダメです、姫様っ! 下がってください!」

 「たみを助けるのが王族の役目。わたくしの命一つで民が救われるのなら、本望ほんもうですわ」

 「おれは姫様の護衛騎士ですっ! あなたを守ることが、おれの使命ですっ! あなたに守られるわけにはいかないっ!」

 「これは、あなたが望んでいる結末でもあるの。ロズリーとして生きられないなら、わたしはもう、この国の姫として死ぬしかないっ!」

 「な、何を言ってるんだ……! とにかく前に出てくるなっ! 相手は最上級魔族の……」


 そう、最上級魔族だ。そいつと戦うのなら、常に剣をしっかり構えて、集中をしていなければいけなかった。

 黒帝魔女は、一瞬のすきも見逃さない。

 

 「アハハッ! 本当に面白いわねっ! ニンゲンって!」


 その高笑いは、背後から聞こえた。黒帝魔女リフィリアは転移魔法を発動させ、瞬間しゅんかん移動いどうをしたのだ。

 彼女が狙ったのは、護衛騎士アルセムの方だった。閉じた日傘が、刃物のようにするどく変化し、アルセムを背中からつらぬいた。


 「うっ……!」


 アルセムの手から剣が落ち、地面に衝突するとカランと音を立てた。脱力は、すぐにアルセムの全身へと伝わった。

 ひざからくずれ、倒れそうになるアルセムの体を、ロズリー姫は必死に支えようとした。

 

 「アルセム!? しっかりして! アルセムっ!!」


 虫の息。辛うじて意識はあるようだが、ロズリーの呼びかけにはこたえない。

 突き刺した日傘をそのままにして、リフィリアはロズリー姫に近づいた。そして、右手をロズリー姫の頭の上に、左手をアルセムの頭の上に、そっと置いた。


 「安心しなさい、お姫様。騎士さんは死んでいないわ。そして、あなたも死ぬ必要はない」

 「どういう意味……!?」

 「私はあなたたちを気に入ったのよ。殺すなんてもったいない。ただ……あなたたちで遊ばせてくれればいいの」

 「わたしたちで、遊ぶ!?」

 「一週間後、また二人でここに来て。それと、今から起きることは、他の誰にも言っちゃダメよ。いいわね?」

 「な、何を言っているの!?」

 「さようなら。愛し合うお二人さん」

 

 リフィリアは両手のひらから、ボウッとあわい光をはっした。すると、まるで魅了みりょうされているかのように、ロズリー姫とアルセムはその光をじっと見つめ、意識を薄れさせていった。

 そして、淡い光がフッと消えると、二人とも意識を失い、その場で倒れてしまった。


 「ウフフ。目を覚ました時が楽しみね」


 * * *


 ───────────

 その出会いは、10年前。

 ───────────


 「ちょっと、くつみがきさん! わたくしのくつをみがいてくださるかしら?」

 「は……?」


 場所は王城。ダンスパーティーの会場となっている豪華ごうか絢爛けんらん大広間おおひろま。……に入るための、大きな扉の前。

 大人たちが楽しく騒いでいるパーティー会場の外で、少年と少女は初めて出会った。


 「あなた、くつみがきさんでしょう?」

 「そうだけど、おまえは?」

 「わたくしは、このくにのひめ、ロズリー・ピアメルですわっ!」

 「おひめさま……? ほんとか? こんなにちっこいのに、か?」

 「ち、ちっこい!? ぶれいですわよ、あなたっ! あなたもちっこいくせにっ!」

 「まあ、いいや。そこにすわれよ」

 「むぅ……!」


 ぷぅとほっぺたを膨らませながら、5歳のロズリー姫は木できた小さなイスに腰掛こしかけた。5歳のアルセムは、ロズリー姫がいている赤いハイヒールをつかむと、乾いた布巾ふきんでゴシゴシとぬぐった。


 「もうすこし、ていねいにやってくださる? くつのかざりがとれてしまいます」

 「うるさいな。くつみがきなんて、ぜんぜんやったことないんだから、しょうがないだろ」

 「あら、そう。みならいさんですのね。では、わたくしのくつでみがきかたをまなび、りっぱなみがきやさんになるといいですわ」

 「ちっ……。おうぞくめ。いまにみてろよ」


 アルセムは舌打ちをすると、ロズリー姫のハイヒールをそっと脱がせた。そして、ポケットにしまっていた血塗ちぬれのナイフを取り出す……のはやめ、ロズリー姫の足の裏にこちょこちょを仕掛しかけた。


