気分屋

カラ缶

第1話

気分屋


ある日、ふと商店街をぶらぶら歩いていると、「あら〜森島さんの奥さん」「こんにちは、西田さんの奥様」「そういえば、商店街の脇に気分屋っていう小汚い店があるのご存知?」

そんな話を小耳に挟んだ。

気になって試しに見に行ってみると、噂通りの小汚い店だ。しかし、傍から見たら完全に駄菓子屋である。また、店の外にこんな貼り紙があった。

「私は気分屋なので不定期で休みます。ご容赦ください」

全く、店の名前も店長も「気分屋」とは。でも今日は開いているみたいだ。入ってみると、感じの良いお爺さんが「いらっしゃい」と言ってくれた。店の中には、いくつかの大きなボトルの中にチョコボールのような物が沢山入っている。

「あの、ここってチョコ専門の駄菓子屋ですか?」「いいえ、ここは気分屋ですよ」

「気分屋? ちょっとよく分からないのですが」「はい、ここでは気分、つまり気持ち、感情などをお買い求め頂けます。冠婚葬祭やその他感情を大袈裟に出したい時にこれを食べれば、適している時にその感情を出す事が出来ます。一つあたり効果は1時間です」

ちょっと長くてよく分からなかったが、演劇サークルに所属している僕にとってはうってつけの物じゃないか。

「具体的にどんな感情の物があるのですか?」「そうですね、人気の物だと喜び・悲しみなどですね。他にも、怒り・憐れみ・楽しみ・冷酷さ等様々な種類が御座います」便利な物だなぁ。折角だし、何か買っていくか。

「僕、演劇やってるんですけど、何がいいですかね?」「それでしたら、全種類入りの欲張りパックが良いかと。これならどれを食べても好きな時に全種類の感情を出す事が出来ます」

「では、それをお願いします。いくらですか?」「お買い上げ有難うございます。1800円になります。後、ご注意として暑い場所には保管しないで下さい。これは特殊な物で、冷暗な場所で保管しないと、昇華してしまうので」そういわれて、僕はお金を払い店を出た。

10日後は大事な屋外公演だ。街で一番大きい公園のステージでやることになっている。あの店でアレを買っておいてよかった。これで今回の公演も大成功間違いなしだ。

そして、今日が公演の日。僕は例の物をいくつか口に放り込み、間もなく公演が始まった。屋外は暑かったが、上手く演技をする事が出来、公演は大成功に終わった。

終わってから舞台裏で仲間達と休憩していると、どこからか熱気に満ち溢れた声が聞こえた。しかも、一人ではない。見にいくと、何十人もの人が熱気に満ち溢れている。

慌てて僕は1人の男性に「どうされましたか?」と聞くと、「分からない! でも何故か心の底からやる気が湧き出て来るような気がするんだ〜!」そうやって話を聞いていたら無線放送からこんな声が聞こえた。「只今、気温が35度をまわりました。熱中症にご注意下さい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

気分屋 カラ缶 @karakan0618

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