誰が俺を殺したのか

矢口ウルエ

第1話 誰かに殺されました

その日まで俺の人生は順風満帆で波に乗っていた。


俺は冒険者パーティーの一員として、日々モンスターとの戦いや迷宮攻略を繰り返していた。

俺たちのパーティーは注目度ナンバー1として、雑誌にも取り上げられるほどの勢いがあり、リーダーのビジュアルが良いことや珍しい女剣士や王様の娘がいることもあってか、人気は日に日に上がっていった。

それに人気だけでなく、実力でも冒険者ランキングでは上位に登り詰め、もう少しでランキング1位になるというところだ。


俺たちは5人パーティーで、リーダーのアルス、女剣士のモネ、ヒーラーで王の娘のホノカ、魔法使いのサイ、そしてタンクの俺ウィンターだ。

それぞれがしっかりと役割をこなすことで敵なしだった。正直、この国で俺らに勝てるパーティーなどいないだろうと思えるほどだ。

それほどまでに各々の力強く、それが合わされば最強と言っても過言ではなかった。


その日も冒険者ギルドで打ち合わせを行っていた。


「いよいよね!次の迷宮を攻略すればランキング1位も夢じゃないわ!」とモネは張り切っていた。

「そうだね。今の僕らなら確実に攻略できると信じている。ね、ウィンター」とアルスに声を掛けられる。

「そうだな」俺はそう答え頷いた。

次の迷宮はここしばらくクリアしたものがおらず、攻略ランクも上がっている。これをクリアすれば間違いなく1位に迫れる、いや1位になることも可能だ。

「サイ、次の迷宮の情報を皆に教えてくれ」とアルスが促す。

「うん、次の迷宮は皆も知っている通りまだ攻略者が出ていないんだ。しかも、そこから帰ってくるものは少なく、おそらく強敵がいるに違いない。で、その数少ない生還者に話を聞こうと思ったんだけど、どうも皆錯乱しているようでまともに話をしてくれないようなんだ。彼らは同じ言葉を繰り返し『ヨミガエリ』って繰り返すんだって。多分この特徴からして迷宮のボスは『ネクロマンサー』だと思うね。しかも、錯乱させるってことはかなり上級のモンスターだと思うよ。もしかしたらネクロマンサーのボスかも」

「で、サイ。君の見立てだと僕らが迷宮を攻略できる可能性はどのくらいだい?」

「うーんと・・・。生還者がいるってことは恐らくネクロマンサーのところまではそんなに難しくないと思うんだ。でなきゃ錯乱したものが帰ってこれるわけがない。だからあとはネクロマンサーが問題ってことになるけど、それに関しては問題ないよ。術は強力だけど、それは僕の対ネクロマンサー用の魔法で何とかなる。それをウィンターに施せば簡単に防げるよ。あとはいつも通り、ウィンターが注意を引き付けて皆で総攻撃。ネクロマンサーは物理攻撃にはすごく弱いんだ」

「て、ところだね。僕らなら確実に攻略できるから、ホノカ、そんなにおびえることはないよ」とアルスは微笑む。

ホノカはネクロマンサーと聞いて怖気づいたのかずっと俺の後ろに隠れながら話を聞いていた。


「さあ、そろそろ攻略に向かうとしよう!」


アルスはそう言うと勢いよく立ち上がった。


俺たちは後に続くように立ち上がり、ギルドを後にした。

その間もホノカは俺の後ろをくっついている。


「大丈夫だホノカ。今日も俺が守ってやる」


俺がそう言うと、ホノカは後ろでコクっと頷く。

このビビりのホノカがまさか王の娘だとは思えなかった。

王はホノカのビビりを克服してほしいという願いからこのパーティーにホノカを預けてきた。歳が近いことや、その当時から勢いや攻略に対しての安定感があったという理由でこのパーティーを選んだらしい。

正直俺はその理由はよくわからなかったが、タンクとして彼女を守らなければならないと決意した。彼女を守ることが増えていくうちに彼女は俺の背中に隠れることが多くなっていった。

