第96話 一人フードファイト
冷静に大脳辺縁系の底から記憶を掘り起こしてみる。
そうだ、思い出したぞ。
というかなんで今まで忘れていたんだ。“狂犬”ゾラとアンセさんとの決闘。あれは何をかけての決闘だったか。それこそがアルグスさんをトロフィーとした三角関係にケリをつけるためのゾラとアンセさんの決闘だったんじゃないか。
あまりにも綺麗な決着のつきかたしたからすっかり忘れていた。そもそもあれがアンセさんの意味不明な腐女子ムーブから発生したホモと腐女子の三角関係だったんだ。
そしてその決闘にアンセさんが勝利したという事は、今アンセさんとアルグスさんは付き合っているんだろうか?
おそらく答えはノーだ。
町へ買い物に行くことをアンセさんは「デート」と言い、アルグスさんは「買い出し」と言った。これは何を意味するのか。
すなわち、アンセさんはゾラとの決闘に勝利することでアルグスさんへの「告白する権利」を得たものの、しかし生来のチキンハートのため未だその「告白」は出来ておらず、ずるずると結論を先延ばしにしている、という事だろう。
「私は……」
そんなことを考えていると、アンセさんが口を開いた。
「このデートで、決めるつもりよ」
相手はそもそも「デート」だと思ってないんですけどそれは。
「だから、ドラーガ達の事はお願い。あなたの双肩に世界の命運がかかっているといっても過言じゃないわ」
しかもプレッシャーをかけていく始末。はぁ……まあしゃあないか。アンセさんのトンチキぶりも心配ではある。アルグスさんとうまくいって少しでも落ち着いてくれれば。
私はこの提案を承知することにした。
ということで、私とクオスさん、そしてクラリスさんの三人はドラーガさんを尾行し、アンセさんとアルグスさんは買い出し……まあ、デートに行くことになった。
「とはいうものの」
アジトの外に出て私は途方に暮れる。
「時間がかかり過ぎましたね。ドラーガさん達どこ行っちゃったんだろう。クオスさん、匂いで追えたりします?」
「無茶言わないでください。私の事犬かなんかだと思ってるんですか……」
そう言いながらもクオスさんは四つん這いになってふんふんと地面の匂いを嗅ぎだす。
「こっちです」
犬かなんかだコレ。
――――――――――――――――
「じゃあ、このページと、このページを……ええっと、どうしようかな、ダイエット中だからこのページはやめときます」
「…………」
無言になるドラーガさん。
相変わらずだなあ、イリスウーフさん。得意技のページ丸ごとオーダーが炸裂した。普段一緒に暮らしてる時は大分セーブしてるみたいだけど、今日はデートだからか、なんかハッスルした注文の仕方してるな。デートの時こそセーブするべきなんじゃないだろうか。
とにかく私達はドラーガさん達の後を尾行することに成功した。ちょうどお昼時だったこともあり、二人は街の食堂に入っていき、私達はさすがに店内に入るとバレてしまうのでお店の外からクオスさんの聴覚を頼りにスニーキングしている状態である。……私達もお腹すいたなあ。
「まあいいけどよ。最近実入りのいい仕事もあったしよ。ここは俺が奢ってやるから気にせず……」
おお、なんとドラーガさん奢るつもりのようだ。これは少し意外だった。
「じゃあやっぱりこのページもお願いします!」
もしかして普段一緒に食事してる時食事量をセーブしてるのは皆がいない時に外に食べに行ったりしてるんだろうか。そういえばイリスウーフさんの服、初めて会った時の竜言語魔法で作った黒いドレスをずっと着てるな。食費以外にお金使ってないのかも。エンゲル係数100%だ。
注文した料理が来てからはひたすら無言で咀嚼音が聞こえるのみだったらしい。なんなんだろう、コレ。確かデートの監視をしに来たはずなんだけど、イリスウーフさんの一人フードファイトが始まってしまった。
「くそっ、あのアマ。私だってドラーガさんに奢ってもらったことないのに!」
そしてなんだかよく分からない対抗心を燃やすクオスさん。ドラーガさんのリアクション見るに、多分そんなに差は開いてないと思うから安心していいと思いますよ。
「私ね、本当に嬉しかったんです」
クオスさんは今度は泣きながら語り始めた。この人本当に情緒不安定だなあ。何があっても揺らがないドラーガさんに憧れる気持ちも少し理解できる。
「アンセさんが私の恋を応援してくれるって言ってくれて、ドラーガさんが『私の性別なんか関係ない』って言ってくれて。本当にメッツァトルの仲間になれてよかったです」
なんかドラーガさんのセリフがどんどん美化されていってないだろうか。
「マッピさんは、どう思ってるんですか?」
おおう、私の方にターゲットが……いや、しかしこれは「私がドラーガさんに惚れてる」という誤解を解くいい機会なんじゃないのかな?
「私ももちろん、クオスさんの恋を応援してますよ!」
「クラリス先生は?」
「わ、私も応援してる! 弟子の恋なら当然応援する!」
……弟子になったの? しかしクオスさん、意外とアレだな、外堀を狡猾に埋めてくるタイプだな。ここで恋のライバル(だとクオスさんが勝手に思い込んでた)の私とクラリスさんを排除して味方につけたわけだ。
「そういやあお前よお……」
おっと、ドラーガさんが店から出てきた。あの量の食事をもう食べ終えたのか。
「アジトに来た時からずっとその服じゃねえか? 他の服はねえのかよ」
あ、やっぱりドラーガさんも気になってたんだ。
「せっかく町に来たんだから服でも買いに行くか。来い」
「あっ……」
うわマジか、ドラーガさん、イリスウーフさんと手を繋いだぞ!
イリスウーフさん、顔が真っ赤になってる。正直疑わしいと思ってたけど、イリスウーフさん本当にドラーガさんの事が好きなのかな。
「ど、ドラーガ……手を……」
「(俺が)迷子になったら困るだろ」
困るね。
「まあ、一応迷子にならないようにパンくずを撒きながら歩いてるけどな」
童話かお前は。ギャグで言ってるのか本気で言ってるのか判断に悩むよこの人。
「え? このパンくず食べちゃダメな奴だったんですか?」
イリスウーフさん、なんかアレだな。ちょくちょくドラーガさんを上回ってくるな。この二人、意外とお似合いなのかもしれない。クオスさんの歯ぎしりの音が耳に響く。
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