第63話 良薬は口にフュージョン 6
金属バットが空を薙ぎ、剣崎の怒号と叩かれたチンピラ達の悲鳴が日中の昼間に響く。
真盛橋羽音町六丁目、冠泰平プロレス前。
普段なら昼間と言えど人通りのある場所だが、
気配は無いが、しかしながらその異常事態を察したのか誰かの通報はあったようだ。
剣崎の怒号もチンピラの悲鳴も一瞬で止める遠くから聞こえるサイレン。
「
馬宮がチンピラを一人担ぎ上げ背後へとぶん投げながらそう呟く。
「
綺麗に顎を突き上げるアッパーを繰り出しチンピラの一人を吹っ飛ばしながら、平家は馬宮に視線で合図を送る。
無数に居た気もしたチンピラ達も平家と馬宮、それに華澄の加勢により最早立っているのは数人程度だ。
付け加えて補足すると剣崎が無差別に暴れだして、逃げ出したチンピラの数もなかなか多い。
場を離れるには良いタイミングと言える。
「華澄ちゃんよぉ、お前も離れた方がいいぞ。警察にお世話になると結構面倒だぞ」
平家と馬宮からは離れた位置で剣崎と対峙している華澄。
周りのチンピラに対して金属バットを振り回す剣崎の行動から目を離せずにはいられないようだ。
「私がここを離れたら邦子さんと八重センパイはどうすんですか、離れられませんよ!」
平家の方へ顔を向けることなく華澄は返事を返す。
「あのレスラーのネェチャンならこの様だ、被害者として保護してもらえるだろうし、お嬢についても今は警察に匿ってもらうのが良いだろうよ。警察への説明は村山のネェチャンにしてもらうとしようぜ。華澄ちゃんはオレらと同じく手を出したし、正当防衛の線で行くには過剰に圧勝しちまってるからなぁ。取り調べ覚悟の面倒くさい話になるぞ」
説明すれば羽音町の事情から警察も理解はしてくれるだろうが、面子もあるので野放しというわけにもいかないだろう。
誰も彼もの事情優先で暴力を良しとするならば警察という取り締まり役は要らないわけで、そういった立場であることを敵対勢力である平家にだって理解は出来た。
「平家さんの言ってることはわかりますが、この男を放って置いてここから離れる訳にはいきませんよ。羽姫のファンだって言うなら、羽姫の為だと言うなら、この暴走ぶりを止める責任は私にもあります!」
華澄の威勢に、五人目のチームメンバーを金属バットで無惨にぶん殴った剣崎が動きを止める。
「暴走? オイオイ、華澄ちゃん、それは無ぇって。さっきから説明してるじゃん、オレがどれだけ羽姫の為を思ってるかをさ!!」
血で汚れ少しへこんだ金属バットがアスファルトを叩く。
ギィンッ、と耳をつんざく音。
僅かな火花が弾ける。
剣崎の周りにいた羽姫を知らないとされたチンピラ達は、軒並み殴り倒され地面に横たわっていた。
次の狙いは、目の前に立ちはだかる華澄。
「華澄ちゃん、安心してほしい。カメラはちゃんと回してある。女王の活躍も動画としてちゃんと撮ったしさ、華澄ちゃんのここからの活躍も撮らしてもらう」
「アンタをボコボコにする様を撮るってこと?」
「いや、違う。残念だけど、違う。オレはこれからも羽姫の為に動画を撮ったりする必要があるからここでボコボコにされるわけにはいかないじゃないか? だから、残念だけど、ここで倒されるのは華澄ちゃんの方になってしまう。だけど、だけど安心して欲しい。華澄ちゃんの勇姿は映えるように編集することを誓う。オレに、まぁ殴られ蹴られ、時には金属バットで頭をかち割られることになるとは思うんだけど、そういうのが悲劇的に見えないようにはするからさ、安心して欲しい」
もう一度、剣崎はアスファルトを金属バットで叩いた。
脅し、なのではない。
ギィンッという音が示すのは、ブレーキだ。
昂る感情を自制して説明に徹しているのだというアピール。
オレは今にもキミを殺せるんだぜ、殺したくてたまらないんだぜ、という狂気の訴え。
華澄は息を飲み、無言で構える。
平家は息を吐いて、馬宮に視線を送った。
馬宮は鼻で笑い、頷き応える。
サイレンはまだ小さく、遠い距離から聞こえてくる。
「わかった、そのドアホをぶっ倒すのが先だ。
「あのレスラーのネェチャンには体張ってお嬢を守ってくれたってデカイ借りがあんだ。一発返しておくのも悪くねぇ」
平家と馬宮、チンピラ達が横たわる道路を進み出す。
「多勢に無勢なんて、今更なことは言わねぇよなニィチャン」
平家に指を差され剣崎は睨みつける。
「羽姫の為の動画にオッサンなんて要らねぇんだよ!!」
「その動画、後でちゃんと消させてもらうからヨロシク」
そう言うと、猪突猛進、馬宮はお決まりのタックルを仕掛けに走り出した。
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