第146話 王都で報告会

 僕がママの鞄を抜けると、そこはナッタジ商会の王都支店だった。

 もちろん、バックヤードです。

 夕方だからってのもあるのか、ママだけじゃなくて、こっちにいるみんながかなりの人数集まっていて、しかもパクサ兄様やリネイをはじめとした、失踪事件の裏取りチームや、弟のレーゼまでいてビックリだよ。

 どうやら、ママは鞄を私室においてたみたいで、この移動法を知らない人達の前で出ちゃう、なんてことにならなくてホッとしたけどね。

 僕はいったんお外に出て、外から帰ってきたみたいに入っていったんだ。


 パクサ兄様たちは、僕が昨日王都で暴走馬車を目撃したのは知ってるから、まさかダンシュタに1日ほど滞在してた、なんて思ってもいないだろう。

 だから、お手紙をどうやって渡そうかな、って思っていたらドクがめざとく見つけて、「お使いご苦労さん」って言いながら、手紙を受け取った。

 まぁ、鳥系の魔物使ったりと、普通なら1ヶ月もかかるこの距離を数日で手紙を送る手段がないわけじゃない。この手紙が書かれてまだ数時間しか経ってない、なんてバレるほど時間感覚がきちんとしている世界じゃないから、まぁ、早便でついたんだろうって思うとは思うんだけどね。ドクがそう思うように思考誘導してるし。


 僕が、手紙の内容を知らなかったことも幸いして、まったく疑われずに、ここに来る前にギルドでも寄って、手紙をゲットしてきたと思われたようです。


 で、手紙には何が書かれてたかっていうと、ダンシュタのレストランでの出来事をはじめとして昨日今日の事件を、まぁ僕の名とかホーリーは出さずに簡易に報告していたんだ。


 えっと、端的に言えば、モーメーをなんらかの形で、黒い魔力に染め提供していたことが分かり、その取り扱い店の店主等を捕獲したって感じかな?


 黒い魔力自体は南部の遠征に出た人なら知っているから、かなり驚いていたよ。


 黒い魔力は、生きているモーメーだけじゃなくて、肉やチーズからも検出されたこと。

 人間も汚染されていて、それは黒い魔力を含んだ食べ物をたくさん食べた事によるもので、例の中毒症状、つまりは理性を飛ばして、借金や暴力沙汰でもってしても、食べずにはいられなくなった人が、この汚染者だってこと。

 もともと魔力が少ない人ほど症状はひどいってこと。


 生きたモーメーに、汚染患者の血を与えて、さらに黒い魔力を濃くしていたらしいこと。

 あの、喉をかっ切られた男の人は、そういうことだったらしい。

 あと、縛られてた人達も、同じようにする予定で、しかもひどいことに、より血が黒い魔力を包含するように、黒い魔力に染まった食材のみ食べさせていたようです。

 本人たちは、中毒っていうか、依存症になってたから、喜んで口にしてたみたいだけど、結局は黒い魔力を提供前のモーメーに与えるためのエサとしてしか考えられてなかったよう。僕は腹が立ってしょうがないよ。


 他には、これらの黒い魔力を帯びたものはダンシュタではモーメーが中心だったけど、他にも南部で捕れた強い魔物の素材なんかもあって、これについては最近できたレッデゼッサのダンシュタ支店にたくさん搬入されていたみたい。


 で、その全部が、アルドラ商会によって運び込まれていたので、現在アルドラ商会の捜索中とのこと。


 手紙は、同様の事件が王都でもあるようだから、参考にして注意するように、という内容で締められていました。



 分厚い手紙だったけど、内容も濃かったよ。

 まぁ、ホーリーで白い砂にされた各商店が被害届を出したから一網打尽にできたってことは端折ってたけどね。


 手紙を読んだ兄様たちは、慌てて、飛び出していったから、内容を周知した上で、アルドラ商会とかを追うんだろうね。



 アルドラ商会といえば、昨日の暴走馬車の犯人でもある。

 実は、あの暴走、マジで暴走だったことがわかったんだって。

 城門を勝手に突破し、爆走してたから、あの後すぐに騎士達に取り押さえられて、牢屋に入れられたらしいです。


 あのとき、僕は馬車から溢れる瘴気に反応して、まぁ、ちょっとばかり魔力を溢れさせちゃったみたい。それに反応してバンミがすぐに僕を回収にきたってことだったみたいだけどね。反省反省。

