第21話【ドライブ後、カフェとイチゴにメンテナンス】

「お、おおぉ! 噴水だー! NPCも何か凄い!」



 ベリーは車の窓を開け、身を乗り出し、第二階層の景色を眺めていた。



「ベリー、危ないから」


「あ、ごめんごめん……あっ、鳥が飛んでる!」


「言ったそばから……あっ、あのパイ美味しそう!」


「ホント〜!? じゃあそこで休憩にしよう!」


「……あれ? いつの間に僕が運転を?」



 ベルが運転していたはずの車は、いつの間にかバウムが運転していた。

 しかしバウムがそんなことを思い返す間もなく、ベルが見つけたパイが美味しそうな店で休憩することにした。



「いらっしゃいませ! お好きな席へどうぞー!」



 店に入ると店員が出迎える。



「アップルパイと〜、ココアと〜、パフェください!」


「ベリーそんなに食べられるの? あ、私はカスタードパイとコーヒーください!」


「じゃあ……僕はショートケーキとコーヒーを」



 三人は席に着くとそれぞれ注文する。



「んっ、うぅ〜〜ん! っはぁ……にしても、機械の街かぁ」



 ベルは体をグッと伸ばすと、窓から街を眺める。

 街のNPCのほとんどは片腕や片足が機械による義手義足で作られている。

 さっきの店員さんも右腕が機械化していた。



「お待たせいたしました。それではどうぞごゆっくり」



 注文したものが運ばれてくるやいなや、ベリーとベルの二人はパイにかぶりつく。



「んん〜♪ リンゴすっごい、とろとろだぁ〜!」


「こっちのカスタードも美味しいよ〜!」



 二人がそう言って食べる姿を横で静かに見守るバウムもコーヒーをすする。



「ほいベリー、あ〜ん」


「あ〜〜ん! んーおいひい! はいベルも!」


「あ〜んっ! ん〜、こっちもなかなか美味しいですなぁ〜♪」


「はい! バウムくんも! あ〜ん!」


「え、えぇ!?」



 ベリーはバウムに自分のパイを差し出す。急なことにバウムは驚いてしまった。



「あっ、バウムくんリンゴ嫌いだった?」


「い、いや……いただきます……!」



 バウムは差し出されたパイを少しかじり、それをしっかりと味わう。

 そのパイは確かに美味しかったが、バウムの脳内はそれどころではなかった。



「ふっふっふっ……食べたねバウムくん! あげたんだから私にも! あ〜んして!」



 そう言ったベリーは口を開ける。



「ッ……は、はい……」


「ん〜! 美味しい!」



 こうして三人はこの店が気に入ったようで、またフィール達と一緒に来ようと約束した。



「おや? イチゴは最後に取っておく派なんだね」



 ベルがバウムのショートケーキが乗っていた皿を見て言う。

 イチゴがひとつだけ残っていた。



「へぇ〜! 私はすぐに食べちゃうなー、なんで取っておくの?」


「え、えぇと……好きなものは大事に食べたい……から?」



 バウムはそう言うと最後に残ったイチゴを食べる。



「……へぇ……そーえば、バウムの好きな食べ物って……?」



 ベルはコーヒーを飲んでそうバウムに聞く。



「えっと……このショートケーキも好きだし、パフェも好きだよ。あっ、ストロベリーアイスも美味しいよね! ……って、あはは、なんか甘いものばっかりだね……」



「わー! 全部私だー! 何か嬉しいな〜!」


「――っ!? あ、いや! その……!」


「バウムくんはイチゴ好きなんだね!」


「えあ……う、うん……イチゴは……昔から、す……好き……です……」


「私も好きだよ! 甘酸っぱくて美味しいよね!」


「う、うん……そうだね! お、美味しいよねー!」



 その光景を見ていたベルは、くいっとカップを傾けてコーヒーを飲み干す。



「ふぅむ、見てるこっちが恥ずかしい……コーヒーが甘く感じる。ごちそうさま……」



 そして、三人が店を出ると同時にメッセージが届く。

 三人とも同じ内容だった。



「運営から……?」


「えーっと……『これより緊急メンテナンスを開始します。プレイヤーの皆様は10分後に自動的にログアウトしますのでご注意ください』だって! どうしたんだろうね?」


「多分階層ボスの調整じゃないかな? 凄く強かったし」


「そうだろうね〜、運営は半泣きだろうなぁ。んじゃあ今日はここまでだね。また明日ね、ベリー、バウム!」


「うん! またねベル!」


「ベリーとベルさん、また明日」



 三人はログアウトし、第二階層の機械の街には再び静寂が訪れた。



* * *



 一方その頃、運営では……。



「うわー、車衝突してるよ」


「ホントだ。おっ? おい見ろよ八神さん! あんたが作ったカフェをベリーちゃんたち気に入ったみたいだぜ!」



 そう言って同僚の一人がベリーたちがパイを食べる場面をモニターに映す。



「……ふっ、当然! ベリーちゃんの好物はすでにデータから把握済み! この私にかかればこんなの楽勝ですっ!」



 と、そのベリーたちが立ち寄った店の考案者である八神やがみゆうという名の白衣っぽいものを着た少しボサボサ髪の女性が仁王立ちで堂々と宣言する。

 すると、ある男性社員が八神の前に立ち――。



「ほう? 楽勝なのか?」


「はい! そりゃあもう!」


「んじゃ今回のメンテ、一人で大丈夫だな」


「……すみません調子に乗りました」


「うむ、よろしい。ではさっさと作業に取り掛かれください」


「い、いぇっさー」



 というようなやりとりをよく見る同僚たちは「またか」と呟いていた。



「また八神さんと三嶋さんか……」


「見てて飽きないなぁ」


「俺も〜」



 そう言いながらのほほんとくつろいでいたが、三嶋に睨まれて休む暇もなくパソコンと睨み合うことになるのは、すぐ先の話だ。

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