限られた力で
シヨゥ
第1話
「どうして君はいつもそんなに余裕なんだい?」
海原を見つめる友達に問いかける。
「余裕に見えるのかい?」
「うん」
「そうか。全然余裕ではないんだけどな」
頭をかいてこちらに向き直る。
「そう見えているんだとしたら君は思い違いをしていると思う」
「そんなことあるものか。あれだけやることがあっても慌てない君に余裕がないわけない」
「なるほど。そう見えているのか。じゃあ聞くけど、僕はいつも怒られっぱなしじゃないかい?」
「それは……そうだね」
「要するに間に合ってないんだよ。怒られるほどに何もかも」
そう言ってまた海原の方を向く。
「間に合わせる気もないしね。それがぼくの限界。限界を超えてなにかをするなんてことはぼくにはできない。やることが移り変わる。その時点で出来上がったものがぼくの精一杯。それを見て怒るなら任せる方が悪い。そう思っているよ」
「なるほど」
「だから次から次へとやることが降ってきて、やることを選べない今のぼくは、人生で一番余裕がないと思っているんだ」
「だから思い違いなんだね」
「そういうこと」
「じゃあなんでこんなところで休憩しているんだい? この休憩時間も当てたらいいじゃないか」
「それこそぼくの心の限界だよ。怒られっぱなしで、やることは終わらずたまる一方。そんな頭がおかしくなりそうなときはこうやって海を見るんだ」
大きく深呼吸をした。
「世界が広いことを認識する。広い世界にはこんなぼくに適した場所があるのかもしれないと思い直す。そうすることで心を回復して、また怒られに行くんだよ」
そう言うや立ち上がる。
「ぼくは戻るよ。君は休んでいくといい。ここは良い場所だよ」
僕の肩を叩いて友達は去っていく。悲壮感が増したその顔から読み取れたのは諦めだった。
限られた力で シヨゥ @Shiyoxu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます