第148話 隔離施設

 王宮を出た僕とドクは、馬車の運転をしてくれてたバフマと合流し、暴走馬車の隔離施設へと向かったんだ。



 王都タクテリアーナは巨大な壁に囲まれたでっかい街。

 壁を抜けると、畑とか牧場とかが広がり、その内側は鍛冶師の工場街。

 内に入るにつれ、住宅街や商店街が混在し、それも中へ行くほど高級街へとなっていく。


 王都タクテリアーナの中心は小高い丘だ。

 初めて見た僕はそれを見て、ソフトクリームの頭を思い出したんだけど、それは丘の表面には、頂上から流れ出した川がグルグルと回っているから。

 てっぺんから、徐々に川幅を広げつつ、丘の下はお堀よろしくでっかい水路になっている。

 ちなみにてっぺんは湖になっていて、そのど真ん中に湖水に浮かぶように王宮があるんだ。


 行政や、諸々の国立施設は、基本、この丘の中にある。

 騎士団本部とか、治療院、図書館に、裁判所。各省庁の本部もあるし、迎賓館もあったっけ?あとは、僕らの通う養成所とか・・・


 いろんな組織が独自に牢屋なんかも持ってるから、悪い人を捕まえておく施設もあるけど、国中で一番強い人達が集まっているから、治安も安心。

 僕は、件の馬車とかは、これらどこかの牢屋で隔離してるんだって思ってたんだけどね、どうやら違うようで、バフマの操る馬車は丘を降りて、王都の街並みを横切り、そのまま塀の外に出ちゃったよ?


 馬車はそのまま門から出ると、塀に沿って少し走る。



 王都ってね、放射状に道が集まってきてて、その道の突き当たりに門を設けているんだ。

 当然門と門の間も塀が渡っているんだけど、そんな塀に沿って、僕らの乗る馬車は走っていった。


 ・・・と。

 ずっと単なる壁状の塀に沿って走っていたのに、前の方にポコン、って突き出た建物が見えたよ。

 2階建てのその小さな建物は、塀にくっつくように建てられていて、色も材質も塀と同じっぽい。

 ドクに聞くとこれが今回使っている隔離施設なんだって。


 空気穴はあるけど、窓はない。

 本当に塀がぽこりと出ただけみたいな真四角のもので、魔物とか外敵が足場にできないようにまっすぐにしてるらしい。


 この建物はもともと二つの用途のために、ほとんどの門と門の間に建てられているんだって。


 一つは塀のメンテナンス基地として。

 高さも広さもある塀だから、メンテナンスもいちいち塀の中へ戻ってたら大変でしょ?特に天災とか魔物による攻撃、それに人災?戦争とかね。

 そんなのに即対応できるように、ちょっとした材料とか置いてたり、簡易の宿泊施設にもなってるんだって。


 もう一つは隔離施設として。

 超危険な犯罪者で、王都内に入れるのが危ぶまれる場合。

 「アレクが悪者になったら、捕まるのはこっちじゃろうのぉ。ホッホッホッ。」

 なんてドクは言ってるけど、失礼だよねぇ。

 まぁ、町中で暴れられたら困るレベルの犯罪者、とか用らしい。

 後は、どっちかって言うとこれが主らしいけど、伝染病が出たとき。

 患者を隔離して、広がるのを防ぐんだそうです。

 この用途では何度か使用されているってことで、犯罪者云々は、今のところないみたいだね。

 あ、今がまさにそうか。



 馬車が近づいたとき、なんか水の幕を抜けたような感じがしたよ。

 結界、だね?

 「そうじゃ。セスの儂の家のまわりのものと同じのを二重にしかけとる。今のが外側の結界じゃのう。」

だって。


 ドクはセスの民・・・って言うにはちょっと特殊なんだけどね。

 セスの民っていうのは、本当は魔物の領域である結界の向こうと戦う民のことだから。


 えっとね、北の大陸には樹海、なんて言われる魔物の領域があるんだ。

 でも初めっから樹海だけが魔物の領域だったわけじゃない。

 強力な魔物があっちの大陸にはたくさんいて、人々は、それらの魔物と生存圏をかけた戦いをずっと行っていたんだって。人々は数少ない人間の領域を守るため日々戦い続けた。それが何万年単位なのか、何千年単位なのか、分かんないぐらいの長い間、人々は戦い続けていたんだって。


 ちなみに、その戦いから逃れるために海に出た人々がいた。

 その人々が別の大陸に流れ着き、様々な国を興したようで、南の大陸って言ってる、僕らの住む大陸の祖は、元々こういった海に出た人々だったみたいです。

 まぁ、もう神話や伝説の話だし、もともとこっちの大陸に原住民がいた可能性もあるけどね。



 そんな長い戦いの中、人々は人種にかかわらず、いや、人種による特技を出し合って、魔物と戦っていた。

 武の獣人、導具のドワーフ、魔法のエルフにバランスの人種。そこに精霊達も協力して、なんとか人の領域を守っていたんだ。


 そんな中、最前線で戦うチームにセスという人族がリーダーの部隊があった。

 彼らは、優秀で勇敢な戦士たちで、魔物を次々と奥地へ追いやったんだけど、あるとき、奪還した場所を結界で塞ごう、って研究し始め、結界の作成に成功したんだって。それが今ある樹海の結界の始まり。

