第11.5話 賢者、ライバル(?)を助ける(後編)

本日ニコニコ漫画にてコミカライズ最新話が更新されました。

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~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



「何いってんの?」

「1年前、あんだけラセルをぶっ叩いてただろう」

「そうだそうだ!」

「えっと……。えっと……。もういいんじゃないかな?」


「殴りたかったら、殴れよ。俺様は手を出さないから。でも……。出来れば、手と腕は殴らないでくれ」


「ぎゃはははは! ――てことは?」

「サンドバック決定?」

「いいじゃん。いいじゃん。俺、昔からボルンガのこと嫌いだったんだよね」

「えっと……。えっと……。みんな、やめ――」


「「「お前はすっこんでろ!!」」」


 1人の舎弟を脇に追いやる。

 残った3人はたちまちボルンガを囲んだ。

 後は、殴る蹴るのオンパレードだ。


「ほら! 殴ってみろよ」

「昔みたいによ」

「おい! どうした、ボルンガ!」


 挑発する。

 ボルンガもいよいよ我慢の限界らしい。

 おもむろに立ち上がった。

 顔を真っ赤にしている。

 憤怒の形相で、元舎弟たちを睨んでいた。


「おうおう。やるか?」

「ルキソルさんとの約束はどうするんだよ?」

「ほら。おいらの頬はここだぞ」


 舎弟たちはさらに煽る。

 顔を突き出すものまでいた。


 ボルンガは息を吸い込んだ。

 腕を振り上げる。

 とうとう約束を破るのか、と思った。


 どすん……。


 寸前で拳を止めると、また地面に座り込んだ。

 奥歯をギュッと噛みしめ、耐える。

 再び殴られ、蹴るの暴行が始まった。

 ボルンガは亀の子になり、必死に手を庇っていた。


 ボルンガの誓約は、本物だった。


 ……。


 やれやれ……。

 見てられないな!


 剣気を放つ。

 己の気配に、殺意、さらに魔力を載せたものだ。

 すると、大気が震えた。

 一陣の突風のように、梢を揺らす。


 ボルンガに向けていた拳が止まる。

 強烈な殺意に、子供たちは縮み上がった。

 振り返る。

 俺の姿を見つめると、一同の顔は蒼白になった。


「面白いことをしているね、君たち」


「ら、ラセル…………さん」

「え、ええ……」

「そうでしょ。ら、ラセルさんも一緒にどうっすか?」

「えっと……。えっと……。ぼ、ボクは何もしてないよ」


「そうだね、ぼくも混ぜてもらおうか」


 俺はボルンガの前に立った。

 頬が腫れ上がっている。

 ただでさえ大きな顔が、さらに膨れあがっていた。


「無様だね、ボルンガ」


 正直、自業自得だ。

 昔、【戦士ウォーリア】の力を振るい、人を従わせてきたツケが、今さら回ってきたのだ。


 けれど――。


 だからといって、人間を殴る理由にはならない。

 こいつが、かつてラセルに暴力を振るっていてもだ。


「なあ、ボルンガ。君の誓約は、こうだったよね。人にヽヽ暴力を振るったりしない」


「あ、ああ……。それがルキソルさんとの約束だ」


「そうか。じゃあ、人じゃないなヽヽヽヽヽヽらいいんだねヽヽヽヽヽヽ


「は?」


 俺は【探索者シーカー】の魔法を起動する。


 【変身】


 魔法を舎弟たちに向ける。

 たちまち身体が変化し始めた。

 大きな鼻。小さな耳と、尻尾。

 体表の色はピンクに変わり、身体はゆっくりと四つん這いのポーズを取るようになる。


「ぶひぃ!! ぶひぃい!!」


 下品な声を挙げる。

 そうだ。

 全員醜い豚になってしまった。


(な、なんじゃこりゃ!!)

(どういうこと!?)

(ラセルさん! 何を――)

(えっと……。えっと……。僕もなの?)


 何かいっているようだが、俺にはわからない。

 【獣語解読】を使えば、すぐにわかるだろう。

 が、魔力がもったいなかった。


「これならどう、ボルンガ……」


 すると、ボルンガは立ち上がった。

 ゆっくりと【筋量強化】をかける。

 見事だ。

 昔は随分荒削りだった。

 だが、この1年間、ルキソルから教わることで、魔力を上手くコントロールすることが出来るようになってきた。


 無駄なく【筋量強化】の魔法を、全身に行き渡らせる。

 豚となったかつての舎弟の前に立ちはだかった。

 その横に、俺も並ぶ。


「お前もやるのか?」


「言っただろ? ぼくも混ぜてって……」


(ちょ! ラセルさんも!)

(混ざるってそういうことなの!)

(いや! いやだぁぁぁぁああ!!)

(えっと……。えっと……。もうどうにでもなれ!!)


「なんか言ってるぞ?」


「さあ……。どういうわけか、たった今【獣語解読】の魔法を忘れちゃったよ」


「【獣語解読】っていってるじゃねぇか」


 ボルンガと俺は、同時にニヤリと笑った。

 ボキボキと指の骨を鳴らしながら、哀れな豚共を囲む。


「「覚悟しろよ、お前ら」」



 ぶひぃいぃぃいいいいいいいいいい!!



 豚の悲鳴が、早朝のスターク領に鳴り響くのだった。



 ◆◇◆◇◆



「おい。動くなよ」


「お前の【回復】の魔法……。圧が強すぎるんだよ」


 俺はボルンガに【回復】の魔法を施す。

 腫れた顔が次第に引いていった。

 さらに細かな傷も癒す。

 魔法を行使しながら、俺は尋ねた。


「ボルンガ。君は、強くなりたい?」


「ああ。お前よりもずっとな」


「ぷっ!」


「何がおかしい……」


「やっぱりボルンガは、ボルンガだなって思ってさ」


 こいつ……。

 ルキソルといる時は素直な癖に、俺と2人っきりになると、途端に昔に戻るんだよな。

 言い方が素直なじゃないんだ。


「ぼくが強くなれる場所に連れてってあげるといったら、君はどうする?」


 ボルンガは顔を上げる。

 やがて、うんと頷いた。


「行く……!」


 その目には強い決意が込められていた。

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