 で、あのとき僕の魔力に気付いたのはバンミだけじゃなくて、ママもだし、ドクもだった。

 ママは、すぐに僕を王都に送り出したけど、それはいつもの勘、なんだろうな。


 ドクの場合、僕の近くにあの瘴気があるのも気付いたみたいです。

 その前の、レストラン「テンデの神舌」でのことも気づいて気になったから、僕の魔力を追ってたってのもあるらしい。

 あの馬車から溢れていたのは、ダンシュタのモーメーと違い、黒い魔力の気体っぽいのじゃなく、濃厚なタール状の魔力だった。

 ドクはそれに気付いて、町中、それも王都にあれが解き放たれると大変だ、と、タールの方を追ったそうです。


 黒い魔力がタール状にまで濃くなると、魔物だって人が触れていいものじゃなくなるってのは、南部からももたらされる知識。

 ドクはセスの現状を知っているからいわずもがな。

 ドクの指示で一応、馬車は王都の塀の外に出され、そのまま、隔離、さらにはドクによる結界を施して、瘴気が溢れないようにしたんだって。ママも手伝ったみたいだね。


 馬車に積まれていたのは、南部から運び込まれた複数の生きた魔物と、魔物を解体してできた魔力溢れる素材だったらしい。

 それと、タール状になった魔物を切り取ったもの。

 どうやって手に入れたのか、南部で出現した黒い魔物を切り取り、結界を施した壺に入れて持ち込んだようです。

 運んでいた人達は、壺の結界のお陰で、タールだって問題ないって思ってたみたい。

 実際、何度もあちこちに運び込んでいたようです。

 ただ、王都に運び込んだのは初めてで、距離としても最長なんだって。

 で、知らない間に、王都に入る頃にはあの魔力が溢れていたんだろうっていうのがドクの推測。

 あふれ出た魔力が生きている魔物を浸食し、その気配に怯えた馬車を曳くモーメーが恐慌状態に陥って、人のコントロールを離れ、爆走しちゃったみたいでした。しかも、乗っていた人たちも、魔力の影響を受けて、意識か理性を手放してた人がほとんどだったそうです。

 てのが、一応正常を保っていた人から聴取した内容だそうで・・・



 で、ママとレーゼですが・・・


 しばらく、リッチアーダのおうちから離れて、ここ、ナッタジ商会で住むことにしたみたい。もともとここで住むように作ってるし、従業員さん達の寮にもなってるしね。僕も、ここにしばらく住むことになるらしいです。

 宙さんのところに出入りするのを見られちゃ拙いし、ナッタジ商会って狙われてるから、リッチアーダに迷惑かけられないでしょ?だって。

 え?うちってば狙われてるの?


 ママは、宵の明星が集まっている方が安全だし便利、って言って、レーゼもつれてこっちにきたようです。

 リッチアーダ家には随分引き留められたみたいだけど、ママは決めたらテコでも動かないし、そもそもママのやることには間違いがないってのはみんな知ってるから、結局こうなってるみたい。

 うん。

 もともとひいばあちゃんであるニアさんが、予知とかそういう力を持つ人だったし、ママもその能力に近いものを持ってるんだろうってリッチアーダの人達は納得せざるを得なかったんだろうなぁ。


 僕はママやみんながいるならどこでもいいや。

 ママってば、僕の荷物も含めみんなの荷物をかなりバッグに詰め込んだようで、しっかりとマジックバックを使いこなしているようです。


 それにしても・・・・


 全員集合の割には、アーチャとモーリス先生、カイザーにラッセイがいないね。

 そう言うと、まさかのアーチャはずいぶん前、僕が南部から帰ってきたときには、すでに故郷へと旅だったらしい。うんセスに向かって船の上。

 モーリス先生とカイザーは、今朝、ミモザへ向かったそう。

 で、ラッセイはどうやら塀の外の隔離施設で、アルドラ商会の監視要員。


 ダンシュタにはゴーダンとアンナ。あ、ゴーダンはトレネーに向かってる途中か。

 で、そのトレネーにヨシュア。


 なんだか、みんな色々ばらけちゃって、ちょっぴり寂しい。

 そんな風に思うのは、この大変な事件の最中、わがままなんだろうけどね。


 晩ご飯にママがシチューを作ってくれてる。

 それを待ちながら、ぼんやりそんなことを考えている僕の頭を、なぜかレーゼが、ニコニコしながら、

 「ダーチャ、良い子良い子」

って、頭を撫で続けていたんだ。

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