思い出補正【短編】

ふみ

第1話 帰省

 高校2年の夏休み、藤井あつしは祖父母の住む田舎で一週間を過ごすことになった。

 今年は、両親が仕事の都合で帰省できず、篤一人で祖父母の様子を見に行くように言いつけられてしまっていた。

 自然に囲まれた山間の地域で、小学生の頃は両親に連れられて一緒に帰省していたが、ここ数年は友達と過ごす時間を優先してしまい祖父母に会うのは久しぶりになる。


 祖父から連絡があり、8月11日から来てほしいと言われていた。

 およそ半日かけての移動となるが、出迎えてくれた祖父母の嬉しそうな顔を見て、「状況確認なんて電話で済ませればいい」と言ってしまったことを反省した。


 到着後、お互いの近況報告をしていたが、話し終えると祖父は大きな鎌や梯子などの道具を軽トラックに乗せて出かけようとする。祖父母には落ち着きがなかく、村全体からも妙な緊張感が漂っていた。


 篤は帰省中に宿題を片付けてしまう予定だったが、空いた時間は手伝いをするつもりでいた。だが、のんびりとした雰囲気は感じない。


「……俺も手伝うよ?」


 高齢の祖父だけでは心配だったので、篤は声を掛けた。


「そんなこと気にせず、篤はゆっくり過ごしなさい。」


 祖父からは笑顔で断られてしまう。篤は祖父がタブレットを使って道具の確認をしている姿に違和感を覚えていた。


 気分転換に散歩してみることにしたが、


「徳さんのところのお孫さんだね。こんにちは。」


 篤を見かけた人たちは声を掛けてくれる。篤も挨拶を返すが、自分のことを皆が知っていることには疑問もあった。


――どうして俺が徳次郎の孫って、すぐに分かるんだ?


 顔を見ただけで気付かれてしまうことが不思議だった。

 そして、祖父と同じように道具を持ってどこかへ向かっていたので、篤は尾行してみることにした。尾行は失敗して見失ってしまったのだが、見覚えのある懐かしい場所に着いてしまう。


――ここって、俺たちが秘密基地を作ってた場所だ。


 林の中に切り開かれた場所があり、いろいろな資材が捨てられていた。それらを拾い集めて囲いを作ったりしただけの秘密基地。その秘密基地に、家からお菓子を持ち寄って皆で食べたりした。

 自然の中で昆虫を採ったり、川で釣りをしたり泳いだり、そんな思い出がある。この場所は思い出の拠点になっている。


――小さい頃は、それだけのことに夢中になれたんだ……。



 次の日も、祖父母は軽トラックに何かを積みこんで作業をしていた。


「おはよう。……何か手伝うよ。」


 声を掛けると慌てた様子でタブレットを隠してしまい、また断られる。荷台にもシートを被せてしまい、篤に見えないようにした。祖父母の態度には不自然さしかなかった。


 そして昼食の後、家の中で不釣り合いな物を発見してしまった。


――えっ!?……ドローン??


 ドローンで危険な場所を監視することに使うので、実用目的で所持している可能性は高い。祖父の趣味の可能性もあるが、驚かされてしまう。


――タブレットにドローンか……。祖父ちゃんたちも便利な生活してるんだ。


 それでも、篤の目に触れる場所には近代的な物は置かれていなかった。数年前に来た時を変わらない状態を保っている。


 この日に帰省してきた家族があったらしく、外では小学生くらいの子たちを見かける機会が増えていた。


 そんな中で篤は一人の少女と出会う。帰省している少女だとは思うが、昔遊んだ中に同世代の女の子を篤は記憶していない。


 散歩から戻ると、家の中で『ピーピーピー』という警告音を篤は聞いた。音の発信源は奥にある祖父の部屋だ。


「大丈夫?何か鳴ってたみたいだけど?」


 祖母に聞いてみたが、「えっ!?何の音かしらね?」と白々しい対応を見せだけで誤魔化されてしまう。祖父母の不自然な態度や落ち着かない雰囲気に疑問もあったが、普段を知っているるわけではないので篤の考え過ぎかもしれない。


 だが、日付が変わった直後の深夜に異変は起こる。祖父への来客があり、話し声が聞こえてきた。そして、祖父は軽トラックのエンジンをかけていた。


――こんな時間に出かけるのか?


 篤は二階の部屋の窓から外を窺ってみた。


――えっ?何だ?


 外には幾つもの懐中電灯の光が動いていた。かなりの人数がいて、中には全身を白い服で固めている人もいた。

 そんな光景を見て、怪しげな儀式を想像した篤は怖くなってしまう。


――こんな夜中に、何かあるのか?


 好奇心と恐怖心で葛藤するが、この時は恐怖心が勝ってしまった。子どもの時は、家族で使っていた客間も、一人で寝るには広く感じて心細くなる。

 篤は1時間ほど眠れずにいたが、その1時間で祖父が帰ってきた気配はなかった。



 翌朝になって、祖父母の態度に変化は見られなかった。昨夜のことを聞いてみたくはあったが、篤は聞けずに過ごしてしまう。  

 最初は篤が来てくれたことを喜んでくれて、祖父母が落ち着かない態度なのかと思っていたが、それだけではないように感じていた。

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