第282話 アレクサンダー号、到着
シャッセン博士をねぎらうように、捜査団はトゼに戻った。
途中でセスの集落に寄り、セスの2人はこの集団から別れたけど、そこはそれ。小屋のことについてはセスにお任せってことで、二人をはじめとしてセスの方たちに丸投げです。
とはいえ、こういうのはドクが得意だから、とりあえず現場保護だけして、タールの魔物やなりかけの魔物に神経を尖らせておく、ってことにするみたいです。
しかし、びっくりだよね。
ドクが言うように、なんとなくわからないうちに捜査団はそのまま帰っちゃった。
これは後で聞いた話なんだけどね、やっぱり、ドクの魔導具には、認識阻害系の魔法も込められていたんだそうです。
ていうか、そもそも、拠点とかの場所系の保護のためにつくる結界には、含まれていて当然なんだそうで、どこにその場所があるかをわからなくさせるのはプレな仕様なのだそう。今回のはちょっぴりそれを強力にはしたって言ってたけどね。
とはいえ、普通なら、そもそもの目的だもの。小屋について意識をそらすだけの機能があるかっていったら、ちょっと首を傾げるレベルらしいです。特に今回の捜査団は魔力が多い人が選抜されているわけで、当然のこと仕事の技能レベルも選抜されるだけの能力ある人じゃない?つまりは目的意識が高い=目的を失うなんてとんでもない、ってことなんだよね。
そこで、シャッセン博士でした。
彼の魔導具好きは、参加した兵士さんとか研究者さんたちには、既存の事実。
手塩にかけた子供の変わり果てた姿に嘆く彼を気遣うだろうってのは、大いに想像できたところ。
この想像には、シャッセン博士のことを知っていたドクにも予想がついたそうで、彼が人々の意識を奪っちゃうだろうって思ったんだって。
僕の、現場報告を聞いて、そこまで取り乱すとはさすがに思ってなかった、とは言ってたけど、魔導具が変わり果てた姿になっていると、それなりに大騒ぎして、みんなを巻き込むだろう、ってドクってば思ってたんだそうです。
で、意識が別のところに行っちゃったら、なかなか認識阻害のかけられている物に対して、意識を向けるのは難しい、そうです。
まぁ、小屋の捜索に対して、強烈な思いを持っている人がいるならそうでもないけど、ふわっとした興味ぐらいなら、振り切れるだろう、って予想してたんだって。
さっすが、ドク!
ちなみに、トゼへ戻ってきて、ほとんどの人は「あ、小屋の調査!」って思ったらしい。早い人はもうちょっと早く気づいたみたい。
けどね、こういういろんな集団からやってきた公的な調査団ってね、一度帰っちゃったら、改めて出発するのっていろいろ難しいんだって。各方面への調整とか、政治的な駆け引きとか、ね。
それに、まもなく、メインの外交団=プジョー兄様率いる人たちが到着するって報があったようで・・・
彼らが到着するときに、この国の勝手で僕を駆り出すのはまずいそうです。
まだ、調査が途中で間に合わないならまだしも、同じような調査に2度も3度も他国のVIPを付き合わせることはできないんだそう。それをやっちゃうと、便利使いする格下の国の人って扱ったって見られるんだって。
それこそ外交問題に発展しかねないらしい・・・
なんてことで、僕がトゼに戻って4日目。
朝に正式な(?)先触れがあって、ちょっと沖に停泊していたアレクサンダー号は、お昼の直前に、無事VIP用の船着き場に到着したよ。
僕のときよりもちょっとだけ、無関係の人=偉い人の家族とかは少ないけど、役人的な人はたくさん増えたお迎えが、このときにもありました。
にしても・・・・
うちのメンバーどころか、しばらく合わない間にちょっぴりでかくなった弟のレーゼまで、貴族な服を着て、降りてきたよ。
レーゼってば、この旅の直前に1歳になってたよね。
プレゼントだけは渡してる。
んとね、グレンの毛をもらって作ったベルト。
レーゼってば、僕のベルトにご執心なんだ。たくさんの魔法陣がドクによって組み込まれたベルトは、でも、レーゼにはまだ重いからね。なんたって、種々の金属や、革でできた特別製。
さすがにこれはまだ早いと思って、代わりに僕の愛情たっぷりのお手製ベルトを作ったんだ。
ちなみにフェルトつくるみたいに、針でいっぱいつつくと、布になります。
そうやって一刺し一刺し愛情を込めて作ったよ。
で、うふふ・・・
貴族用の服だけど、その腰には僕の送ったベルトが、赤金色に輝いていました。
なんだか嬉し、くすぐったいです。
始めに船を下りたのは、プジョー兄様が連れてきた騎士たちです。
騎士たちの最後には兄様の近衛、そして兄様。
で、その後ろに、レーゼを抱いたママとヨシュア、次にドクがいて、それに続くようにゴーダンとアンナ、さらにミランダとラッセイって降りてきたよ。
とりあえずはそれで降りるのは終了です。
カイザーとかモーリス先生、バフマやバンミ、クジ、ニー、ナザなんかが、船の中に残っているのが見えるけど、今は降りてこないのかな?
