劣等職の最強賢者~底辺の【村人】から余裕で世界最強~

延野 正行

1章 幼年篇

プロローグ 賢者、幾度目かの転生を決意する。

2022年2月6日からニコニコ漫画でコミカライズが始まります。

是非読んで下さいね。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


「【魔導士ウィザード】でもダメだったか……」


 俺は顔を上げて、改めて周囲を見回した。


 死屍累々と死体が積み重なっている。

 その形は人間ではない。すべて異形の姿だ。

 彼らは魔族……。人間の天敵にして、異世界ガルベールの害悪だ。


 そして視界の半分以上を埋めていたのは、巨大な邪竜だった。

 これが魔族を統括する王――つまりは魔王だ。

 数々の冒険者が挑み、敗れ、散った。

 間違いなく世界最強の生物であっただろう。


 しかし、今は、声なき骸になっている。


 俺が倒した。


 1000年以上、人間を悩ましてきた問題を、ようやくクリアしたのだ。


 だが、そこに歓喜はない。

 深い深いため息には、絶望すら漂っていた。


 自分の指先を見つめる。

 小さな赤い線が斜めに走っていた。

 軽く力を入れると、じわりと血だまりが膨らんでいく。

 指を絡め取るように滴が螺旋を描くと、最後は手の甲を伝って地面に落ちた。


 魔王が唯一、俺に付けた傷痕だ。


 傍目から見れば、俺が魔王を完封したように見えるだろう。

 だが、それでも俺は納得することが出来なかった。


 俺はかつて【戦士ウォーリア】だった……。


 【聖職者クレリック】でもあり、【鍛冶師ブラックスミス】でもあった。【探索者シーカー】という時もあった。【学者プロフェッサー】であった時も……。


 そして、今は【魔導士ウィザード】だ。


 ガルベールに存在する6大職業魔法……。


 俺はそのすべてを転生魔法によって経験し、究極的に高めていった。

 その膨大な知識と経験から、俺を『賢者』と呼ぶ者すらいた。


 しかし、ダメだった。

 どれだけの年月をかけ、魔法を鍛錬してもいずれ限界がやってくる。

 突出した魔法スキルには、必ず弱点が存在し、対応した戦術を使えば、勝利することは容易い。


 問題は、6つの種類の魔法を1度の生で手に入れられないことだ。


 様々なことを駆使したが、その命題だけはどうしても解けなかった。


 今回もダメなのか……。


 諦めかけたその時、声が俺の耳朶を震わせた。

 死体に埋まった戦場で、生存者がいるらしい。


 そのまま立ち去っても問題はなかった。

 実際、そうしようとも思った。

 何故なら、ものの数分で死んでしまうほど、か細く消え去りそうだったからだ。


 声の下に辿り着く。


 それは俺と同じく人間だった。

 もう息が絶えている。

 おそらく聞いたのは、最後に発した小さな小さな断末魔だったのだろう。


 その人間は【村人】だった。


 ガルベールの人口の半分。

 魔法が使えない唯一の職業。

 持たざる者。

 劣等職マイナー


 世界を維持する役目を担う職業。


 不幸にも戦場に巻き込まれたのだろう。

 弔ってやろうと、墓を掘ろうとした時、俺はあることに気づいた。


「【村人】にスキルポイントが付与されているだと?」


 スキルポイントとは、魔物や魔族を倒した時に得られる経験点だ。

 ポイントを還元することによって、職業に応じた様々な魔法を得ることができる。


 魔法を持たない【村人】が、魔物を倒すのは不可能だ。

 しかし、どうやら偶然にも弱っていた魔族のトドメをさしてしまったらしい。


 俺は素直に驚く。


 【村人】でもスキルポイントが付与されることに……。


 もしや……。


 俺はその場にしゃがみ込み、【村人】を解析した。

 やがて、ある事実に気づく。


 確かに【村人】は、魔力量が低く、身体的にも魔法に適さない。

 その成長速度も、他の職業と比べれば、雲泥の差だ。

 劣等職といわれるのも理解できる。


 しかし、決して魔法が使えないわけではない。

 それどころか、場合によってはすべての魔法を習得できる万能職に化ける可能性があった。


 全魔法の習得――。


 それは俺が目指す頂点だ。


 迷いなどない。

 俺は弾かれるようにマントを翻す。

 手を掲げた。


「転生魔法、起動……」


 手の平に魔法陣が浮かぶ。

 すると、何かが高速回転していく。

 煌びやかに光り、視界が真っ白に染まった。


 そして、いずこから声が聞こえた。

 それは俺に【転生魔法】を伝えたもの。

 ガルベールの6大職業魔法の生みの親。


 すなわち【神】だった。



 やあ、賢者……。また転生をするのかい?



「ああ……。まだ可能性があることに気づいたからな」



 君の実力は、もはや神であるぼくですら、太刀打ちできないのだけど、それでもまだ強くなろうというのかい?



「ご託はいい。さっさと俺を転生させろ」



 わかったよ。そう怒らないでくれ。

 ところで、ギフトはどうする?



 ギフトとは、ガルベールで英雄的行為を達成した者に贈られる奇跡だ。

 今回でいえば、魔族の殲滅が英雄的行為に当たる。

 いくつか禁止されているものがあるようだが(例えば全魔法の習得)、たいていの願いは受け入れられる。

 転生という特殊な魔法も、ギフトによって得ることができた。


「スキルポイントがほしい」



 いいよ。ただし1万ポイントまでだね。

 ……はは。そんな顔をするなよ。

 スキルポイントというのは、意外とこれで望外な奇跡なんだぜ。



 1万ポイントか。


 【村人】の成長速度を考えればわずかだが、ないよりはいい。

 ともかく、魔法を使うことができれば、後はどうにでもなる。


「わかった。飲もう」



 じゃあ、良い異世界ライフを……。

 君が次に起こす奇跡を、楽しみにしているよ。



 さらに白が濃くなるヽヽヽヽ


 身体が分解され、意識が視界の中心へと吸い込まれていく。

 ゆっくりと感覚が失われ、やがてぷつりと俺の中で何かが途切れるのだった。

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