友去りし後
おとや
第1話 「黒衣」現る
この世界に「黒衣」と呼ばれる者達がいる。
その呼び名は彼らの全身から
「黒衣」は世界全土の魔力の流れを常に監視し、強大な力を探知するとそこに出現するといわれている。彼らの目的は謎に満ちている。一説によると強い敵と渡り合うことで自らに試練を与え、それを乗り越えることでより強大な魔力の体得を指向する戦闘者の集団だという。究極の完徳者への到達を目指し、厳しい鍛錬と戦闘に明け暮れた古代修道士の流れを汲むともいわれ、構成員は数十人から多くて100人程度の少数集団とされる。
彼らは創設以来何者からの支配も、干渉もすべてはねのけてきた。ヴァンパイアが統治する強大なルネクサス帝国の法すら一切無視し、弾圧や迫害を加えてくる勢力には逆襲して国ごと攻め滅ぼすことさえあった。そのため帝国を始めとする諸国からは反体制的戦闘集団と見なされ、その首に高い懸賞金が掛けられたことさえある。
しかしその驚異的な戦闘力は歴代各国を恐怖させた。そのため実際に彼らとまともに戦おうとする国は無く、その活動は事実上黙認されてきたのだ。ただ一つ、誇り高きヴァンパイアの帝国ルネクサスのみが魔剣士達を放って”黒衣狩り”を宣言し、彼らと激しい闘争を繰り広げてきた。しかしその帝国でさえ皇帝不在の公国制となってからは、「黒衣」に対して比較的寛容的な態度で臨むようになったのだ。「黒衣」は自分たちの前に障害として立ち塞がる何者も容赦しない。たとえ相手が【魔神の剣】を継承した帝国の最高戦力「帝国公爵」や「
そのため突然やって来た二人の「黒衣」を、ルネクサス帝国アスガルド公爵臣下のカルレア伯爵は客人として迎え入れねばならなかった。だがその姿を初めて見た伯爵はまず驚く。ここは大陸の北端に位置する極寒の地で、分厚い防寒具無しでは瞬時に人を凍死させかねないほどの過酷な気候である。だが「黒衣」の二人は、ただ一着の黒いスーツ姿のままで現れたのだ。「黒炎」の体得者である彼らは、体内を巡る魔力であらゆる災難を無効化するといわれている。そんな噂を伯爵も耳にしていたが、実際にこの目で見るまではにわかに信じられなかったのだ。
二人の「黒衣」はヴァンパイアの刀士カミュとミノタウロスの戦士ガンダルフと名乗った。領内のキルシュ村付近で異常な魔力を探知したため、その探索のためここまで来たという。確かに約10日前、厳寒の吹雪が舞う真夜中にキルシュに居住する村人がひとり残らず消失するという奇怪な事件が起こっていた。さらにそれを調査するために派遣された兵士も次々と失踪を繰り返している。そのため事態は周辺一帯を統治するこのカルレア伯爵の耳にまで届いていたのだ。そこで伯爵は臣下のヴァンパイア族の魔導師ルーファスを隊長に50名の調査部隊を派遣することにした。「黒衣」が現れたのはまさにこの調査隊が出発する間際だったのだ。そして隊への同行を申し出てきた。特に断る理由もない伯爵はそれを了承した。
しかし調査隊は村へ至る山道で突然の猛吹雪と大量のアンデッド軍団の襲撃を受ける。途中まで晴れていたはずの空に暗雲がたれこめてにわかに天候が急変し、それと時を同じくして恐るべき数の死人の群れが襲いかかってきたのだ。しかもそれは信じられないほどの大群で、ざっと1000体は超えていただろう。強靭なヴァンパイアの魔導師が率いるとはいえ、この大群の前に50人たらずの調査隊はほとんど無抵抗のまま、1時間も経たないうちに完全に死者の群れに飲み込まれてしまった。
こうして山道はあっという間に死の軍団で埋め尽くされ、一帯からは生命の気配が完全に絶たれたように思われた。しかしそんな状況下で、未だ微かな命の灯火をつなぎとめる者達がいたのだ。調査隊に同行した「黒衣」の二人である。もはや生き残りがいない絶体絶命の状況下だが、彼らはひたすら目の前に襲い来る死人の群れを駆逐し続けていた。2対1000というどうにもならない戦力差であっても、彼らは恐るべき戦闘技術とスピードで淡々と敵の処理に専念していたのだ。
だが驚くことに、最後の悪あがきにしか見えないこのささやかな抵抗が、少しづつ死人どもの侵攻を
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