僕は、みんなを久しぶりに見て、今にも飛び出したい気満々なんだけど、兄様とこちらの偉い人たちが会話しているんで、少し離れたところで待機です。
レーゼが僕に向かって手を伸ばしているよ。かわいい!
でも、ママとかヨシュアパパにそおっと手を押さえられて、ちょっぴりご不満な様子。うん、そんな姿もかわいいね。
でも、でかいなぁ。
ママが抱っこしてるけど、もう頭はママの位置より上にあるかも。
いやあ、偉い人同士の会話って長いよね。
僕のところでは、兄様と偉い人たちの会話までは聞こえてこない。
あー、早く終わんないかなぁ。
ママやレーゼたちと、仲間たちと早くハグしておしゃべりしたい・・・
そんなことをボーって思っていたら、兄様と偉い人たちが同時に笑顔で僕の方を見たよ。
偉い人・・・の代表、ラワン族のラワンさん?まぁ、今の評議員議長さんがね、彼女が僕に軽く礼をして、こちらへどうぞ、みたいなジェスチャーをしたよ。
それに答えるように、アーチャに背中を押された僕は、アーチャと二人、彼女のところへとゆっくりと歩く。
「ホホホ、もうみんなアレクサンダー王子に夢中ですのよ。愛らしくて強い。タクテリア聖王国は安泰ですわね。オホホ。」
兄様に向かい合うように立った彼女はその横に僕を招き入れ、そんな風に兄様に言ったよ。
「まだ幼く、教育が行き届いているとは言えませんが、彼は自慢の弟です。我らが陛下よりのお役目を十全に果たせたようで、兄としても鼻が高いですよ。よくがんばりましたね、アレクサンダー。」
彼女に返答するように、優しい目でプジョー兄様が言ったよ。
なんか、面と向かって言われるとかなり恥ずかしいです。
僕は、なんとか
「お褒めにあずかり光栄です。」
なぁんて、消え入りそうな声でやっと言ったんだ。
そこからは、ついて早々、お疲れでしょうが、なぁんて言いながら、船を降りたみんなと、こちらの偉い人たちと、お昼ご飯ってことになっていたみたい。
こちらへどうぞ、って言われた際に、僕は兄様のうしろ、つまりはママたち宵の明星のみんなのグループへと、合流したんだ。
すると、ママがレーゼを抱いたまま、僕にハグしてくれたよ。
「後でゆっくり、ね。」
ママにハグされながら、僕の髪の毛をワシャワシャなでる小さな手。
「ダー兄ちゃま。ダー・・・」
おっと、ダーチャからダー兄ちゃまに進化してる!
なんて感動してたら、「バイバーイ」って言われたよ。
え?
どうやら偉い人とのお昼ご飯に、レーゼは入れないんだって。
で、ママと一緒にお留守番。
この頃にはなんとなくみなさんも解散していて、お昼ご飯へと一緒に行く人とその他の人で人の動きが出てきたんだよね。
それを見たのか、残っていたカイザーたちも船から降りて、どうやらママとレーゼは彼らと合流するらしいです。
って、僕は?
僕は後ろ髪を引かれつつ、ラッセイにがっしりと身体をホールドされて、なくなくお昼ごはんのパーティーへとドナドナされちゃった・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます