第86話

「アレーヌアレーヌアレーヌ!」


「ゼロ……ゼロ……ゼロッ!!!」


 アレーヌの体を抱きしめる僕の体を……アレーヌが抱きしめ返してくれる。


「私は……私は……」


「良かった……!良かった……!」


 僕とアレーヌは互いに体を抱きしめ合う。

 アレーヌから力が漏れ出していく、蠢いていた触手がボロボロと崩れていく。


「ごめん……私は……」


 徐々にアレーヌの体から力が抜けていく。


「大丈夫……後は僕に任せて……俺がやる」

 

「……うむ」

 

 アレーヌの瞳が閉じられ、体から力が抜けた。

 僕はアレーヌの体をお姫様抱っこで抱える。


「来い」

 

 僕は魔剣を召喚する。

 狙いは邪神だ。

 

 ボロボロと地面に落ちた触手の残骸。

 そこに邪神の力が集まり、渦巻いていた。


「……逃さないよ。これで終わりだ」


 邪神もすでにそのほとんど力を失っていたのだ。

 その足りない力を補うためにアレーヌに寄生していた。寄生先を失った邪神はもはや抵抗する力などない。


「……っ」

 

 空気が震える。

 しかし、音としてその振動が耳に入ることはない。


「さようなら」

 

 魔剣が世界を滑り、邪神を斬り裂いた。

 

 力は呆気なく消えていく……。何も残さず……。


「ふぅー」

 

 長きにわたるその戦い。それがようやく終了した。


 僕は膝をつり、地面へと足をつける。


「んっ……」

 

 自分の膝にアレーヌの頭をのせ、アレーヌの頭を僕は優しく撫でる。

 アレーヌの体を神々しい光が包んだ。


 世界は死しとも、僕が死ぬことはない。



 永遠。



 それが僕に植え付けられた呪い。人の身の癖に背伸びをして世界へと触れた僕への。生物しての在り方を歪められた僕への……。

 そしてアレーヌは、世界の巫女は呪いと共に歩く……。


 理から外れた存在が確立される。


 人間がサイコロを振るった。

 ……。

 …………。

 神はサイコロを振らない。

 

 この壊れた世界の理が決定した。

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