第7節
油断したトリカワポンズは、アルケウスの鉤爪に捕まり、路面に叩きつけられた。アスファルトが波打ち、ヒビが入る。
「ぐっ、うう、あれ、痛くない?」
『そう。なかなか優秀なスーツでしょう。物理ダメージはほぼ吸収してくれますからね。あとは精神的ショックですが、これは慣れです』
サングラスから響く男の声が、やけに心強い。
トリカワポンズは上体を起こし左を見た。ナンコツとアゲダシドウフに守られているエレオノーラ美咲の姿がある。次に右を見た。アルケウスがミニバンを持ち上げて、ふたつに割るのが見えた。
「破壊しかできない能無しが。子供の頃から鍛えたあの技を見せてやる」
トリカワポンズは立ち上がり、アルケウスに迫った。アルケウスはミニバンを弄ぶのをやめて、彼に向き合った。
「……美咲は俺が守る」
その言葉を言い終えるが早いか、彼は両腕を突き出し、まず右腕を、続いて左腕を回し始めた。そのスピードは加速度的に早くなる。
「こ……これは!」
ナンコツが呟く。
「これは、兄との体格差にかなわないと悟った弟が、最終手段として放つ、あの……」
それに続いて、アゲダシドウフが語る。
「ああ、心当たりがある。従兄弟のケン兄ちゃんに対して、弟のカズくんがよくやっていた、あの……」
ふたりの声は重なった。
「いやいやぶんぶん!」
トリカワポンズの腕はすでに視認できないほどのスピードに達していた。スーツの補助を得て、速度はさらにあがる。風を切る音がする。彼は一気にアルケウスに踏み込んだ。
両者が接触する。複葉機のエンジンのような轟音が唸りを上げ、振動が周囲の建物を震わせた。ヒビの入った窓ガラスは崩れ、ミニバンの破片は金属音を放ちながら路面を転がる。
意に介さないかと思われたアルケウスに変化が起きた。一歩後退したのだ。
『いいですね。効いています』
アルケウスはさらに一歩さがった。
『嫌がってますね。いい攻撃です。物理的にはどうかわかりませんが、少なくとも、あなたの生み出す風が、黒い霧を散らしています。つまりエスエナジーを拡散しているんです。それを嫌がっているのでしょう』
両腕を開いたアルケウスは、そのまま二歩、三歩と後退した。
つづく
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