第97話 ドラーガわからせ棒
「どうです? 似合いますかね?」
「ああ? まあいいんじゃねえの?」
なんともやる気のないドラーガさんの声。私とクオスさんとクラリスさんはアパレルショップに入っていったドラーガさんとイリスウーフさんを店の外から遠眼鏡で覗いている。
食堂でイリスウーフさんの一人フードファイトが始まった時はどうなることかと思ったけど、なんか普通のデートっぽくなってきてるぞ。
イリスウーフさんの試着した服は普段の黒のドレスから打って変わってパステルカラーの水色のワンピース。正直言ってかなり可愛い。今まで黒髪に白い肌で黒いドレスだったから、なんとなくイリスウーフさんと言うとモノクロのイメージがあっただけにパッと華やかになった感じだ。こうしてみると随分と少女っぽく見える。
「うううう……ブティックデート……うら、うらやましい、クソ、あのアバズレめ……」
怖い怖い怖い、クオスさん顔が怖い。歯を食いしばりすぎて歯ぐきから血が出てる。気を落ちつけて。
「まあ、俺は女の服とかよく分からんから自分の好きなの選べ。奢ってやるからよ」
なんか妙にドラーガさん太っ腹だなあ、と思ったけどよくよく考えたらこの間竜の魔石を売り払った時も自分だけ大金貨二枚多く貰ってたし、フービエさんの報酬も自分だけもらってたから当然か。逆に腹が立ってきた。あれに比べたらこんなのはした金じゃん。
「私はドラーガが気に入ってくれるのを着たいんです」
イリスウーフさん凄い浮かれっぷりだなあ。それに比べてこっちは……
「ちょ、ちょっとクオスさん! 何弓に矢を番えてるんですか! 何する気ですか!!」
血の涙を流しながら弓に矢を番えようとしてるクオスさんを慌てて止める。この人ちょっと思いつめすぎじゃないの!?
「うう、私は……私はなんて浅ましいの……」
怒りの表情を浮かべてると思いきや今度は泣き出した。何だろうこれ、躁鬱?
「私、そんなにこの世界に多くは望んでいなかったはずなのに……最初はただ自分の存在を仲間に受け入れてもらえればそれで満足だったはずなのに。
一つ願いが叶えば、次が欲しくなる。今はドラーガさんを手に入れたくて仕方ない。自分がこんなに欲深い人間だったなんて……ううっ」
どうリアクションすりゃいいんだこれ。
「ちょ、ちょっと待っててクオス」
私が途方に暮れてるとクラリスさんが彼女の背負っていたかわいい手のひらサイズの小さいリュックを下ろして何かを中から取り出し始めた。何だろうこれは? 手紙?
「な、何か困ったことがあったらこれを開けて、って、あ、アンセに言われてたの」
ほほう、そんな秘密兵器が。クラリスさんは急いで手紙を広げてそれを音読し始めた。
「こ、この手紙を読んでいるということは、きっと私はもうこの世にいないでしょう……」
「えっ!? アンセさんの身に何が!!」
「いや、多分そこは一度書いてみたかっただけだと思うからスルーしましょう」
「く、クオス、メンタルの弱いあなたの事だから、も、もしかしたらドラーガとイリスウーフのデートを見せつけられることに耐えられないかもしれません」
こうなることが分かってたのか。まさにその通りになってますよ、アンセさん。
「あ、相手は女性、しかも超絶美少女のドラゴニュートの姫、あなたも美人だけど、性別という越えられない壁に打ちひしがれてるかもしれません」
まさにそうなんですよ。どうしたらいいんですかアンセさん。
「持ち味をイカせッ!!」
声でかっ! でも持ち味を活かせと言われてもいったいどうすればいいんだろう。イリスウーフさんになくてクオスさんにある物……長い耳とか? イヤそんな事じゃないよな。クオスさんの方が小柄だから、庇護欲を刺激するとかだろうか。
「そ、それは即ち……ち……ちん……ちん、の、事……よ……」
「破いていいですかねその手紙」
アンセさんに期待した私がバカだった。しかし声が小さくなって真っ赤な顔になりながらもクラリスさんは私にとられないように手紙を遠のけた。
「ま、待って、一応、一応最後まで読んでみよう。まだ何か書いてあるし」
ぶっちゃけて言ってこれ以上読んでも無駄な気がするけど、私は一旦引き下がった。
「ええと……あなたのその巨大なモノでドラーガを虜にする……残された道はそこにしかないわ……」
やっぱり無駄じゃないかなあ。
「あ、あなただけが持ってるその鬼こん棒で、ドラーガのメスイキ穴を開発してやれば、きっとドラーガももう女の体なんかじゃ満足できなくなるはずよ」
真昼間から何をやってるんだろう、私達は。ああ、いい天気だなあ。太陽がまぶしい。
「ぐ、具体的な方法を示すわ。前立腺の位置は膀胱のすぐ下、こ、骨盤の一番深い場所に位置し、そこを刺激するには直腸側から……ご、ごめん、やっぱりこの手紙破いた方がいいかも」
ですよね。
「待ってください!」
そう言ってクオスさんはクラリスさんから手紙を取り上げた。その眼差しは、先ほどまでの夢遊病患者のような力無いものではなく、確かに強い意思の光を感じ取ることができた。
「やはり……持つべきものは仲間……」
クオスさんは熱心に手紙に目を通している。
「アンセさん、あなたの死は無駄にはしません。必ず、無理やりにでもドラーガさんに私の良さを『わからせ』てやります」
勝手に殺すな。あと……もうこれ、どうしよう。ドラーガさんのお菊様がクオスさんに分からせられちゃうんだろうか。まあいいや。私悪くないもん。知ーらないっと。
お、そうこうしてるうちにドラーガさんがお店から出てきたぞ。イリスウーフさんはどうやら買ってもらったらしい水色の爽やかな色のワンピースを着ている。
クオスさんの方はと言うと、自分の優位性(?)を知ったためか先ほどよりは大分安定した状態で二人を見ている。大丈夫なんだろうかこれ。ドラーガさん内臓の位置とか変わっちゃうんじゃないかな。
「うふふ、ドラーガ、私今、すごく楽しいです」
「そりゃ何よりだ」
そんなことになってるとは露知らず、ドラーガさんとイリスウーフさんは暢気にデートを楽しんでいる。それにしても不思議だ。普段のドラーガさんなら仮にイリスウーフさんの方からデートに誘ったとしても、「なんでそんな面倒な事しなくちゃいけねえんだよ」とか言いそうなもんだけど、なんで今回はデートを受けたんだろうか。スケベ心だろうか。
「ドラーガの方から誘ってもらえるなんて思ってもみなかったわ」
「へいへい」
え!? ドラーガさんの方から誘ったの? これは意外。まさか本当にスケベ心? その時だった。ドラーガさん達を追って歩いていたクオスさんの足が急に止まった。どうしたんだろう?
「何者かが……つけてます」
え? 私たち以外に?
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