 「ぷっ、くふふっ、きゃはははっ! な、なんですの、これはっ! あ、あしが、くすぐったいっ! きゃはははっ!!」

 「こんなのくらったことないだろ、おまえ。これがふくしゅうってやつだ」

 「ふくしゅうっ!? きゃははは、も、もうだめっ! ゆるしてっ! きゃはははっ!!」

 「ほら、くつみがきはおしまいだ。これにこりたら、もうにどとえらそうにするなよ」

 「はぁ、はぁ……。やりましたわね……!?」

 「なんだよ、もんくでもあるのか」

 「くらいなさいっ! ぷりんせすきっく!」

 「いてっ!? やったな、こいつっ!」


 ぽかっ、ぽかっ。小さな殴り合い。

 高貴なお姫様とみすぼらしい靴磨くつみがきの戦争は、二人の体力の限界が来るまで続いた。そして結果は、両者引き分け。


 「はぁ、はぁ……。つかれた……」

 「はぁ、はぁ……。つ、つかれましたわ……。あなた、おなまえは?」

 「アルセム……」

 「おぼえておきます。くつみがきのアルセム」

 「へへっ。おれも、おぼえておいてやるよ。ちっこいロズリーひめのこと。こんな、けんかをしたのなんて、ひさしぶりだし……」

 「ひさしぶり? かぞくや、おともだちとは、けんかをしないの?」

 「したくても、できないんだ。みんなしんだから」

 「えっ!?」

 「おれのこきょうは、このくにとのせんそうでまけて、なくなったんだよ」

 「そ、そんなっ……」

 

 今、大広間で行われているダンスパーティーは、勝利を収めて帰還きかんした兵士たちをたたえるためのもの。いわば、戦勝国の祝勝パーティーだ。

 アルセムは、敗戦国からやってきた戦争孤児。戦火を逃れ、安全に生きられる場所を求めて、このゼディア王国を一人でさまよっていた。


 「……」


 5歳のロズリー姫が知らなかった、もう一つの世界。目の前にいる同じ年の少年は、その世界から来たと言っている。

 トクトクと、鼓動こどうが高鳴る。ロズリー姫は難しく考えることをやめ、今自分がどうしたいか、今すぐ何をしたいかにしたがった。

 

 「きて」

 「えっ?」

 「いいから、きてっ!! わたしについてきてっ!! おねがいっ!!」

 

 *


 グイグイとロズリーに手を引っ張られて、アルセムが到着したのは、王城の一室。きらびやかな装飾にいろどられ、高級感がとめどなくあふれる、お姫様の部屋。


 「うわっ! ここ、おまえのへやか!?」

 「こっちにきてっ!」


 さらに引っ張られ、天蓋てんがいのついたベッドのそばへ。ロズリーは天蓋のカーテンを開け、アルセムの背中をググッと押して、ベッドの上に乗せようとした。


 「の、のればいいのか? おまえのベッドだろ? おれ、きたないけど、いいのか?」

 「いいから、のって!」

 

 困惑こんわくしたままベッドに乗り、アルセムは柔らかい布団の上に座った。続いて、ロズリーもぴょんっと跳び、ベッドの上に乗った。


 「なにがしたいんだよ、ロズリー。せつめいくらい、してくれたって……」

 「アルセムっ……!!」


 きしめた。ぎゅっと、強く。


 「え……? えっ……」

 「……!」


 突然抱きしめられ、アルセムは動揺どうようしていた。

 

 「おまえ、なにしてるんだ……。おまえは……おひめさま……だろ……」

 「うんっ。わたしは、あなたのこきょうをほろぼしたくにの、おひめさまっ。でも、いまだけは、こうさせてっ」

 「なん……で……。なんで、こんなことするんだよ……。しちゃ、だめ、なのにっ……」

 「わからないけど、だきしめたいのっ。あなたをっ」


 ロズリー姫に抱きしめられながら、アルセムはポケットから血塗れのナイフを取り出した。

 このナイフは、復讐ふくしゅうするためのもの。ダンスパーティーに来た王族や貴族に靴磨きとして近づき、隙を見つけて刺し殺してやるためのものだ。王族の一人でも殺せば、死んでいった家族や友人たちの無念むねんが晴れるかもしれない。

 震える手で、ナイフを握る。


 「なんだよ……。こんなにちっこくて、ころしやすそうな、おひめさま、なのにっ」

 

 そしてアルセムは、そのままナイフを置いた。

 

 「はぁ、はぁ……。くそっ……!」

 「どれだけつらかったか、どれだけさびしかったか、わたしにはわからないからっ。だから、アルセムのきもちがはれるまで、このままでいたいのっ」

 「いいのか……。ほんとうに……」

 

 震える手は、ロズリーの背中に。

 その瞬間、二人は感情は確かにつながった。

 

 「うぅっ、うわぁああ~~~んっ!」

 「バカ……。なんで、おまえのほうが、いっぱいないてるんだよ……」


 涙がれるまで、二人でたくさん泣いた。

 その後、二人で仲良く眠った。この奇跡の出会いをくれた運命に、夢のなかで感謝をしながら。


 * * *

 

 ────────

 そして、10年後。

 ────────


 10年前と同じベッドの上で、アルセムは目を覚ました。

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