第108話 グライムに教えられる 28
三階奥へと進む五人。
遊川と違い、沼田が担当していたシノギのため平家は倉庫の詳細まで把握してなかった。
それゆえまだ表記なども無い建設中の倉庫内で上への階段を探すのは多少難があるかと思われたが、倉庫内作業の経験者である文哉と伊知郎が何となく構造を理解していたので、迷うことは無かった。
ただ立っていることもやっとの勝と文哉は、邦子と平家にがっしりと肩を支えられていたので、長く続く七階までの階段も止まることなく登ることが出来た。
七階のドアを平家が開き、フロアへと足を踏み入れる。
自動照明は遊川が立ち入った時より点灯したままで、フロア全体に照明がついていて、真ん中に集まる人影を照らしていた。
遠めに見えるその様子に、平家は目を細めて睨む。
ど真ん中に鎮座する野上の姿と、横たわる遊川の姿。
逸る気持ちを抑え、平家は文哉を支えたまま真ん中で待ち構える野上のもとに歩を進めていく。
邦子も勝を支えたまま先行する平家について歩く。
「オイオイ、遅せぇよ、何やってんだよ。
近づく五人の足音に、野上が笑いながら煽る。
「愛依っ!」
前を行く平家達四人のあとをついて来ていた伊知郎の視界に、チンピラに捕らえられたままの愛依の姿が映る。
「お父さんっ!!」
それまで恐怖に押し黙っていた愛依が、伊知郎の姿を見るや叫ぶように呼びかける。
乗せられたパトカーの中で見た父の姿は、見間違いではなく本物だったのだと涙ぐむ程嬉しかった。
「ハハッ、オイオイ、余計なモノ連れてきてんなと思ったら、こんな感動的な再会やるためかよ。
にくい演出するなぁ、あー、えーっと、お前ら名前なんだっけ?」
野上は笑いながら、八重と愛衣の後ろにいるチンピラ二人に指し棒の様に銃口を向ける。
目の前で銃で撃たれ倒れている人間がいる中で、その指し棒に緊張が走る。
恐る恐る問われた名前を答えようと、作業服を着ているチンピラが答えようとするが、それを野上は銃を持つ手を横に振り制止する。
「いい、いい。今は自己紹介してるタイミングじゃねぇんだ。ほら、お客さんが睨んでやがるぞ。油断すんなよ、お前ら。隙ありゃいきなりその
バーン、と大袈裟に大きな口で言う野上は視線を愛依へと向けていた。
後ろにいるチンピラ二人に対しての脅しだけではなく、頭を撃つというのは八重と愛依に対しても告げているのだ。
大人しくしておけ、と暗にそう釘を刺してきている。
「
横腹を手で押さえ横たわる遊川を見て、安否を確かめる平家。
遊川は何も答えず野上を睨みつけたままだった。
「やめてやってくれよ、平家さんよぉ。
ヘラヘラとした態度で茶化す野上を、睨みつける平家。
「おーおー、怖い怖い。だけど、平家さんよぉ、
野上は手に持つ銃をもう片方の手で指差し、これね、と付け加える。
「うるせぇ、テメェから聞く
大義もなく理想もなく理由もなく、ただ世間のはぐれ者として、好き勝手に生きる道として極道の世界に踏み込んだ野上に対して、平家は昔から良い印象を抱いてなかった。
ヤンキー、チーマー、チンピラ、そんな呼称で呼ばれる奴らと何の区別もつかないバイト感覚のヤクザ。
そんなものを若いヤツだからと区切って認めてやるつもりも無かった。
極道の世界の先輩として後輩に対して何か教えてやれることは無かったのか、なんて後悔は微塵も抱いていなかった。
昔抱いた印象は、今も間違ってなかったと胸を張って言えるだろう。
「オイオイ、せっかくこんなとこまではるばる来たんだしさぁ、もっとお喋りしようぜぇ。オレが迎えたいゲストはまだ時間がかかるみたいだしさ、アンタら喋り相手になってくれよ。
野上はそういうと先程と同じく銃口を指し棒の様に、平家に向ける。
平家は肩を貸していた文哉に銃弾が当たらないようにと、肩から降ろしそっと身体を離した。
「撃たれるのは覚悟の上、
「撃つなら撃てよ。ただ、テメェはそれで終わりだ、野上」
自分が撃たれたとしても、その隙にチンピラ二人に野上を合わせて制圧出来るだろう三人がいる。
平家は視線を動かし、横に並ぶ勝、邦子、文哉に目配せした。
これ以上誰かが傷つくのはうんざりだと邦子は首を横に振り、文哉もそれに同意して同じく首を横に振った。
「……お前らなぁ」
まさかの拒否に平家が呆れて文句を呟くと、ただ一人、勝だけは首を縦に振っていた。
しかし、それは平家を犠牲にした作戦に同意したのではない。
「そうだ、アンタが撃つなら、まず俺からだろ?」
「ハハッ、そりゃそうだ。赤いジャケットのテメェがオレの計画を一番邪魔してくれてたみたいだからな」
取引場として利用していた閉店したスナックへの殴り込み、八重を連れての逃亡、用心棒役に雇ったティホンとニアンを倒したこと。
いや、それ以前から勝が行ってきた売人狩りが、兵隊として集める予定だった外から来るチンピラの数を減らす要因となっていた。
挙げれば何かと野上の仕組んだ計画の邪魔となったのが、勝だ。
鉛玉をぶち込みたい相手と言われれば、間違いない相手だった。
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