4.楽しくショッピング?
翌朝、枕元のスマホがブーブブッと振動するのと同時に、音声アシストが聞こえる。
「ログインボーナス1000Crが届きました」
「鳴海久奈から新着メッセージが届きました」
目を開けると視界の右下に表示されている。いちいちスマホを見ることなく確認できるとは、何て便利なんだと感心する。
って、鳴海さんからメッセージが来てる!? 俺は慌てて起き上がると、視界に映るアイコンをタップした。
「おはよう! 起きてる? 朝ごはん一緒に食べよ。7時半にロビーで集合ね♡」
なんと、メッセージにハートマークが入っている! もしかして俺に惚れたのか!? いや待て、確か女子は意味なくメッセージにハートマークを入れるという……。俺のようなDTは勘違い行動をして爆死する。などとどこかで見たことがある。落ち着け俺。
現在時刻を確認する。7時3分。とりあえず「了解です」と返事する。
すぐに顔を洗いロビーに向かった。まだ鳴海さんは来ていないようなので、ロビーにあるフカフカなソファーに座ってボーっとして待つ。
「柳津君、おはよー! 待ったー?」
声のした方向を向くと鳴海さんが手を振っている。
「鳴海さん、おふぁよう。俺もいま来たとこ」
っく、少し噛んだ。DTは美少女を前にすると、無駄に緊張するのだ! 文句あるか!?
と、それはさておき、二人で朝食バイキングに向かう。現実世界と全く変わらない光景。多くの種類の食べ物が所狭しと並べられている。
ご飯、みそ汁、イカの塩辛、ウインナー、のりをとって適当に空いてる席に座る。別に好物なわけじゃないけど、朝食バイキングでは何故か塩辛を取ってきてしまうな。
そんな、どうでもいいことをぼんやり考えていると、俺の向かいにご飯、みそ汁、焼き魚、卵をとってきた鳴海さんが座る。
美少女と二人で朝食……。まるで鳴海さんと旅行してるみたいだな。人生でこんな経験をする日が来るなんて! ありがとう神様!! ひそかに幸せに浸っていると、鳴海さんが話しかけてきた。
「ねぇ、柳津君、今日はどうするの?」
「ああ、まずは訓練所に行って、鳴海さんもスキルと魔法を使えるようにしようか」
「スキルと魔法?」
「そう、それがあるとモンスターとの戦闘が有利になるよ」
「うーん、私に使えるかな……?」
鳴海さんは不安そうに首をかしげる。
「大丈夫だよ。念じるとあとは勝手に体が動いて技が出たり、一言呟くだけで魔法が撃てたりするから」
「ふーん、そうなんだ。やってみるか」
鳴海さんは頷く。たったこれだけのやり取りで俺の心臓は高鳴る。この子、可愛すぎるだろ。
* * *
朝食を食べ終わり訓練所に行く途中、ふと鳴海さんはガチャで何が出たんだろうと思い聞いてみた。
「そういえば鳴海さん、ガチャって回した?」
「うん、回したよ。なんか杖が出た」
鳴海さんがアイテムストレージから、銀色の金属製の杖を取り出だしたので、俺はそれに軽く触れた。「ミスリルロッド 魔法使用時に威力ボーナスが付く」名前と簡単な説明が視界に表示された。
「そうかー、じゃあ鳴海さんは攻撃魔法を覚えようか」
「うん、分かった」
訓練場に入り鳴海さんはATMのような端末を操作しながら呟く。
「魔法かー、どれにしようかな?」
「火とか雷とか氷とか、他にもいろいろあるよ。俺は火の魔法にしたよ」
「ふーん、じゃあ雷にしようかな……」
「じゃあ攻撃魔法→雷系魔法とタップして。魔法の形は……、放出型でいいか」
鳴海さんは「オッケー」と答えつつ、端末を操作していく。
「この消費MPってのはどうするの?」
「鳴海さんは、最大MPっていくつ? 視界の左上に見えてると思うんだけど」
「えーっと、25だよ」
「じゃ消費MPは4にしておこうか」
「りょーかーい。この発動方法ってなに?」
「特定の言葉を発したり、動作をすると魔法が発動する仕組みらしいよ」
「あまりに長かったりややこしいのは面倒だと思うから、シンプルなのがいいかと……」
すると鳴海さんは、視線を上に向け考える。
「どうしようかな……じゃ”雷撃”で」
そんなこんなで、鳴海さんは魔法”雷撃”を獲得した。スキルはいいか杖だし。
現在時刻は9時過ぎか、どうしようかな……。
「鳴海さん、フィールドに行く前にちょっと買い物していってもいい? 替えの服とか買っておきたいなと思うんだけど」
「いいよー。私も替えの服とか下着ほしいし」
っく。下着だと! DTの俺を挑発しているのか? 妄想してしまうじゃないか! などとは極力顔に出さないようにする。
「じゃあ、いったん別行動だね。ゲームシステム上のフレンドだからお互いの位置はアシスト機能で分かるし、メッセージも送れるから買い物が終わったら合流しよう」
「分かった、買い物終わったらメッセージ送るねー」
鳴海さんと別れて男物の衣料品売り場に向かい、適当にシャツ、ズボン、パンツ、靴下を適当に買ってアイテムストレージにしまった。残金が気になるところだが、モンスターを狩って稼ぐとしよう。
女子は買い物に時間がかかるというから、スマホに入っている攻略アプリで情報収集するか。
――そして時間は流れ11時過ぎ、鳴海さんからメッセージだ。
「柳津君、買い物終わった? どっち買おうか迷ってるんだけど、こっちに来て一緒に考えてくれない?」
マジか……もしかして下着か? 落ち着け俺。とりあえず返事する。
「俺は買い物終わってるよ。すぐに行くね」
フレンドの現在地検索を使用して、鳴海さんのもとへ急ぐ。残念……普通に服屋だ。まあそりゃそうだ。
鳴海さんを発見し近寄ると、すぐに俺に気がついたのか、こちらを見た。
「柳津君、これとこれ、どっちがいいと思う?」
鳴海さんはピンク色のタンクトップと、水色のタンクトップを手に持って俺に聞く。
あれ? この状況ってほぼデートじゃね? 何とも言えない感情がこみ上げてくる。
「水色のがいいんじゃないかな?」
「よし! ピンク色にしよう!」
鳴海さんはピンク色のタンクトップを手にレジに向かう。
えっと、水色って言ったんですけど……。そっちを買うならなぜ俺に聞いたのデスカ?
「私も買い物終わったよ」
俺の心の中の葛藤などお構いなしで、微笑みかけてくる鳴海さん。くそぅ可愛い。
女子の考えていることは良く分からないな、よし切り替えよう……。
「もう昼前か……フードコートでなんか食べてからフィールド行こうか?」
俺の提案に鳴海さんは「そうだね」と頷いたので、二人でフードコートの方へ移動した。
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