3.再会
山岳地帯の転移ゲートを抜けて、北の転移ゲートの広場に戻ってきた。視界の端にある現在時刻表示は17時27分。腹も減ったことだし、センター施設にあるショッピングモール的なことろに行ってみるか……。
転移ゲートの広場から、センター施設へとしばらく歩いていると、大きな建物が見えてきた。
ぱっと見は、何の変哲もない2階建てのショッピングモールのようだが、剣やら槍やらを売っている店があったりしてなんか変な感じだ。案内板を見てフードコートやレストランが集まっているところへ向かう。ここだけ見ると完全にショッピングモールだ。
フードコートでは多くの人が食事をしていた。店員さんはファンタジーな色の髪や瞳で、スタイル抜群な美人ばかり。ついつい見とれてしまう。
……と、そんなことより腹減った。
フードコートにあるメニューは現実世界と変わらないようだ。美味しそうな食べ物の匂いが漂っている。何を食べようかな……肉食いたいな。
何を頼むか目移りしてしまうが、結局丼物の店でかつ丼を注文した。電子マネーっぽく読み取り機にスマホをかざすと、ペロンと鳴って決済された。
フードコート内は混雑しているが、一つだけ空いているテーブル席を見つけ、そこに座ってかつ丼を食べる。おおっ、うまい。夢中になって食べていると、一人の女性が俺に声を掛けてきた。
「すいません相席いいですか?」
「どうぞー」
声の方を向くと、サラサラで艶のある長い黒髪をポニーテールにした美少女がいた。
「あっ、やっぱり柳津君だね。久しぶりー」
「うぐ、ゲホゲホっ」
なんでこんなところに鳴海さんが!? 俺は思いっきり動揺し、咳き込んでしまった。あの日、告白して断られ、走って逃げ出した時のことが脳裏に蘇る。
「なに? 憧れの人にこんなところで再会してしまって、興奮してせき込んでるの?」
「う……まぁそんなところだ」
内心で慌てふためいている俺のことなど構わず、鳴海さんは俺の向かいに座った。
「こんなところに突然飛ばされるなんて、参っちゃうよねー」
「鳴海さんもここにいるということは、あの新型スマホを貰ってアプリを起動したの?」
「そうだよ」
「鳴海さんもモンスターと戦ってきたの?」
「ううん、私はここでプラプラしてたよ。モンスターと戦うとか怖くない? 柳津君は戦ってきたの?」
「一応、北のフィールドで何体か倒してきたよ」
「じゃあ、明日は私も一緒にいくね。モンスター倒さないとお金もらえないでしょ?」
「なん……だと?」
「だから、柳津君について行くから、モンスター倒すの手伝ってって言ってるの! 可愛い女子と一緒に行動できて、嬉しいでしょ?」
「はい。ものすごく嬉しいです」
おっと、つい本音が出てしまった。中学三年間この子に惚れていたんだからしょうがない。
「じゃあフレンド申請するね」
鳴海さんはそう言うと、スマホを操作し始めた。すると音声アシストが聞こえる。
「鳴海久奈からフレンド申請が届きました。受理しますか? Yes/No」
断る理由は無い! もちろんYesだ!
「鳴海久奈とフレンドになりました」
フレンドになったユーザー同士は、某メッセージアプリのようにチャットができるようになる。早速鳴海さんから「よろしくね!」とメッセージが届いた。
現実世界では、女子とチャットなんぞしたことなかったわ。この世界は天国か? 俺が何とも言えない高揚感に浸っていると、鳴海さんは俺の目の前で手を振る。
「柳津君? ボーっとしてどうかしたの?」
「や、何でもない」
その後は食事をとりながら、魔法とスキルのことや、フィールドでの戦闘のことなど、俺が体験したことを鳴海さんに話した。
「そういえば夜はどうするんだろう。泊まる所とかあるのかな?」
鳴海さんがもっともな疑問を口にしたので、俺はスマホの攻略アプリを起動し調べた。
「このスマホに入っている攻略アプリを見ると、宿屋があるみたいだね。色々なタイプやグレードがあるみたいだけど、俺は一番安いところに泊まることにするよ」
「ふーん、私もそこにする。場所とかも分かるの?」
「目的地に設定すると、音声アシストがナビしてくれるみたいだよ」
「なら柳津君についていくね」
俺はスマホを操作して宿屋を目的地に設定すると「目的地まで案内します」と音声アシストが聞こえる。
鳴海さんと二人でショッピングモールの外に出ると、外はすっかり暗くなっており街灯が夜道を照らしている。鳴海さんと二人でこんなふうに歩く日が来るなんて……生きていてよかった。
音声アシストのナビに従って歩くと、すぐに宿屋についてしまった。もう少し鳴海さんと二人で歩いていたかったが仕方ない。宿屋に入っていきフロントでチェックインをした。
別れ際、鳴海さんは可愛い笑顔で「柳津君おやすみー」と、ひらひらと手を振る。俺は高鳴る鼓動を感じながら、どうにか「おやすみ」と返した。
* * *
宿泊施設はゲーム的には宿屋だが、ほぼビジネスホテルだ。一番安い個室ではあるものの、風呂トイレ付。室内は清掃が行き届いた清潔な雰囲気である。
備え付けの冷蔵庫内はソフトドリンクのみで無料のようだ。
風呂に入ろうとして気が付く。あ、着替え持ってないや。どうしたもんか? と考えると音声アシストが聞こえた。
「備え付けの洗濯機を使用してください。魔導器なので一瞬で洗濯が完了します」
魔導器? 魔法の道具的なヤツかな。一瞬で洗濯が完了する? ……便利だな。着ている衣類を洗濯機に入れ、開始ボタンを押してから風呂に入った。
風呂から出ると洗濯は完了しており、一日外干ししたような感じに仕上がっていた。きれいにはなってるけど明日は服を買うか。しばらくこの世界で生活することになりそうだし。
冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、ベッドに腰掛ける。水を飲みながら、ぼんやりと天井を見上げる。
最近は鳴海さんのことを考えなくなっていたけど、振られた直後は割と本気でハートがブレイクしてたよなぁ。泣いたり、夕日に向かってバカヤローと叫んだりと、色々大変だったことを思い出した。
それにしても、久しぶりに会った鳴海さんは相変わらず可愛いかった。いや、以前より綺麗になったかも?
このまま上手く仲良くなって付き合うことになったりして。
そんな楽しい妄想を膨らませながら、眠りについたのだった。
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