ヒーラーとしての腕は確かだし、アルスも良いやつなので彼女を快く受け入れ、戦闘で役に立たないことがあってもホノカを責めることはなかった。


しばらく歩き、迷宮の前までたどり着いた。

迷宮の前には警備の者が立っていた。

犠牲者が多くランクが引き上げられた迷宮は、簡単に入ることは許されず許可を得たもの、つまり一定の強者のみが通れるようになっている。

警備の者はこちらに気づくと、

「あ、アルスさん!お疲れ様です!」

とこちらに挨拶をしてきた。


「お疲れ様!今から僕たちが迷宮を攻略するから君たちは帰って大丈夫だよ」

「しかし、アルスさんたちが入った後に何者かが入るかもしれません・・・」

「大丈夫、僕らの後ならそんなに危険はないはず。それに君たちも長いこと家に帰ってはいないだろう?早く帰って家族サービスしてあげるといいよ!」

と、アルスは警備の肩にポンと手を置く。

相変わらずお人よしの性格をしている。


「あ、ありがとうございます!」


彼らはそう言うと迷宮を後にした。


「さて、早速攻略してランキング1位になっちゃおうか」


そうアルスが言い迷宮に入っていく。

俺たちも後を追い迷宮に入る。中は相変わらず暗い。

入るとすぐにホノカが明かりをつけてくれた。

照らされた迷宮内を見てみても通路があるだけで何もない。

この辺は人やモンスターの気配もしないので安全だろう。

どうやらサイの言っていた通りのようだ。不気味なくらいに。


俺たちはそのまま奥に進んでいった。

途中、モンスターは何体が出てきたが俺たちの敵ではなかった。

むしろ、弱すぎるくらいだ。確かにこの程度なら錯乱した状態でも運よく出てこれても不思議ではない。

順調に進んだのち、目の前に巨大な扉が現れた。


「どうやらこの扉の先にネクロマンサーがいるようだね。みんな準備はいいかい?」アルスが皆に伝える。

ここまでの道中、攻略が簡単すぎ正直拍子抜けしていたが気を入れ直し盾を持つ手に力が入る。


アルスが扉に手をかけ力をこめると、「ギィーー」という音が迷宮内に響き渡り扉が開く。アルス、俺、その後ろにサイ、ホノカ、モネと続いて中に入る。

周りを見渡すと、周囲に骨が転がっているだけでネクロマンサーの姿は見当たらない。おそらく骨はこの迷宮に挑み帰ってこなかった者たちの亡骸だろう。

「おい、ネクロマンサー!いるんだろ、姿を見せろよ!」アルスが叫ぶと、扉が「バタンッ」と閉まり、どこからか冷気が流れ込む。


「来るぞ」


と俺がつぶやく。冷気が流れ込むのと一緒に部屋に入ってきていた白い霧がたちまちに部屋の中央に集まる。次第に人の形になっていき、目の前に黒いフードをかぶり、その中に頭蓋骨をのぞかせ、手には杖のようなものを持っているネクロマンサーが現れた。どこからかしがれた声が聞こえる。


「なんだ貴様らは。何をしに来た」


「お前を倒しに来た者だ!サイ呪文を!」

アルスがそう言うとサイが俺に呪文を掛ける。すぐに俺は動きネクロマンサーの注意を引く。

ネクロマンサーも動き、杖が光ったかと思うと部屋の周囲にあった骨が「カタカタ」と音を鳴らしながら人の形を成していく。途端に周りにワイトが俺たちを取り囲む。


「サイ、モネ!君たちはホノカを守りながらワイトを頼む!俺とウィンターで奴を相手する!」


俺を先頭にしアルスがそれに隠れるようにしてネクロマンサーの元へ突っ込む。

奴は何か呪文を唱え、こちらに放った。が、俺の防御力とサイの呪文を合わせた防御の前にそれは無に帰す。奴は連続で撃ってくるがこちらはびくともしない。

3m・・・2m・・・1m・・・と次第に奴との距離を詰め、アルスの攻撃射程圏内に入る。


「今だ!」


俺が伝えると即座にアルスは俺の上から飛び出し、ここに来るまでに力を溜め、光り輝く剣を奴めがけ振り下ろす。


「なぜ・・・。なぜ私に触れられる・・・」


アルスの能力は聖剣という、例え相手が気化していようと、透明化、無敵化していようと関係なく攻撃を当てることができる能力だ。この能力のおかげで俺たちは幾度となく迷宮やモンスターを攻略してきた。


