第4節

「……それはいったい」

「人間の欲望を利用して、おそるべき悪事を働こうとしている組織です」

「おそるべき悪事……」

「ええ。背筋が凍ります。私たちは必ずそれを阻止しなければなりません」

 ふと、トリカワポンズが腰を浮かせた。

「あれ。いま水槽の色が変わったような」

 全員の視線がアクアリウムに集中する。

「変わってますか? 透明なままに見えますが」

「気のせいじゃないですか」

「いや、ほんの一瞬、うっすらと」

 千堂がアクアリウムのアーチを足早にくぐり、コントロールエリアのモニターを確認する。

「高輪近辺でほんの微量のエスエナジー増加を認めていますが、しかしこれ、よく気づきましたね」

「念のため、出動しましょう」

 阿佐ヶ谷博士は立ち上がり、白衣の袖で口元をぬぐった。

「きんつばも、食べ終わったことですし」



 転送された三人は、高輪台駅にほど近い、桜田通りの中央分離帯で呆然としていた。

「来たはいいけど、どうしたらいいんでしょうか」

『前回と同じです。なにか異常を感じませんか』

「ええ。感じるといえば、感じますが」

『どのような?』

「植え込みの小枝が私たちの足に突き刺さっています」

『なるほど。他には?』

「道ゆく車からの視線が痛いです。メン・イン・ブラックのコスプレしたおじさん三人が、中央分離帯から生えてるんですよ?」

『では次は渋谷ですね』

「話聞いてます?」

『聞いたうえで言ってます』

「そうですか」

『渋谷でも同程度の微量なエナジー上昇が見られましたので、転送します』

 その後、渋谷と目黒に転送されたジェントルマンは、なんの収穫を得ることなく阿佐ヶ谷研究所に帰還した。

「空振りでしたね」

 千堂が、白衣の後ろ姿に声をかけた。

「まぁ、あまりに微量すぎて場所の特定が難しかったからなぁ」

「自然現象ってことはないですか?」

「ないことはないが。ただ、なんとなく」

 博士は顎に手を当てて、二秒ほど考えた。

「なにかを企んでいる気がする。あいつが」

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