学園の聖女様は僕の前では別人です!
蜜咲
第1話 学園の聖女様
どこにでもある学校、杉原学園は僕が通っている学校である。生徒数も偏差値も平均的な位置するこの学園には一人の聖女のような女子生徒が存在する。
「大樹―! おっはよ―!」
友達がトンと肩を叩いてきた。
「おはよう。光は朝から元気だね」
僕はあくびをしながら、彼に言葉を返した。
「なんだ? 大樹は夜更かしでもしたのか?」
「うーん、勉強でもしていたのかも」
「かもってなんだよ!」
光はアハハと大きな声で笑いながら、僕の髪の毛をぐしゃっと撫でた。
そんな話をしていると、周りの生徒が少しざわつき始めた。僕と光も生徒の視線の先を見る。
「おっ! 聖女様が来たみたいだな!」
「聖女じゃなくて、立花さんだよ?」
「大樹はいつも聖女って呼ばないのな」
「ちゃんと名前があるんだから……」
そんな話をしていると、その聖女と呼ばれる女子生徒が僕たち横を通り過ぎていった。
「聖女様はいつ見ても綺麗だよな」
「そ、そうかな?」
「大樹は聖女様のこと興味ないのか?」
「うーん、よく分からない」
彼女が通り過ぎた後、僕たちは教室に向かった。この学園は中高一貫で、僕は中等部3年に属している。聖女と呼ばれる彼女も同じ学年だ。彼女は入学式の時から容姿の良さで噂になっていたのを覚えている。
「大樹、課題終わってる?」
「終わってるけど……また?」
「ごめん! 後でジュースでも買ってくるからさ!」
光は課題をするのを忘れたらしく、僕に頭を下げてきた。
「ジュースは別に要らないよ。はい、次はちゃんと自分でしてきてね」
「大樹は神だった? ありがとう!」
光は大げさに表現することが多いなぁと思う。でも彼は、こんな普通の僕と仲良くしてくれる貴重な友人だ。光は凄い速さで課題を写し終わり、僕に課題の紙を返した。
「本当にありがとな!」
「だからいいって!」
僕は笑いながら彼に言った。
退屈な授業が終わり、昼休憩になると多くの生徒たちは学内の食堂に向かった。僕は静かになった教室で手持ちの弁当を広げる。
「大樹の弁当はいつ見ても凄いな!」
光はコンビニで買ったらしいパンを頬張りながらそう言った。彼はいつもコンビニで昼食を大量に買っている。今はパンにはまっているらしい。
「そうだね……」
「あまり嬉しそうじゃないな」
「いや、凄く嬉しい……嬉しいよ!」
僕はそう言い、弁当の中身に手を付けた。味は本当に美味しい。僕たちは話をしながら昼食を食べ進めた。
「おい、大樹。廊下に聖女様がいるぞ!」
「だから、立花さんだって。何してるんだろう?」
廊下にいる彼女はしゃがみ込み何かしているようだった。立ち上がると彼女の手には大量のプリントが握られていた。
「聖女様でもプリントばら撒くことあるんだな」
「いや、あれは……」
そう言うと、もう一人の女子生徒が立ち上がるのが見えた。彼女は立花さんに向かってお辞儀をしている。
「さすが聖女様だな。あの子がばら撒いたプリントを拾ってあげていたんだな」
「そうみたいだね」
彼女は本当に聖女様のように誰にでも親切で優しい。誰かが困っていれば助けるし、先生からの頼みも笑顔で引き受ける。それに加え、成績もトップクラスで完璧に近い人間だ。だからこそ、誰も彼女の本当の姿に気付かない。
「どうしたんだ? 珍しく考えごとして……もしかして、弁当だけじゃ足りないのか?」
「いや、お腹いっぱいだよ。午後の小テストのこと考えてたんだ」
「うげっ、小テストのこと忘れてた」
「僕、職員室に行ってくるね」
「おー、俺は教科書見てるわ」
僕はその場を誤魔化し、教室から廊下に出た。職員室に用事があったのは本当だったので、廊下を歩き階段を下りる。階段の踊り場にいた立花さんと目が合う。
「こんにちは、立花さん」
すれ違う際に一応はと挨拶をした。彼女はニコリと笑うがその笑顔に温かさはなかった。
「こんにちは、大樹くん」
僕は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。彼女が学校で下の名前で呼ぶときは大体が怒っている時だ。
「た、立花さん?」
「へー、そう。分かったわ。今日そっちに行くから」
「え?」
「あれ、聞こえなかった?」
彼女の笑顔の温度が下がっていくのを感じる」
「い、いえ。聞こえてます」
コソコソと会話をしていると、遠くから生徒たちがこちらに向かってくる声が聞こえてきた。僕は彼女に軽くお辞儀をして、階段を駆け下りた。本当に彼女は心臓に悪い。
授業も終わり、生徒たちもパラパラと帰宅していく。僕も帰宅の準備をして、通学路を一人で帰った。今日は家に帰ることを考えるだけで憂鬱な気分になる。
「ただいまー」
僕には兄妹もいないし、両親とも遅くまで仕事をしているので、返事は帰ってこなかった。そのまま階段を上り自分の部屋のドアを開けた。
「あら、遅かったわね」
「やっぱりいるんだね」
「おかえりなさい、大樹くん」
学園の聖女様こと、立花花音は僕の部屋のベッドに腰かけ満面に笑みで僕を迎えた。
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