「どうして私を攻撃するのか・・・。私が何をしたというのか・・・。私はただ・・・」


そう言い残すとネクロマンサー一瞬大きく光り輝き消えていった。

ネクロマンサーが消えると、周りのワイト達も次第に崩れ元の骸に戻っていく。


「勝ったな」


そう言い、剣を振り下ろし膝をついていた体勢のアルスの手を取り立ち上がらせる。


「余裕だったな」そう言いながらアルスは笑顔でらこちらを見る。


「二人とも早く出るわよ!塔が崩れそう!」モネが扉の前で手招きする。

俺とアルスはすぐに扉の方へ走り皆と合流しすぐに塔を出た。

俺たちが塔出ると同時に塔はものすごい音を立てながら崩れ落ちていく。

塔が完全に崩れ落ちるのを見届け、

「よっしゃ!これで私たちのランキング1位は間違いないわね!さあ、町に帰るわよ!」とモネは調子よく歩き出す。


今日はうまい酒が飲めそうだな。そんな気持ちを胸に町へ戻った。


予想通り今日の酒はいつも以上にうまかった。

町一番の酒場でアルスが「今日は僕らのおごりだ!」と言うや否や酒場は大騒ぎになった。モネは町の酒豪たちと誰が一番呑めるか競い合っていたし、アルスは女の子達に囲まれて身動きが取れないでいた。

俺はホノカと一緒の席で吞みながら周りのどんちゃん騒ぎを見ながら笑っていた。

ほどなくして、店の賑わいがピークに達するくらいの時、ホノカが俺の肩をたたいた。

「どうしたホノカ?」

しばらくこちらを見たまま黙っていたが、ようやく口を開き、

「後でお話があるんですが、寝る前にお部屋に行ってもいいですか?」

と言った。

「もちろん。何かあったか?」

そう聞き返したが、ホノカは答えてはくれなかった。


今思えば、ホノカの挙動は気になったがその時は俺自身酒が入り、気分が良くなっていたしいつもの感じだろうとそんなに気にはしていなかった。


店にも人が少なくなってきたので皆に「あんまり騒ぎすぎるなよ。特にモネ」と忠告交じりの挨拶をし店をでた。


今日の夜風は気持ちが良い。

ようやく目標にしていた冒険者ランキング1位に手が届く。

思えば、俺とアルスの出会いは3年前の今日だ。当時、タンクという役割もありソロで活動するのに限界を感じていた俺と、同じくタンクを探していたアルスと出会った。そこから二人で様々な場所に冒険し、迷宮に潜り、モンスターを倒し、仲間を増やしてきた。今日のように二人で敵に向かい盾と矛として最強を自負していた。

でもまさか、最初にアルスに出会った時の「冒険者ランキング1位」という目標を達成できるとは。当時俺以外は誰も相手にしていなかったというのに。


更に気分が良くなった俺は寝る前に一度今日という日を忘れないようにもう崩れた迷宮をもう一度見に行こうと思い、森へと足を進めた。


皆と出会ったころを思いながら歩いていると、不意に背中が熱くなるのを感じた。

そこまで思い出に熱くなってしまったか。

いや、違う。ふいに後ろに人の気を感じた。


「誰だ!」


振りむこうとしたが、そのまま地面に倒される。

動こうとしたが、背中を刺されそのまま腹部を貫通しそれが地面に刺さっているためかまったく動けない。くそっ。油断していた。

何とか刺さったものを抜こうとしたが、うまく力が入らないしどうやら剣のようなものらしく、どうやっても抜けない。次第に手が冷えていくのを感じた。

必死に脱出する方法を考えた。が、もう残された力はほとんどなく剣を触るだけで精一杯だった。ここで終わりか・・・。

薄れゆく意識の中、先ほどまで思い出していた仲間との冒険の数々が再びよみがえってくる。先ほどのホノカとの約束も・・・。

「すまない・・・。みんな・・・。ホノカ・・・」


「・・・ようやく邪魔者は消えたね」


これが俺が最後に聞いた言葉だった。聞いたことのある声のような気がしていたが、これから死にゆく俺にそれを理解するほどの力は残っていなかった。





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