第60話 良薬は口にフュージョン 3
一人目。
世界的に有名なネズミのトレーナーを着た小柄な男が大声を張り上げながらジムへと乗り込み前蹴りを繰り出してきたので、邦子はそれを真っ正面から両手で受け止めて足首を捻ったあと脇に抱えて投げ飛ばした。
二人目。
猛牛のように低い姿勢でタックルしてくる大柄な男を、邦子はしっかりと受け止めて組み合った。
タックルの勢いを完全に殺し男の戦意が消失するほど押し返した後、一人目の男の上に投げ飛ばした。
三人目。
虎柄の薄手のジャケットを着た女が、一人目か二人目かの男の名前を呼びながら鎖を振り回していた。
どこからそんなもの持ってきたんだ、と邦子は暫く鎖を振り回す様子を眺めていたが、女も別に鎖を武器として扱うことに得意であるわけではないらしくただ手を上げてブンブン振り回しているだけだったので、少し疲れだしたところで近づいてビンタで張り倒した。
女の顔は命、とも言えるけども正気に戻ってほしかった。
四人目。
兎のような出っ歯が目立つ男が飛び上がり不格好なドロップキックを放つ。
目測を誤った跳躍は避けるまでもなく邦子に届かなかった。
着地を考えないスタイルだったので、床にドンッと音を立て落下。
痛ぇっ、と脇腹を強く打ったらしい男の顔面を邦子は思いっきり蹴った。
五人目。
七つの球が描かれたTシャツを着た金髪の男がまた何処から持ってきたのかわからない身長ほどある長い木の棒を振り回していたので、邦子はラリアットで跳ね飛ばした。
六人目。
蛇のように長い舌をチロチロと出したり引っ込めたりする男を、生理的に受け付けないと邦子は前蹴り一発。
七人目。
馬面の女が片手にライター、片手に液体の瓶を持ってニヤついて立っていた。
何だか嫌な予感がして邦子が一歩下がり顔の前に腕を構えると、女はライターに火をつけて瓶の液体を口に含み火に向かって吹きかけた。
大道芸でありそうな人間火炎放射器。
直接火は当たらなくとも熱が構えた腕を焼く。
熱っ、と声を漏らして邦子は後ずさる。
踵に当たる先程蹴り倒した蛇舌男。
邦子は咄嗟に男を掴み足を踏ん張り力を込めると、掴んだ男を馬面の女に投げ捨てた。
背中から炎に突っ込んでいく蛇舌の男を見て、邦子は少しだけ申し訳ない気持ちになった。
八人目。
背中が燃える蛇舌の男とその火が燃え移り服が燃える馬面の女を助けるために、自分の服はウール何%だから大丈夫だ!、と謎の主張をして服を脱ぎ扇ぐ男を邦子は蹴り飛ばした。
蹴り飛ばした男が腰にぶら下げていた水のペットボトルが落ちたので、それを拾い上げて蛇舌と馬面にかけてやる。
ありがとう、天然水。
九人目。
遊びはここまでだぜ、と勢いよく小柄な金髪の男が飛び出してくる。
手に持つナイフが太陽光を反射してキラリと輝く。
長い手を地につけるほどだらっと下げた前傾姿勢、猿が威嚇するかのように空を薙ぐ銀閃。
ボクシングで例えるなら相手を動かすための牽制のジャブ。
素早い突きだしと引きで相手の動きを誘いカウンターを狙う、トラップ型の後の先。
しかしそれはあくまで自分より動きの遅い相手に対して成り立つものであり、ジャブを捕まえられたら話は別だった。
邦子は空を薙ぐ銀閃の軌道を読んで、手先ではなく上腕を掌打で叩いた。
金髪の男は衝撃に耐えれずナイフを手離す。
邦子はすかさず男の金髪に手を伸ばすと掴み引っ張る。
前倒れに崩れる姿勢、邦子は流れるように男の背中を上から覆うように抱き抱えると持ち上げた。
逆さに持ち上げた相手を頭部から投げ落とす、パワーボム。
とはいえ、下はクッションの無い堅い床なので邦子は配慮してずらすように持ちかえると、頭部ではなく肩を床に叩きつけた。
十人目。
フライドチキン屋の前に立つ老人のような全身白のスーツに身を包んだ男が大技を決めた邦子の背後で金属バットを振り上げていた。
十一人目。
チャンスだ、と犬の遠吠えのように声を張り上げ号令を出す男が一人。
邦子の猛威に腰が引けてた周りのチンピラを奮い起たせる。
十二人目。
奮い起つチンピラの中の一人が低空タックルを仕掛ける。
猪突猛進、タックルで掴み身動きを封じることで頭を白スーツが金属バットで叩く算段。
邦子は疑似パワーボムを決めた金髪の男の足を両脇に抱え、横に振りかぶり回り始めた。
ジャイアントスイング。
渾身の力で振り回すその駒は、近づくものを巻き込み薙ぎ倒していく。
気絶しだらんと下げられていた男の腕が遠心力でピンと伸びきり、強烈なラリアットとして周りのチンピラにぶつかっていった。
十三、十四、十五・・・・・・。
複数のチンピラを薙ぎ倒した後、お役目御免と邦子は抱えていた金髪の男を集団の方に投げ捨てた。
お世辞にも広くはないジムの中に倒れるチンピラの山が築かれていく。
仕方がないことではあるがすっかり散らかしてしまって、あとで会長に怒られないかと邦子は苦笑いを浮かべていた。
まだジムの外を囲うようにチンピラ達は無数に迫ってきていた。
これ以上は外でやるべきかもな、と邦子は決心しジムの入り口へと歩を進める。
多勢に無勢、狭い場所の方がやりあうには良い気がしたがこれ以上はジムを荒らされたくはなかった。
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