 この結界によって、結界からこっちへと出てくる魔物は随分減り、人々が安心して住む領域が増えていったらしい。


 けどね、結界だし、当然追加で魔力の補充とか、魔法陣の補修とか、色々守らなくちゃならない。それに、魔物の領域に蓋をしたことで、より魔物の領域の魔素が増え、強い魔物が産まれやすくなったんだって。それらが人の領域に出てこないようにやっつける役目も必要になったんだ。

 そんな結界の保持と強力な魔物の間引きを行ったのもセス率いる部隊の人達。

 彼らはやがてセスの民、と呼ばれ、代々その仕事を行うようになっていった。


 ドクはそんなセスの民の子として生まれたんだけど、外の世界に興味を持っちゃってね、飛び出したんだって。

 南の大陸まで逃げて、冒険者として名を馳せた。

 それも面倒になって、一度はセスの地に戻ったんだ。

 誰もいない、しかも結界のちょい中に家をつくった。

 その時は魔導具作りに夢中だったらしくって、誰にも邪魔はされたくなかったんだって。

 その頃には、ドクってば、北の大陸を含めても魔導具で右に出る者はいなくなってたらしくってね、自分の家の周りに、あの樹海の結界を応用した魔導具を使って、濃い魔素からも人の目からも隠した家をつくっちゃったらしい。

 まぁ、知り合いには新しい結界の魔導具とか、その技術も提供はしてたみたいで、樹海の結界が強力になって喜ばれ、尊敬されたみたいだから、セスでも麒麟児的な扱いみたいです。


 長々と言ってるけど、隔離施設に使った結界ね、あれが、まさに、樹海の中のおうちに使ってたのと同じやつだった、ってお話。

 当然、ドクが提供したようです。




 結界を抜けて馬車を止め、隔離施設に入ったよ。

 中には見たことのある騎士さんが何人か、それに協力してたらしいラッセイと、一応ここの責任者してるみたいなリネイもいた。

 ドクと僕を見て、びっくり・・・は、してなかったかな。

 特にリネイなんかはやっときた、って、ホッとしてる感じ。


 「博士、どうなりました?」

 「まだ王子は気とらんか。パクサ王子は事件を追いたいようでの。」

 「この気味の悪い魔力をまだ放置するんですか?」

 リネイは辟易しているよう。


 といっても、今は、瘴気は感じないけど?うっすらとした残り香みたいな感じぐらいで。


 「そろそろ向こうの結界も限界は近いじゃろうがな。まぁ、陛下もその辺りはわかっとるよ。パクサ王子に審問官を同行させておる。」

 「審問官ですか?証拠にするんでしょうが、大丈夫でしょうか。」

 「すぐにどうこういう類いではないしのぉ。」

 リネイとドクは、難しい顔をして黙っちゃった。


 「ねぇ、ドク。審問官って?」

 ずっと陛下が言ってから気になってたんだよね、僕はお話しを中断したドクに聞いたんだ。


 「証拠を調べて、書類に残す人じゃよ。死体なら腐るし、証言はその場で消えるじゃろ。じゃからちゃんとその証拠があったことを記録し、記録されたものは正しいものとされるんじゃ。そのために審問、つまり犯人からいろいろ聞くことができる。直接捕まえた騎士や憲兵よりも冷静に聞けるはずじゃから、審問官が捜査資料を基にいろいろ聞くんじゃ。」


 細かく聞いたら、審問官って陛下が直接任命するんだって。だからずばり陛下の代理ってことで、その証拠に疑問を挟むのは陛下に疑問を挟むに等しいってことらしい。裁判になったら審問官の出した証拠が最優先だから、ある意味、犯罪者にとって、一番重要な人みたいだね。前世のイメージの審問官とは、かなり違う感じです。



 そんな重要な人が証拠を調べにここにやってくる。

 聞いた話だと、瘴気にまみれたものが乗せられた馬車が7台あって、それをこの施設の土間になっている場所に固めてるらしい。

 中に運んでたものを乗せたまま固めて、それをさらにドクの結界の魔導具で封じてるらしい。

 おかげで、僕にもタールみたいな瘴気は、ここにいても感じないけどね。


 乗組員は何人かは無事らしい。

 あとは、馬車から落ちて亡くなったり、タールのような瘴気にのまれて死んでいた人もいたようです。

 無事だった人も、あの黒い魔力を纏っていたみたいだけど、ママの治癒魔術と、栄養価のある食べ物を与えられたら、徐々に抜けたよう。まだ完全に抜けきってはいないから、僕にうっすらと黒い魔力を感じさせたようです。



 ただね、パクサ兄様や審問官さん。

 尋問はいいとしても、証拠品を確認するんだよね?

 あの、馬車を包む結界の中に入るんだろうか?


 「ねぇ、ドク。兄様達が来る前にホーリーした方がいいんじゃない?」

 「いや。陛下が許可を出したのじゃ。危険は承知。認めんわけにはいかん。」


 はぁ。

 魔力の弱い人の方が危険なのにな。

 パクサ兄様は、ラッセイレベル、らしい。

 弱くはない、だろうけれど・・・


 その後は、ここにいた人への今後の対策をしたよ。

 ドクが、ラッセイに手紙のことにプラスしてホーリーのことを話したり、ここに詰めている騎士の人に、証拠調べの後はできるだけ速攻で魔法を使って対処するから、下がるようにと行動を指示したり。


 結構な時間が経った、その後、馬車が2台分、ゾロゾロと人を引き連れたパクサ兄様が、やっと、この隔離施設にやってきたんだ。

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