私が1番、好きだった人——3月14日——
久坂裕介
第1話
私は、精神障がい者である。統合失調症の陽性であり、幻聴が聞こえるタイプだ。障害者手帳もある。
6年前、私は、ある障がい者支援センターに通っていた。障がい者を雇用する会社を、探してもらうためだ。私は月曜日から金曜日まで通っていた。
会社で働くには、取りあえずセンター内で軽作業等をして、仕事に慣れた方が良いとセンターの職員に言われたからだ。
半年程そうしていると私は、市の福祉団体の職員である、Aさんと出会った。Aさんは妙齢で美人で優しく、私は一目ぼれをした。
ある日、Aさんは福祉団体が行う、障がい者のためのイベントの、パンフレットを持ってきていた。もちろん私は、それに参加をすることにした。
イベントの内容は忘れてしまった。しかし、そこでAさんが司会をして、テキパキとイベントを進行させるのを見て、ますます好きになった。
年が明けて1月になると、冬山を散策しよう、というイベントのパンフレットがきた。私はもちろん、それにも参加した。
山頂へ行くためにゴンドラに乗ると、なんとAさんと同じゴンドラになった。4人くらいで乗ったのだが、話がはずみ、私もAさんと少し話をすることが出来て嬉しかった。
山のふもとにあるレストランでも4人くらいで同じテーブルに座り、会話をしながら昼食を取った。私は、生姜焼き定食を食べた。やはり、それなりにAさんと話がはずんだ。
その後、イベントが終わり、マイクロバスで地元に戻った。マイクロバスから降りた私は、もっとAさんと話がしたいと思って、Aさんが降りてくるのを待った。Aさんが降りてくると緊張しながらも私は話しかけた。
「あの、Aさん……」
するとAさんは
「すみません、個別に話をしたりは出来ないので……」と足早に福祉団体に向かって歩き出した。
私は取りあえず家に戻りノートパソコンを起動させ、ユーチューブで初音ミクと巡音ルカの『magnet』の動画を見た。
そして2月14日、バレンタインデーを迎えた。私はAさんがセンターにきて、義理チョコでも配るのではないかと期待したが結局、Aさんは現れなかった。
私は、考えた。どうにかして私の気持ちを伝えられないかと。そこで3月14日のホワイトデーに、コンビニで買ったクッキーを渡すことにした。
ホワイトデーは男性が女性にクッキーを渡すのだから問題ないだろうと、勝手に決めた。
今、考えるとチョコも、もらっていないのに、お返しのクッキーを渡すのは、かなり強引だったと思う。しかし、その時の私は、何とかしてAさんと付き合いたいと思っていた。それで少し、暴走していたと思う。
Aさんがいる福祉団体の建物へ行くと、ちょうどAさんは受付にいた。私は早速、Aさんに
「日頃から、お世話になっているので、そのお礼です」と、クッキーを渡そうとした。
だが、
「個別には、そういう物はいただけないんです……」と、断られた。
ショックを受けている私の心情を察してかAさんは
「あなたとは、お友達でいたいんです……」と告げた。
私は、更にショックを受けた。友達でいたいということはつまり、付き合いたくはないということだ。
私はクッキーを手に取り
「失礼しました」と福祉団体の建物から出た。
それから家に帰り、しばらく、ぼーっとした。
今までも告白して振られたこともあったのだが、今回のショックは大きかった。「お友達でいたい」というのは、Aさんなりの譲歩であって、それに甘えて今までのように接するのは、悪いと思ったからだ。
このショックを紛らわせるため車で1時間ほど走り、ソープランドへ向かった。私は、愛は金で買えることを知っていた。
私の相手になったソープ嬢は結構、可愛い女性だった。
マットでのサービスが終わると私はソープ嬢の上になり、Aさんのことを考えながら腰を動かした。
射精した後、私はソープ嬢を後ろから抱きしめて、甘えた。ソープ嬢からは
「こんなことをするお客さん、あんまりいないよ~」と言われたが、私は構わず抱きしめ続けた。
その後、私は障がい者でも働ける会社で働き始めた。そして、センターと福祉団体とも関わらなくなった。
風のうわさでAさんは、転職したと聞いた。
迷惑かもしれないが私は今でも、Aさんの幸せを祈っている。
私が1番、好きだった人——3月14日—— 久坂裕介 @cbrate
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます