第2話 復活しました

「・・・ザメロ ・・・メザメロ」


どこからか声が聞こえる。

俺は今何をしているんだ・・・。

そうか。誰かに後ろから襲われて死んだのか。

国最高レベルのタンクだと思っていた俺がまさか奇襲で命を落とすことになろうとは、まったく思ってもいなかった。


「俺もまだまだだな」


そんなことを考えていたが気になったことがあった。

ここはどこで、なぜまだ自我が残っているのか。

「死」とは無となり自我すらも存在する事のない世界だと思っていた。

だが、なぜか自我は残っている。

そうか、自分が考えていた「死」の世界とは単なる思い込みで、実際はこのようにただ何も感じない、五感が何もない状況で意識だけがただ彷徨っているのか。

この後この意識がどうなるのかわからないが、他に考えることもないのでもう一度殺された夜の事を思い出していた。 

                            ・・・メザメロ・・・

あの夜誰に殺されたのか。なぜ殺されたのか。

手掛かりは、殺された時に使われた剣が俺を貫いた後に地面に刺さったことから、短剣などの短いものではなく、冒険者が使うようなロングソードのようなものだろう。死ぬ間際触った感覚でそれは間違いなかった。

もう一つの手がかりは最後に聞いたあの言葉。


「邪魔者はいなくなった」


意味は恐らくそのままだろう。誰かにとって俺が邪魔な存在となりえたのだ。

では、誰が俺を邪魔だと思っていたのか。

パーティーのメンバーか?

それとも別のパーティーがうちのパーティーの弱体化を狙ったとか?

それなら他のメンバーは無事なのだろうか?

アルス、ホノカ、モネ、サイ・・・皆はどうなったのだろう。

パーティーメンバーの事を考えているとある大事なことを思い出した。


「しまった。ホノカと約束をしているんだった。ホノカは無事なのか?」


死んでしまっては彼女との約束を守ることはできない。

あの夜彼女は何を言おうとしていたのだろうか。


・・・メザメロ・・・


それにしてもさっきから聞こえてくるこの声。

いったい何の声なのか。

死んだ者は皆この声が聞こえているのか?

メザメロ・・・めざめろ・・・目覚めろ?

俺はまだ死んでいないのか?

だとしたら、俺を殺した人間を突き止められるかもしれない。そしてホノカがあの夜何を言おうとしていたのか聞くことができるかもしれない。

だとしてもどうやって復活するんだ?強く念じるとか?


・・・メザメロ・・・メザメロ・・・


そういえばこの声特定の方向から聞こえてきている気がする。

身体はない。だから意識を声の方向に向かうようイメージしてみる。

すると突然、目の前が少し明るくなった気がした。


「これに賭けてみるしかないか・・・」


先ほどよりもより強い意識を声の方に向けてみる。

やはり先ほどのように明るくなる。


「もっとだ・・・もっと強く念じるんだ・・・。俺は行きたい。そして生きたい。俺を殺した奴を見つけてなぜ俺を殺したのかはっきりさせるんだ。そしてあの夜ホノカが何を言おうとしていたのか。すべてを解明したい!」


次の瞬間、今までとは比べ物にならないくらいの光を感じた。

同時にその光に吸い込まれていく感覚が生まれた。

これで生き返り、元の世界に戻れるかどうかは謎だった。

だが、なぜか戻れるという自信が、確信があった。

待っていてくれホノカ・・・。



次に気づいた時には視界は真っ暗になっていた。


「失敗か?」


頭の中でそんな言葉がよぎる。

だが、どうやら違うらしい。先ほどの意識だけの感覚と違い、体の感覚がわずかにある。最初に感じたのは、足の感覚。次に手。と次第に体への感覚が戻っているのがわかる。次に先ほどまでの「メザメロ」という言葉ではなく別の音が聞こえる。間違いない。死ぬ前までに聞いていた音、動物の鳴き声や川の音が聞こえてくる。次に匂い。どことなく木の匂いや、どこかカビくさい匂いがする。最後に視覚。手足の感覚が戻った頃は暗闇しか見えていなかったが、明るくなるのと暗くなるのを交互に感じた時視覚が戻ってきていることに気がついた。


目が覚めたのは視覚を感じてから3日後の朝だった。

いや、正確にあっているかどうかはわからないが、光と暗闇を交互に2回感じた後の光でようやく体を動かすことができたため3日後という意味だ。


目を開けてみる。一気に視界に入り込む光が増えたためすぐに目を閉じてしまった。少しずつ慣らしてようやく長い時間目を開け周りを見渡すことができた。


どこだここは・・・?


全く見たことのない部屋に寝そべっていることが分かった。

どこかの小屋のようだ。殺された後誰かがここに運んでくれたのか?

無意識のうちに手が刺された箇所を触っている。

おかしい。傷がふさがっている。なぜだ?すぐに傷を目視したところ完全に塞がっていることが分かった。傷跡がなければ刺されたことがわからないくらいだ。どうなっているのか全く分からなかった。


そもそもなぜ復活できたのだろうか?

あの夜俺は間違いなく刺された。そして間違いなく命を落としている。

ではなぜ傷もなく生き返ることができたのだろうか?


いくら考えてもわからず謎が増えるだけだった。

復活した理由を考えていた時、バタンッと大きな音が聞こえた。

そして何かを地面に落とす音が聞こえた。

音の方を見ると娘が驚いた顔で立っていた。


「誰だっ!!」


と叫んだつもりだったが久しぶりに声を出したからかうまく声が出ない。

口をパクパクさせている俺の姿を見てそれを娘が察したのか、


「目覚めたんですね。10年も眠っていたのでうまく声が出ないはずですよ」


10年だと・・・。

俺はその娘の言葉を信じることができなかった。

10年間も眠っていたというのか・・・?

あの意識だけの空間で10年も経っていたというのか?


どうやら俺は殺された時から10年後に目が覚めたらしい。

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