第三章『騒乱』

三章 第一話



 広大な格納庫の一角に、固定されて立つヘヴィ・アモルファス。十五メートルを超える人型の鉛色をした大型兵器。

 その足下に並んだカプセルにハガネ達はゆっくりと腰掛けた。カプセルの数は全部で三つ。ハガネ達とは鋼鉄小隊だ。

 つまり、ハガネとミウとアイリスと。三人がカプセルの中に座る。

 カプセルのカバーは透明なので蓋が閉じてもその内部は見える。もっとも、蓋が閉じて数秒で、ハガネ達は空間転移したが。ヘヴィ・アモルファスのコクピットへと。


 そこはロボットのコクピットという、言葉のイメージよりも広かった。

 三つの座席が楓の葉に似た角度で設置されたコクピット。中央にハガネ。その右にミウ。左にはアイリスが座っている。

 と、その座席に座った直後にマッドハッターから声が届いた。


「ヒャッハー大将! 出撃の時はカプセルに駆け込むのがマナーだぜ!?」

「すまない。そう言うマナーがあるとは……。次からはそのマナーを遵守する」


 ハガネはそれに対し返答した。当然座席に座ったままでだ。

 一方のハッターは外部から、カナヅチと共に通信している。初出撃だと言う事もあって、二人がバックアップに着いたのだ。コンソール付きのモニターに向かい、二人は状況を見守っていた。

 そして冗談を言ったのだ。ハガネは馬鹿真面目に返したが。


「あのーハガネさん。冗談ですよ?」

「ハガネ、まじめ」

「否定は出来ない」


 するとミウとアイリスから言われて、ハガネは少ししょんぼりしてしまう。

 しかし、ハガネが落ち込んでいようが、出撃の段取りは進行する。


『ヘヴィ・アモルファス覚醒完了』


 ここからはアモルファスのオーエスが──女性の声で、ハガネを導く。


『システム簡易チェック、異常なし。パイロットのソル波長を認識。おはようございます。ハガネ様。機体との接続を続けますか?』

「頼む」

『了解。接続続行。ダイレクトリンカー・プラグ接続』


 オーエスが言うと、ハガネの座る、シート裏からコードが伸びた。

 ハガネの側でも装甲が開き、その尖端が体に突き刺さる。勿論、接続されただけなのでハガネに痛みや苦痛などは無い。

 最後に、シートからハガネの背に、プラグが差し込まれれば終了だ。


『パイロットの精神波を検知。精神波、システム異常なし。ダイレクトリンク──エグゼキュート。正常完了。異常検知無し』


 ハガネの意識がプラグを通してアモルファスと直接リンクする。ヘヴィの指が滑らかに駆動し、アイセンサーが怪しげに輝く。今ハガネはこの巨大な兵器を、自分の体そのものにしたのだ。

 機械人であるハガネはこれを、至極便利なシステムに感じた。


「わ。ホントに体にくっついた!」

「べんり?」

「うーん、どうでしょう?」


 しかしミウとアイリスの二人には、異様な光景に映ったようだ。コクピットに座っている二人が、ハガネを挟んで話し合う。

 二人を安心させるべきだろう──そうハガネが考えた瞬間に、ハッターから丁度質問が来た。


「ヒャッハーどうだ大将!? ダイジョブか!?」

「少し違和感を感じるが、許容の範囲内だ。大事はない」

「まあ体の形が違うからな! しかも固定されてるし! 動くなよ!?」

「了解している。今駆動したら──」

「格納庫が大惨事だ! ヒャッハー!」


 ハッターはまあ口調は兎も角も、基本的には常識人である。

 少なくとも、ヘヴィと接続したハガネよりはごく普通に映る。ハガネの音声システムは既に、ヘヴィ側の物を利用していた。声はスピーカーシステムを使い、コクピットの内部に響いている。


「こちらカナヅチ。モニタリング中だ。ハガネの状態に異常はないよ」

「私の方でも確認しました。数値は全て通常範囲です」

「アイリスはふたり、しんじてる」


 一方、女性陣は女性陣で、ハガネの無事を確認したらしい。アイリスは耳が動いているので確信しているかは怪しいが。

 とにかく準備は整った。後は戦地に赴くだけである。


「ヒャッハー! じゃあ大将元気よく! 出撃の台詞をバッチリ決めろ!」

「ヘヴィ・アモルファス。空間指定。これより通常転移を行う」

「それもまた良し! アモルファス、転・送!」


 ハガネが言うとハッターが答えた。

 その直後アモルファスが輝いて、シルエットが刹那に消滅する。ビュンと言う音を響かせて、固定していたアームだけを残し。

 ハガネ達は異なる場所にある、戦場へと瞬時に旅立った。



 二日前。ハガネは音声会話システムでハッターと話をした。

 ハガネ達の唐突な出撃はこのやり取りに起因した物だ。それはハガネが起床した直後に、マッドハッター側からかけてきた。

 つまりハガネは自分の寝室で、立ったままそれを受けた事になる。


「もしもし?」

「ヒャッハー出撃だ! 大将、帆を上げる準備は良いか!?」

「マッドハッター。意味がわからないが……」

「そうだろうと思った! 説明する!」


 なら最初の台詞は不要では──などと言っても意味などないだろう。ハガネはいつも通りハッターの、ジョークはスルーし話を進める。

 するとハッターは言葉の通り、自らの意図を解説しだした。多少、読解力は必要だが二人の付き合いなら問題無い。


「実は! アモルファスのテストも兼ねて! 大将に出撃して欲しいんだ!」

「何故出撃を?」

「金がかかるからだ! テストだけだと、ポイントメガ盛りだ!」


 翻訳すると、機体のテストにはポイントが多分に必要らしい。

 どれだけ必要かはわからないが、ハガネにも確かに想像がつく。ヘヴィは巨大な精密兵器だ。メンテナンス費も馬鹿にはならない。

 だからといって出撃するのかは、また別問題だと言えるのだが。


「リスクは?」

「無いとは言えねえな! だが安心しろ! 保険はあるから!」


 ハガネは聞くとハッターは答えた。

 保険。当然比喩表現である──


「どんな?」

「稼いだ額の一部から、ポイントを数割持って行かれる! その代わり出撃時の修理費や、メンテナンス費用が支払われる!」

「それは、保険だ」

「そうだろう!? 最初からオレはそう言ったけどな!?」


 ハガネはそう考えて居たのだが比喩表現ではなかったらしい。

 マッドハッター曰く本来の、リスク管理をするための保険だ。


「因みに領主様の経営だ! 経営破綻の心配はねーぜ!」

「なるほど。納得した」

「儲かるしな!」


 敢えてハガネが言わなかったことを、ずけずけ言うのがマッドハッターだ。

 商人としては信用出来るが、色々と損もしていそうである。


「取り合えず、ワタシは了解した。後はミウ、アイリスと相談する」

「ヒャッハー! んじゃ通信終了だ! グッドモーニング! ハガネの大将!」


 こうしてハガネは相談し、今回の出撃を決定した。

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