第12話 賢者、7歳にしてB級魔獣を生み出す(前編)

本日『ニコニコ漫画』にてコミカライズが更新されております。

是非読んでくださいね。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 俺は、父とボルンガを例の洞窟に招いた。

 ちなみにルキソルが同伴しているのは、ボルンガが口を滑らせたからだ。


 2人は中に入るなり、顔を引きつらせる。

 洞窟の中は、魔獣の巣窟になっていた。


「オーガに、ポイズンバッド、ワーウルフまで――」


「ラセル……。これはどういうことだ?」


「ぼくが作ったダンジョンですよ」


「「だ、ダンジョン!!」」


「周辺の魔獣を集めて、ここで増やしていたんです。心配しないで下さい。洞窟全体に【結界】の魔法が敷設されています。彼らが村を襲うことはありません」


 呆気に取られ、ルキソルもボルンガも、声も出ないようだ。

 それぞれのフロアに集められた魔獣たちを見回す。

 種族ごとに【結界】で区切られ、少しメルヘンチックにいうならば、魔獣の動物園みたいになっていた。


「森の奥に入って何かをしていたのは知っていたけどよ……」


「ああ。これは予想外だ」


 ごくりと、ルキソルは息を呑んだ。


「戦ってみますか、父上?」


「良かろう」


「ボルンガはどうする?」


「望むところだ。スキルポイントを溜めて、お前が持っている強力な魔法よりも強い魔法を習得してやる」


 2人とも気合い十分だ。


 じゃ、最初はこいつらかな。

 俺は【結界】の一部を解いた。

 唸りを上げながら、現れたのはグレイウルフだ。


 D級の魔獣。

 体躯こそ野犬より一回り大きい程度で、迫力にかける。

 だが、その俊敏性はイッカクタイガーよりも上だ。

 鋭い牙と爪は、一噛みで牛の頸動脈を噛み切るほどの威力を持つ。

 人間なら一溜まりもないだろう。


 それが4匹。

 【結界おり】から放たれた猟犬のように唸りを上げる。

 剣を構えるルキソルとボルンガを指向した。


「来るぞ、ボルンガくん。抜かるなよ」


「は、はい……」


 さて……。俺は高見の見物と行こうか。



 ◆◇◆◇◆



「絶対、ラセルに勝つ!!」


 謎の気合いの言葉を叫ぶ。


 それが功を奏したのかは知らない。

 ボルンガの剣は1匹のグレイウルフに届く。

 喉を切り裂かれた魔獣は、その場でもんどり打った。

 やがて目から光を失うと、絶命する。


 ボルンガにスキルポイントが付与された。


 4匹のグレイウルフの死体が転がる。

 魔獣は全滅した。

 ボルンガは、尻餅をつき、肩で息をする。

 ルキソルも、久しぶりに実戦の感触に戸惑いつつ、額の汗を拭った。


 終わってみれば、完勝か。


 まあ、よくやったと褒めてやるか。


「どうだ、ラセル! 俺様も魔獣を倒すことが出来たぞ」


 あー。あー。凄い凄い。

 お前は天才だよ、ボルンガ(棒)


「もっと強い魔獣を出してもいいぜ」


 自信満々なご様子だ。


 そうか。じゃあ、とっておきの出してやるか。


 俺は【結界】を解く。

 地響きが洞窟の奥から聞こえてきた。

 天井から埃が落ちてくる。

 やがて、闇が揺らいだ。


 最初に目撃できたのは、巨大な角。

 さらには、白と黒の縞模様。

 大きな顎門を猛々しく開き、曲刀のような牙が光っていた。


「あ……。あわわわわわわ……」


 ぺたんとボルンガは、再び大きな尻を地面に付けた。

 ルキソルも驚き、声も上げられない。


 現れたのは、イッカクタイガーだった。


「戦ってみるかい、ボルンガ?」


 尋ねると、首がねじ切れるのではないかと思うぐらい、少年は首を振った。

 森での事件からまだ1年しか経っていない。

 あの時のことは、まだ記憶に新しい。

 軽いトラウマもあるはずだ。


「ラセル……。通常のイッカクタイガーよりも大きいようだが……」


 ルキソルのいう通りだ。

 今、目の前にいるイッカクタイガーは、俺が仕留めた個体よりも一回り大きい。

 だが、昔はこれぐらいの大きさが普通だった。


 このイッカクタイガーは、【身体活性】を使って、大きくしたものだ。

 まさか馬鈴薯の一件が、こんなところで役に立つとはな。


「イッカクタイガーを育てるなんて。ラセルはとことん自分を強くしたいらしいな」


 ルキソルはお手上げといわんばかりに肩を竦める。


 しかし、その答えは間違っていた。


「違うよ、父さん」


「ん? このイッカクタイガーを倒して、スキルポイントを獲得するのではないのか?」


「もうイッカクタイガーぐらいじゃ、魔法は取得できないよ。……だから、こいつにはもう1段階強くなってもらう」


「なに?」


 俺は懐に手を伸ばす。

 取り出したのは、白い魔法袋だった。

 それを解呪する。

 袋が広がり、現れたのは飛竜の巣で取ってきたワイバーンだ。


 やがてワイバーンは、目を覚ます。

 上瞼と下瞼をパチパチと動かした。

 周囲の状況が一変していることに驚く。

 慌てて長い首を持ち上げた。

 翼を広げ、飛び立とうとする。

 だが、そこに大空はない。

 すぐに洞窟の天井にぶち当たり、悲鳴を上げながら落下した。


 その様子を見ながら、励ますようにイッカクタイガーが吠える。

 うるせぇ、といわんばかりに、ワイバーンも嘶いた。

 魔獣のコントを見ているようだ。


 しかし、後ろの2人には笑えない状況だった。


「るるるる、ルキソルさん! イッカクタイガーとワイバーンが同時にいますよ!」


「おおおおお、落ち着け、ボルンガくん。れ、冷静に冷静になるんだ」


 2人はひしと抱き合いながら、身を震わせる。

 まるで親子みたいに仲がいい。

 子供の前で、なかなか見せつけてくれるな、この2人は。


 心配しなくても、お前たちには指一本触れさせはしないさ。


 この2体にはなヽヽヽヽヽヽヽ……。


 俺は【鍛冶師ブラックスミス】の魔法を起動する。


 【合成】


 イッカクタイガーとワイバーンが緑色の光に包まれる。

 両者は徐々に近付き、ルキソルとボルンガのようにくっついた。

 さらに光が増す。

 2匹の魔獣が、光の塊の中で溶け合う。

 すると、別の形へと変化した。


「こ、れは……!!」


「ひ、ひぇぇぇええ!」


 ルキソルが驚けば、ボルンガは情けない悲鳴を上げるのだった。


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